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転生したオタクゲーマーは異世界RPGを攻略する。  作者: シュトロム
第一章 転生編
25/60

謝罪と感謝

だいぶ遅れてしまったことお詫び申し上げます。

 ナナリーに連れられてガルートさんのいる支部統括者応対室へ行く道中、何人かの書類を抱えた人と通り過ぎた。

 前は誰も通らなかったが、今は多くの冒険者たちが押し寄せてきているのでいろいろと手続きとかがあるのだろう。

 大変だな、これが管理職?ってやつか。


 なんてことを考えていたらすぐに着いた、ナナリーがノックをして返事の後中に入る。

 一言で言えば、ヤクザの本拠地、だった。

 強面なガルートさんの両脇に見知らぬ人がおり、その二人は比較的普通の顔ぶれなのだが明らかにまとっているオーラが違った。

 悪い金融から借りた金を滞納した後返しに来たときはこんな感じなのかな、などとのんきに考えていられるのはその二人のオーラが俺ではなくガルートさんに向けられているからだ。


「早くしてくれよ、俺達にあまり時間がねぇんだ。」

「そうだ、今すぐにでも飛び出して始末せねばならんのだ、早うせぬか。」

「あぁ……。」


 なんか物騒なこと言ってるけど、まぁ俺は関係ないし大丈夫大丈夫。

 ガルートさんは二人にまともな応答をすることはなく、落ち着いた様子で書類仕事を進める。

 返事をしたので俺が来ていることはわかってはいるが、今は机に置かれている書類を処理することを優先したみたいだ。

 話をしている最中に横やりを入れられても困るので、俺もそれが落ち着くまでは待っていることとしよう。


 応対室に置いてあるソファに腰を下ろして待っていると、ナナリーが紙の束をもって俺のもとに来た。


「すみません、リュートさん。見ての通りギルマスは今書類整理で忙しいので、ちょっとだけ待っててくださいね。」

「あぁわかった。……なぁ、わかるならでいいんだが、ギルマスの両脇の人たちは誰?恰好からすると冒険者なんだろうけど。」

「あのお二人は、クラン:獣耳はいいぞ:の団長さんと副団長さんですね。」

「ゴフッ、なんだそのふざけたクラン名は。クランって大規模な冒険者の集まりだろ?いいのかよそれで。」


 いきなり、前世でどこかの誰かが言ってそうな言葉が出てきたから驚いたわ。

 思わず用意されてたお茶を噴き出したじゃないか、誰だこんな名前つけたの。

 本気でこの名前を考えたやつの顔が見たい。


「その認識で間違いないですよ、このクラン名は三十年前に当時現役の冒険者だった現ギルマスがつけたもの、と記されています。」


 あんたかよ!!

 あんたが初めてルアにあった時、ギルマスと言う立場でありながら魔物を生かす選択をしたのは、そういう趣味の持ち主だったからか。

 なるほど、っていうかそれをさも当然と言わんばかりに淡々と説明できるナナリーもナナリーだ。

 俺ならその資料を見た瞬間盛大に笑ってるぞ、間違いなく。

 そして、そんな名前のクランに所属するってことはつまり……。


「確かこのクランに所属している人はみんな、今リュートさんが考えているような方々です。」


 ジトーッとした目でギルマスたちの方を見ていたら、ナナリーに考えていることを読まれてしまった。

 まぁ流石にわかるよな、明らかに変な顔で見ていたと自分でもわかってる。


「そんなのでクランとして成り立つのかよ……。」

「それが意外なことに、所属する人たちはみなさん腕の立つ人ばかりなんですよ。副団長さんは三等、団長さんは二等中級冒険者なんですが、実力はもっと上だという話です。他の方々もランク以上の実力を持っている人が多いみたいですね。ただ受ける依頼が動物か獣人族が関わるものに偏ってるせいで、なかなかランクが上がる条件を満たせていないんですよ。」


 自分に正直なやつらだな、本能の赴くままに動きすぎじゃないか?

 でもそのクラン:獣耳はいいぞ:の団長と副団長の二人はここで何をやってるんだ?

 切羽詰まっているのがひしひしと伝わってくるんだが、獣耳関連で何かあったのか?


 ……いやあった。


「なぁ、もしかしなくてもあそこの二人があんなにも緊迫した雰囲気を醸し出してるのは、イデアが関わってたりする?」

「あ、あははは……。」


 ナナリーは明らかな苦笑いをしながら明後日の方向を向いた。

 なぜ今目をそらす、ちゃんとこっちを見るんだ。

 最近俺がかかわったことが大体面倒なことになるってわかっての反応だな。

 この世には逃げちゃいけないものがあるんだ、さぁこっちを見てちゃんと説明したまえ。

 じりじりと無言の圧力で追い詰める俺、だがそれは第三者の介入によって止められてしまった。


「おい、お前たち。見ての通り私は忙しいんだ、そっちにいる当事者のほうに話を聞いたほうがいいんじゃないか?」

「なにぃ!当事者だと!」

「少年、当事者とはどういうことだ。説明しろ!」


 ガルートさんの一言で同時に振り替える団長副団長の両名。

 ギルマス、俺のことを売ったな?

 恨めしい目でじっと見やると、チラッと見ただけで書類整理に戻った。

 この野郎、後で覚えとけよ。


「早う答えぬか少年!」

「そうだ、一体何者だ!」

「あぁもう、うるせぇな!ちゃんと説明してやるからそこに座って大人しく聞けぇ!!」


 ----------------------


 ワーワー喚き散らす二人を物理的な方法(殴打)で静かにした後、一からちゃんと説明した。

 一度静かにしたらちゃんと話を聞いてくれたので良かった。

 最悪途中で暴れだすかもしれないと思ってたから、特に初めに助けなかったところあたりで。

 全部話し終えたところで二人はそろって腕を組み何かを相談しているようだった。


「ふぅむ、なるほど……。団長殿、どう思う?」

「あぁ素質有りだな。」


 素質ってなんの?

 一部しか聞こえなかったからわからない。

 少し待っていると何らかの結論を得たのか俺のほうに向きなおった。


「よし、リュートと言ったな。どうだ?我らがクランに入る気はないか?」


 いきなり何言ってんだ、あんた。

 どこからそんな話になったんだよ。


「我らがクランは動物又は獣人族たちのために日々身を粉にして働く冒険者集団である。リュート殿の昨日の働きはまさに我らと同じ意思を持つ者の行動と認識した。さぁ、我らとともに世界中のありとあらゆる毛並みを守ろうではないか!」

「途中から壮大すぎて意味がわからん。それに俺はあんたらと違って動物とか獣人族に対して特別思いれがあるわけじゃない。」

「ではルアに関してはどうだ?」

「!!」


 痛いところを突かれた。

 俺がルアに対して思い入れがあるのは、ほかの冒険者が知っている。

 ということは、この二人が知っていてもおかしくない。

 周囲に憚らず可愛がりすぎたのが仇になったか。


「あの子はリュートが連れてきたそうではないか。今や我々のクラン内派閥の一角を担っているルア派の創設者と聞き及んでいるが?」

「ぐっ、確かに連れてきたのは俺だが、創設者になった覚えはない!」

「そうつれないことを言うでない。ナナリー殿とも懇意にしているのだろう、もはや我がクランの三大派閥のすべてに関わっているではないか。まだ冒険者になって間もないというのに、なかなかの逸材だ。ぜひ我がクランに!」

「しつこいぞ!ってか、三大派閥ってイデアとナナリーとルアでできてるのか?そのこと、ルアはともかく他二人はどう思ってるんだ?」


 チラッと横目にナナリーを見たら、驚愕の表情とともに赤面しわなわなと手を震わせえていた。

 これ知らなかったパターンのやつだ。

 そしてそれを見て満足げにうなづく二人、こいつらわざとやったな。


「…ナナリー、ドンマイ。」


 俺にはそう声をかけてやることしかできなかった。


 ----------------------


「おいお前たち、そろそろ出発の時間だろう。他の団員も待っているはずだ、早く行ってこい。」

「「はっ、しまった。」」


 入らせる気満々の二人と入る気の全くない俺との言い争いがしばらく続くと、ようやく書類整理が終わったギルマスが追い払ってくれた。

 と言っても途中からナナリーを遠回しに褒めて反応を楽しんでいるあたり、つくづく変態だなと思った。


「フシュウゥゥゥ……。」


 当のナナリーは褒められるのに慣れていないのか、かなりの気力を使ってしまったらしい。

 今はそっとしといてやろう、時間が経てば元に戻るはずだ。


 それよりも、ギルマスから話を聞くことが先決だ。


「待たせてしまったな。ナナリー君から少しは話を聞いていたようだが、改めて聞きたいことはあるかね?」

「まず、朝からあんなにたくさん冒険者が集まってるのはなんでだ?いつもはほとんどいないはずだ。」

「ほかのクランの者もいるが、今朝集まっていたのは先ほどまでここにいたクラン:獣耳はいいぞ:の団員たちがほとんどだ。理由は大規模掃討作戦のためだな。」

「掃討?何を?」

「昨日の事件で捕えられた者たちを尋問すると、ある大きな裏組織の情報を掴んだ。その組織は多くの奴隷商人が在籍しているらしく、獣人族のほかにも多数の人々が誘拐されていることが判明した。警護部隊と連携を取り、私たちは人身売買が行われる前に組織を壊滅させようとしているわけだ。」


 それであんなにもたくさんの冒険者が集まったのか、すごいな。


「でもなんでそのクランの団員達が多いんだ?」

「それはお前がギルドに救出要請をしたことが原因だな。昨日の事件はまさに誘拐事件だったわけだが、それを聞いたイデア派を筆頭とする団員たちが激怒。口伝で話は広まり、騒ぎになったということだ。」

「なるほど、大体の事情は分かった。」

「うむ、それでお前は参加するのか?」


 うーん、迷うな。

 さっきの二人につかまるかもしれないが貴重な経験ができそうでもある。


「……いや、俺はいいや。今日はかなりの人が出計らうみたいだから、依頼を受ける人が減るだろ?その分俺はたくさん受けられるし、早く位階を上げたいからちょうどいいし。」

「そうか。ほかには何かあるか?」

「イデアは大丈夫だったのか?」

「特に心的外傷があるわけではなさそうだ、彼女自身も問題ないと言っていたから夕方には自由にするつもりだ。」

「そうか。いろいろ迷惑をかけた、すまん。それと協力してくれてありがとう。ギルマスの許可があったから大きな問題もなく終わることができた。」

「私はギルドを、この街をよりよくするために行動しただけだ。だが気持ちは受け取っておこう。」


 ギルマスにお礼を言えたし話を聞くこともできた、互いに仕事に戻るために俺は応対室をでた。


 ----------------------


 夕方、いつもより多くの依頼を受けることができ今日だけで一級にランクアップした。

 ピンの形もかなり凝ったものになっている、太陽をモチーフにした円形の金属がピンの先についている感じだ。

 正直二級と三級はつけていた時間が短かったのでどんな形か覚えていない、これを作った職人には申し訳ないと思っている。

 昨日の事件の印象が強いがちゃっかり三級に上がっていたので、一気に三ランク上がった気分だ。

 中級になるには十日ぐらいかかると思っていたんだが、これならもっと早く上がれそうだな。

 もうすぐ中級ということは、依頼の幅が格段に広がるということだ。

 初級だと魔物の生態調査はあるが討伐依頼はないし、遠出する依頼もないので正直退屈し始めていたところだった。

 中級になってようやくギルドからの信頼を確立できるのだろう。

 それに中級に上がるには試験もあるようだし、ちょっと楽しみだったりする。

 ただ最近ずっと働きづめだし、明日は休みにしてのんびり過ごすとするか。

 人間っていう生き物は休息無くして生きていけない、ってね。


 手を組んで伸びをしながら、明日の予定を考えつつ歩いていると前方に見たことのある人影が。

 透き通るような白い長髪に特徴的な同じ色の耳と尻尾、それを引きたてつつも冒険者としての動きやすさもありそうなまさに機能美に優れた服装、そして背中にある自身をも超えるサイズの大剣。


「あれは、もしかしなくてもイデアか。あんなところで何してるんだ?」


 周囲を見渡すようにしているから何かを探しているようだ。


 いや待て、もしイデアが何かを探してるんだとしたら、それって俺じゃないか?

 昨日の事件があっての今日だし、恥ずかしいことした覚えもある。

 捜しているのが人ならまず間違いない、だがまだ依頼を受けているという可能性もなくはない、かな?


「「あっ。」


 でもその線は薄そうだ、いやもはやない。

 今ばっちり目が合った、と思ったと同時にものすごい速度でこっちにダッシュしてきた。

 くっ、逃げるわけにはいかないか、俺も言わなきゃならないことがあるからな。

 その過程でいろいろ言われるということは百も承知だ、だがそれでもけじめとしてこれだけは言っておかなければ。


 イデアは猛烈な速度でこちらに向かってきたが俺の目の前でピタッと止まった、この世界の物理法則どうなってんだ。

 かなりの勢いで走ってきたのにギリギリでブレーキを掛けるとか、追突するんじゃないかと思っただろ。

 常識外れ過ぎる、怖いのでやめていただきたい。

 ただ周りの人には少し風が吹いた程度の影響しか与えていない、これが膨大な魔力がなせる業か。

 まともに扱えていないみたいだから、無意識になんだろうけど。


「やっと見つけた!ずっと探してたんだよ?」

「ぉぉお、そうなのか?お疲れと言っておこう。」


 夕方に自由にするとギルマスからは聞いた、もう半分くらい日は沈んでしまっているのでだいたい一時間くらい前だろうか。

 ということはその間ずっと俺を探していたことになる。


「……あれだ、探してた事とか昨日の事とかも含めて、いろいろ迷惑かけた。本当にすまなかった。」


 俺は謝罪し頭を下げた。

 イデアは少し面食らった様な顔をしたが、すぐに優しい笑顔を向けてくれた。


「ううん、全然気にしてないよ。昨日も私が助かったのはリュートのおかげなんだよね?私が感謝することはあっても、リュートが謝ることはないよ。」

「いや、違うんだ。確かに助けたのは俺だけど…。」


 俺はイデアに昨日起こったことを俺の目線から話した、俺が最初にイデアを見つけた時から全て。

 初めは何の話をしているんだ?といった表情をしていたイデアだったが、途中で俺がこの話をしている意図がわかったのか何も言わず最後まで聞いてくれた。


「ぷっ、ふふ、あははっ。」


 そして俺が話し終えた途端に、吹き出すようにして笑い出した。


「……今の話に笑うところなんてあったか?」

「いや、そうじゃなくてね。リュートって意外と真面目だったんだなって。」

「俺そんな不真面目そうに見えるかな……。」


 非常に不服だ、確かに俺の人相は根暗と言うかなんというか。

 でもそこまでひねくれているような感じはないはずだ。

 いや、そうじゃなくてさ。


「怒らないのか?実質的には俺も共犯と言われてもおかしくないことをしたんだぞ?」

「怒らないよ、ちゃんと話してくれたから。」


 と、本人は言っているがそんなに簡単に許されていいものだろうか。

 ダメだ、こういうときに限って前世の思考が先に出てきてしまう。


「むぅ、なんでそんな困った顔するの?」

「なんというか、自分で自分が許せないんだと思う。別に罰してほしいわけじゃないんだが、納得がいかない感じかな。加害者側がなに言ってるんだろうな。」

「リュートは気にしすぎだよ……。私ね、リュートがその、抱きしめてくれたとき、嬉しかったんだ。」


 いきなりなに言ってんだこの人、自分で言っていて恥ずかしくないのだろうか。

 できればその話はやめてほしいんだが、俺が恥ずかしい。

 ん?よく見るとイデアの尻尾、ブンブンしてるな。

 ……わかりやすい、顔も若干火照ってきてる。


「あの時すごく怖くて、不安で、我慢してたのに泣いちゃって。でも抱き締められたらすごく安心して、あったかくて。私は一人で冒険者としてやってきたから、きっと助けなんて来ないんだろうなって思ってた。そんな時に、天井を突き破って現れて助けに来てくれた。優しく声をかけてくれた。私が泣き止むまでずっとそばにいてくれた。だから私はリュートに感謝してるの、怒ってなんかない。リュートは私を救ってくれた恩人だもん!」

「そうか……。」


 イデアは満面の笑みで感謝の気持ちを伝えてくれた、多分イデアはこのことをわざわざ俺に伝えるために探していたんじゃないだろうか。

 もしそうでなくても、俺はその言葉が聞けて良かったと思う。


 昨日の事件はいろいろな偶然が重なって起こったことだと今になって思う。

 イデアがおっさんズに目をつけられたこと、イデアが俺を尾行していたこと、この二つは俺が原因でイデアが行動に移したことだ。

 そのせいで昨日の事件が起こったんだと考えることができる。

 付け加えて言うなら昨日の事件は未然に防ぐことが可能だった、俺があの時イデアを助けてさえいれば。


 だから俺にはちゃんと謝罪する責任があると思った、イデアを助けたのも一度見逃してしまったことの罪滅ぼしだ。

 見逃してしまったのは、前世の知識から大事になってしまうのを防ぐために、行動する前に深く考え直すというこの世界で身に付けた癖のせいだった。

 助けたのは、俺が前世から引き継いでいる記憶と精神が築いている倫理観が働いた結果だ。


 俺の行動が全てこの事件を起こしたきっかけだったと言えるだろう。

 だが、俺の行動はそれだけじゃなく誰かの助けにもなっていた。

 俺は贖罪のためだなんだとは考えていた、俺の責任だから自分でケリをつけるのは当たり前だと。

 たとえそうだったとしても、誰かを助けてその誰かからお礼を言われてもそれは俺に言うべきではないとするのは、相手に対しても自分に対しても失礼じゃないだろうか。


 事件は起こってしまった、それは帰ることのできない事実だ。

 それでも最悪の事態にはなっていない、むしろことが起こってしまった上で考えるなら最上の結末だったかもしれない。

 そのどちらも俺の行動があったから、どちらの行動も次に生かす経験になる。

 今回の事はもうどう変えることもできない、でもこの経験があったからこそ未来の誰かを助ける礎になるかもしれない。

 そう考えたら自分で自分が許せるような気がした。


「ありがとう、イデア。その言葉が聞けてだけで俺も救われた気がする。」

「うん!だ、だからこれはお礼!」

「……え?」


 イデアは一歩前へ、俺の方へと進んだ。

 夕方の大通り、人通りの多い時間帯だということを考えてそれなりに近い距離で会話をしていた。

 人一人が間に入れるかどうか、たった一歩進んでしまえばぶつかってしまうかもしれない距離だ。

 それに俺とイデアの身長差は数センチ程度、ちょっと背伸びをすれば追い抜かれるくらいの差だ。

 この至近距離、身長差、一歩前進、この三点から導き出される答えは?



 頬に柔らかな感触の何かが触れた気がした。



「!!?」

「えへへ、ほっぺにキスしちゃった。」


 あまりにも唐突なイデアの行動で、俺は頭の中が真っ白になって現状が把握しきれなくなっていた。

 身体全身が、特に顔が熱い、血液がいつもより早く循環しているのがわかる。

 だが思考はうまくまとまらない、疑問が頭の中を埋め尽くして答えがでない。

 冷静になればわかることなのにいつもの落ち着きを取り戻せない。

 前世も含めて一度も経験したことがない感情の波が、俺の心をかき乱して止まない。

 そんな状態でまともに動けるわけがない。

 身体が硬直したまま、という事は視線もそのまま、イデアの方を見続けたままになる。

 それが余計に頭を混乱させて、どんどん思考の海におぼれていく。


「何かあったら相談してね。先輩として必ず力になるから。それじゃ!」

「……へ?あ、ちょっ!?」


 そのせいで全然話は聞いてなかったし、イデアが颯爽と去っていくのを眺めているだけだった。

 ただ覚えているのは、イデアも顔を赤くしていたのと耳と尻尾は千切れんばかりに激しく動いていた。

 自分でしておきながら恥ずかしかったならしなければよかったのにと思いつつも、不思議と悪い気はしないことに少し戸惑いもしたが、考えるのはもうやめることにした。

 なぜだろう、深く考えたら負けな気がする。

 このことは頭の片隅に追いやっておこう、俺の心の安寧のために。

これで第一章終了となります。


次は第二章:修行編です、リュートが新しい魔法を覚えたり、戦い方を学んだり、イデアと何やかんやあったりします。

それに合わせて新キャラも登場する予定ですので、お楽しみに。


投稿ペースの件ですがいまだ忙しい日々が続いているのでかなりまばらになってしまうと思いますが、これからもよろしくお願いします。

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