一晩明けて
今回はちょっと短いです。
リアルの方がちょっと忙しくて…。
朝、少しづつ見慣れてきた宿の天井が見える。
昨日はずいぶん遅くに寝たから身体の疲れがまだ残ってるな。
伸びをして少し体をほぐす、このくらいなら大して支障はないかな?
昨晩の事情聴取は思いのほか長かった、と言うのも未然に防ぐことが出来たのに動かなかったことについて根掘り葉掘り聞かれたからだ。
実はあいつらの仲間だったが仲違いしたんじゃないか、だから知ってたんじゃないかとかなり疑り深くて、かなりの時間がかかってしまった。
今回のことでいろいろと気づいた。
この世界は前世に負けず劣らずの法や保険などの制度があるということ、そしてこれらの発展の原因となるほどの悪意が蔓延っているということ。
俺のイメージではあるが冒険者は自己責任の面が強いと思っていたが、イデアの精神面を鑑みて迅速な対応をした警護部隊は少し意外だった。
そういうところ、もっとずぼらな感じだと思っていた、でもちゃんとしている分には文句どころか感謝したい。
それから聴取の時に聞かされた今回の事件の詳細から、捕まった奴らの身元が判明。
そこからわかったのが、現場がスラム街であったにもかかわらずそこに住む人たちは一切関与していなかったということだ。
おっさんズこと冒険者パ-ティ一組、中小商人数名、木っ端貴族数名、町議員数名と表立った職業に就いている者達で構成された中規模組織で、あの場にはいなかったが奴隷商人も数名仲介として係わっていたとかなんとか。
俺の聴取が終わった後に聞き込み調査が行われた、いきなりファンタジー感どこかに飛んで行ったな。
それに俺も参加する、いやさせられることになった。
他方に迷惑かけたんだからそのくらいは手伝え、とはギルマスのガルートさんに言われたこと。
まぁ勝手に魔物のルアを連れだしたり、知り合いの冒険者の人に協力してもらったりと色々したからね。
警護部隊の人だけでは一部ではあってもスラム街の住人全員に話を聞けるわけじゃないし、いきなり襲われたとき用の戦力としては役に立てる。
で、いろいろ聞いて回ったが大した情報もなく、本当に何も関わってないということが改めて証明された。
警護部隊の人は最初から疑っていなかったようだった、俺も話を聞いている途中でそう思った。
ここに住む人たちはみんな優しい、それこそあの外道どもの数十倍くらい。
なんでそんな人たちがここに住んでいるんだろうと疑問に思っていると、警護部隊の俺の事情聴取をした人が教えてくれた。
「ここの住人はほとんどが元冒険者なんだが、みな何かを失ってここにいる。仲間や家族、自分の体の一部のやつもいる。誰かのために頑張ることができなくなった者達が生きる場所がここだ。」
「本当にそうだったらもっと退廃してるんじゃないのか?それこそ生きるためならなんだってやるくらいには。」
「それは何もかも失ったやつだな、ここのやつらはそこまで落ちちゃいない。人間って生き物は本当にどうしようもなくても、なにか一つだけでも残ってるものがあったらそれを全力で守ろうとする生き物なんだよ。まぁまだまだ若いお前さんにはわかんねぇことかもしれねぇけどな。」
そう言って笑いながら立ち去っていった。
前世も含めて約三十五年、外観の倍以上の人生経験を持っている俺だが精神年齢は全く成長していないということか、あの人が言ったことはあまりよくわからなかった。
別段難しいことは言ってないが自分の中で上手く処理できない感じだ、年の功ってやつが必要なのだろうか。
まぁわからないことを考えてもどうせわからないままだ、いつかこの時のことを理解できる日が来るだろう、多分。
と、こんな感じになんだかんだあった。
とりあえず一件落着したし、今日も冒険者業に勤しみますか。
サクッと準備を済ませてギルドへ向かった。
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「この荷物そっちに運んどいて、あと受付の人員も追加で!」
「説明分担とか早めに分けておいてくれ、こっちは手一杯でそっちに行けなそうだ。」
「第二会議室で説明を行いますので7番から12番のパーティに当てられた方はこちらに集まってください。」
ギルドに着いたがいつもと様相が違った、冒険者の数がいつもより多いのだ、特に男。
それに職員も今までに見ない数が動いていて、全員忙しそうにしている。
なんだ?何かあったのか?
誰かに事情を聞こうにも空気がピリピリしているから聞きづらいし、特別仲のいい人はナナリーくらいだし…。
「わふっ。」
どうしようか迷っていたら、人じゃなかったけど声をかけられた。
「お、ルア。昨日はありがとな、お礼にいっぱい撫でてやろう。」
「わんわん!」
「よしよし。……なぁ、なんでみんな忙しそうにしてるかわかるか。」
「わふ?」
なんですか?僕何かしました?と言いたげに首を傾げるルア。
ふふ、愛いやつめ、もっと撫でてやろう。
お前に聞いてもわからないよな、どうしようか…。
「あ、リュートさん!おはようございます。」
「ん?ぉおナナリー、ちょうどいいところに。」
悩んでいるときにいいタイミングで現れたナナリー。
ゲームのお助けキャラとしてのポジションは安泰だな、流石だ。
「昨日はありがとな、他の冒険者とギルマスに話をつけてもらったおかげで何とかなった。」
「いえいえ!私が声をかけたのはギルマスにだけですよ?その後のことは全部ギルマスの指示でしたし、私は何もやってないです。」
「それでも初めに手を貸してくれたのはナナリーだ、心の底から感謝してる。今度何かお礼させてくれ。」
「私は当然のことをしただけですよ!……でもありがたく受け取っておきます。それでここで何をなさっていたんですか?」
「今日は人が多いしみんな忙しそうなのが不思議でさ、何かあったのか?」
「あ、そうでした!リュートさん、ギルマスがお待ちです。この騒ぎについても全部説明してくれると思います!」
またお呼び出しだそうです、冒険者になって日も浅いのに二回もギルマスに呼ばれるなんて俺くらいのものだろう。
でも好都合だ、ギルマスにもお礼は言っておきたかったし一番情報が入ってきていそうな人から話を聞けるんだ。
これほど信頼できる情報源はないだろう。
俺はギルマスの待つ支部統括者応対室に足を運んだ。




