休日でも忙しいのは変わらない 3
さぁ、やってまいりました!本日のメインイベント、もとい最終目的地!ライヒ王国立図書館だ!
ライヒは王国名ではなく、この図書館を設立した当時の国王の名前らしい。
とまぁ、そんな細かいことはどうでもいい。
そう、図書館だ!ようやく来ることができたのだ!
昔から、詳しく言えば今から12年前、俺が転生して5年が過ぎたころからずっと図書館に行きたいと考えていた。
俺の父は読書家で父の書斎にはたくさんの本があった、おかげでいろいろと調べることができたのでとても感謝している。
だが、たとえ読書家であったとしても平民である以上買える本の数には限度がある。
それにこの世界の本は前世と比べてかなり価値が高い、たとえそれが紙であっても羊皮紙であっても変わらない。
そしてその本を買うのは他でもない父である以上、俺にとって必要なものであっても父にとってそうでないものは家になかった。
確かに転生してまだこの世界のことをよく知らない身である俺にとって、少しでも情報を得られる手段があったことは僥倖ではあった。
しかしこの世界に住む人たちにとって常識であることに関して一切知ることができなかった、それについて載っている本は家になかったから。
わざわざ知っていることについて書かれている本を買うようなことはないからな。
本がないなら誰かに直接聞けばいいと初めは考えたが、当時の俺はまだ人見知りが治っておらず俺が変な奴だと見られることを極端に嫌ってしまったため、結局12年もの間誰にも聞くことができなかった。
だがそれも今日で終わりだ、この先には俺の望むものを与えてくれる本が必ずある。
それがわかっているのだから、高揚し頬がつい緩んでしまうのも仕方のないことである、ふっふっふ。
早速、中に入るとしよう。
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当の図書館の外観は至ってシンプル、石の土台の上に木造の建物をのせたような外観だ。
入口に大きな両開きの扉があり、押して中に入ると図書館特有の香りが鼻腔を抜けた。
建物の木材からする微かな木の匂いと、羊皮紙とインクの独特な匂いが混ざった香りだ。
あまり図書館には行ったことがない俺だが、この香りは結構好きだ。
入口すぐは吹き抜けになっており、この建物が二階建てであることがわかった。
入ってすぐには長机と椅子があり、その奥に本棚が所狭しと並んでいる。
かなりの広さを持つこの図書館のうちの約四分の三は本棚であり、普通の紙の普及していないこの世界でこれだけの蔵書数があるとは驚いたものだ。
盗難とか大丈夫なのだろうか、少し心配になってくるな。
「ようこそ、ライヒ王国立図書館へ。来館証をお渡ししますのでお帰りの際に返却口へお願いします。」
「あ、ども。」
すぐ横のカウンターから眼鏡をかけた女性に、名刺のようなものを渡された。
これで日の来館者数を数えてるのか、裏には図書館を利用にあたっての注意事項が書かれている。
それによると、さっきのカウンターにいた人の他にも巡回の警護部隊の人がいるそうで、開館中ずっと見張っているから盗難はできないとのこと。
流石に防犯対策はちゃんとしてあるようだ、安心安全。
読みたい本はいろいろあるが……、どれからにするかな。
同系統の本が一列の本棚に並んであるのは前世と変わらない、左から順に見ていった時に目に入ったのが歴史の棚だったのでそこから探していこう。
背表紙をなぞるようにしてみていく、えーっと……。
お、これ良さそう。
タイトルは『世界の成り立ちと現在』、大雑把にわかればいいのでこれで十分だろう。
別の列に移動してまた本を探す、ここの列は図鑑がメインの様だ。
またなぞるようにしてみていると、『魔物大全集:王国周辺版』と言うものを見つけた。
そういえばルアの、刃狼のことについて俺はあまりよく知らない。
いい機会だし読んでみるか。
後は……、そういえばあれはあるかな?
いくつか該当しそうなジャンルの列を探してみると三つ目の列でようやく見つけた。
『魔法使いになるために:中級者用、上級者用』の二冊だ。
まさかこの本が一般教育の列にあるとは、初めは論文とかそういう所にあると思っていたんだが。
町で魔法を使っている人を見たことがないので、使える人は少ないと思っていたんだがどうやらそうでもないらしい。
コノ村で使えるのはプランさんと師匠くらいだし。
だが、この本があったのはかなり嬉しい。
初心者用のものでは載っている魔法の数が少なかったから、それぞれの模様にどういった効果があるかわかるものとそうでないものがあった。
範例が増えればより確実な効果がわかる上、新しい模様もあるだろう。
これでまたいろんな魔法が作れそうだ。
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まず『世界の成り立ちと現在』から読むとしよう。
パパッと必要な部分だけを流し読みしていく、細かい情報は今は必要ない。
本で読んで知るよりできれば直接見に行きたいからな、楽しみが減るのは避けたい。
数百ページあるものを数十分で読み終えてわかったことを白本にまとめる。
重要な情報は、大きく分けて二つ。
まず、この世界に存在する国の数と各国の特徴だ。
王国・公国・共和国・群国・連邦・帝国・軍国・閉鎖国と呼ばれる八つの国がある。
王国は読んで字のごとく、王制の国家だ。
公国は王国とは逆で民主主義国家のようだ、数十年前までは社会主義国だったらしい、ロシアかな?
共和国は国と言うより多民族集合体のようなもので、各民族が協力して一つの国のように作用している。
群国は島国でほとんど日本と変わらない国の様だ。
連邦は小国家の集まりで、形は共和国と似ている。
帝国は文字通り帝王制の国、領土拡大のために隣国の軍国と百年以上戦争が続いている。
軍国も文字通り国軍に心血を注いでいる国、こっちの国は領土がどうのと言うよりただ戦いたいだけみたいだ。
閉鎖国についてはほとんど情報がなかった、まぁ閉鎖国だしな。
次は世界の分布図、様は世界地図だ。
この世界は二つの大陸といくつかの島々に分かれていて、王国・公国・共和国のあるイスティミル大陸と連邦・帝国・軍国のあるヴェスタ大陸、間に群国のノズラント諸島と真南にある閉鎖国のサーズ島からなり、まるで円を描くかのように陸地ができている。
はるか昔にはすべての陸地が繋がっていたのでは、と書かれているがどうでもいいので本を閉じた。
うーん、今すぐ活用できるわけじゃないがいずれ世界を旅してみて回るときの方針を決めるのには役立ちそうだ。
次に『魔物大全集:王国周辺版』を開いた。
索引が後ろのページに載っていたのでそこから探したらすぐに見つかった。
刃狼のページを開く。
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名称:刃狼 討伐適正:R/B‐3 C/B‐5
生息地:メル雪山 体長:約1~3m
亜種個体:未発見
:詳細:
肉食。灰色の体毛を持ち狼の姿をした魔物。
基本5体以上の群れを作り行動する。尻尾は
風属性の魔力を持ち、それを巧みに扱うこと
で風の刃を放ち攻撃してくる。退避する場合
背後からの攻撃に注意が必要。ただし各個体
の身体能力は高くなく、近距離で対処するこ
とができれば難しい相手ではない。剥ぎ取れ
る素材は、防寒性の高い毛皮が取れる。肉は
食用には向かない。
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討伐適正の記号はRがランク、Cがクラスを表している。
その左の記号はA・B・Cの順に上・中・下級、数字はそのまま等級を意味している。
この場合だとランクは三等中級、クラスは五等中級ということになる。
この本の内容からいくつか疑問が浮かんだ、ルアとの相違点がいくつかあるのだ。
まずルアと初めてあった時、ルア以外に刃狼は一体しかいなかった。
そもそもこの町から南東にあるメル雪山が生息地であるなら、南西のケイス森林にはいないはずだ。
元々はメル雪山に住んでいたが、何らかの原因で移動してきたというのはありえなくない話だとは思うが、彼らは無傷だったし必要以上に殺気立っている様子もなかった。
であるならば、群れは初めから二匹で自分たちの意思で山を下りてきたことになる。
そして、ルアは三形態の変身ができるがこの本にはそれらしい記述はない。
出会った後すぐに戦闘になるから今まで確認されなかったと言う事はあるだろう。
新しい発見をしたと言うこともできるだろうが、なんとなくそれは違う気がする。
身体能力も体型に見合った力強さに、高い瞬発力を持っていた。
以上の事を踏まえると、もしかするとルアは亜種個体とやらなのかもしれない。
モンハ〇みたいだな、あれに狼型のモンスターがいたかどうかは覚えてないが。
最後は、『魔法使いになるために:中級者用、上級者用』だ、当初の目的にはなかったが俺の中でこれがメインになりつつある。
早速、開いて中を読んでいく。
中級の方には各有属性魔法が四つずつと無属性魔法が五つ、上級の方には各有属性魔法が三つずつと上級魔法についての記述に、各上級有属性魔法が三つずつ載っていた。
おぉ、上級魔法なんてものがあるのか。
内容からすると、属性ごとの長所や特徴が際立ったより強力な魔法のことを指すらしい。
書いてあるものは、火・水・風・光・闇の五つが爆破・氷雪・暴嵐・聖浄・暗黒と名前が変わって記載されている。
爆破とか氷雪とかだとどう変わっているかわかりやすそうだが、後半の三つに関しては想像ができない。
今すぐ試してみたい気持ちが沸き上がるが、ここは図書館だ。
それに魔法陣も改変しておかないといけない、逸る気持ちを抑えて白本に書き写していく。
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「あ゛あ゛ぁ゛、ようやく終わったぁ……。」
「そろそろ閉館時間です、取り出した本は元の場所に戻しておいてください。」
入口の方から受付の人の声が響いてきたのは、窓から差し込む光がすっかり赤橙色に代わってしまったころだった。
魔法陣を書き写してからずっと魔法陣の改変を行っていたのだが、いかんせん数が多いのと上級魔法の魔法陣が今までのものより複雑な仕組みになっていたせいで予想以上に時間がかかってしまったのだ。
五時間くらいかかっただろうか、ずっと座っていたので腰が痛い。
休日なのに体が休まっていないとは之如何に、自分が悪いんですけどね。
「もうこんな時間か、明日は中級に上がる昇進試験だったっけ?支障がでないといいんだが。」
本を元のところに戻しながら、明日のことを考える。
もし時間があれば魔法の研究がしたいところだが、何をするか俺はまだ聞いてない。
少し億劫になりつつ、宿への帰路につくのだった。
三連休だったのでもう一話くらい書けるかな?、と思っていたんですがそんな余裕はなかったです。
むしろ平日より忙しかった……。




