まさかの展開
刃狼のルアの扱いは思いのほか好待遇だ。
ギルド内でしか行動はできないが、食事も寝床もいいところを作ってもらったようだ。
一応飼い主?は俺になった、まぁそりゃそうだよな。
本部の方に連絡をしたところ、一定期間監視を続け不審な点や危険性がないと判断されたら、俺のもとにくるようになっている。
いつになるかはわからないが、その時は全力で可愛がってやるつもりだ。
それにギルドに行けば会えるわけだし、大した差はないと思う。
そんなこんながあったが、俺は常設依頼の達成を報告した。
これで俺もちゃんとした冒険者の仲間入りってわけだ。
ナナリーに印となるピンを貰った、早く外套を買ってつけておかないとな。
今の服につけるとダメなわけじゃないが服を洗うときにいちいち取り外すのは面倒だ。
ピンは下位を示す白色、形はシンプルな一本型で五等を示す。
まさに一番下の階級だな、いつかは上位冒険者になってやる。
ガルートさんに目玉が飛び出るくらいびっくりさせてやるって言ったし、最速最年少でトップになってやろう。
最終目標のほかにもこういったサブクエスト的な目標があると飽きずに頑張れる気がする。
冒険者になったということで、もろもろの説明を受けた。
まず、階級説明。
これはガルートさんに聞いていたのとほとんど同じだった。
追加情報で特別賞与ランク・クラスってのがあるらしい。
例えば、今まで誰も成し遂げなかったことをした人や、この世界にある遺跡やダンジョンといった過去の建造物の発見などの功績を残した人がこの賞与とその証を貰えるらしい。
証はランクやクラスに使われている色や形は使われていないので、その人の功績が周りの人からわかりやすくなっている。
わざわざそうしたのは他の冒険者の向上心を煽って、実力を伸ばそうとするように焚き付けるのに役立てているんだとか、抜け目ないな。
今まで誰も成し遂げなかったとかアバウトすぎる気がしたが、細かいことは気にするなってことかな。
それよりもダンジョンだ、あるとは思ってたがこうして人から話を聞くと好奇心がわいてくるな。
既探索済みのものや探索完了済みのものは自由に出入りができるので一度近くのダンジョンに行ってみたいものだ。
次に、階級の上げ方。
そもそも階級とは等級と位階を合わせたもので、等級は依頼を達成することで上げられる。
細かく言うと、依頼達成数と階級依頼の達成。
階級依頼は、その人またはパーティが受けられる最高難易度の依頼を指す。
つまりは依頼にも階級が存在して適性の難易度の依頼を達成しろってことだな。
階級依頼はどの階級でも五つ以上達成すればいい、数が変化するのは依頼達成数の条件の方だ。
俺の今いる最底辺の階級を上げるために必要な依頼達成数は五つ、階級依頼分ってことになる。
と言っても今の俺の階級では受けられる依頼が階級依頼と常設依頼だけなんだがな。
階級依頼は受けられる最大ランク・クラスの者がつけているピン・スカーフの色・形・模様がされている。
ちなみに常設依頼には難易度設定がないので、見習いだろうが誰であれ受けることができる。
そして位階は等級が一等のものがギルドの提示する試練と称した高難易度の依頼を達成することで上げられる。
下位・中位・上位、この三つの間にある差はかなり大きい。
階級で考えてみるとわかりやすいかもしれない、例えば五等中位冒険者一人と一等下位冒険者の六人組パーティだと前者のほうが強い、もちろん後者のパーティのクラスが中位以上でないならの話だが。
ランクとクラス、等級と位階、これらの要素が一個人の強さを判断するのに使えるかといえば、そうではないのが現実だ。
どちらかというとこれは依頼を受けるための信頼と実績を証明するものだと考えるべきだろう。
その次に、依頼の種類について。
前述や以前話したことがあるものも含めて、いくつかの依頼の名称と詳細を教えてもらった。
常設依頼、俺が初めて受けた依頼で冒険者登録をした者であれば誰にでも受けられる依頼だ。
通常依頼、ギルドに個人・企業・国家から依頼されたものを指す。
それらはギルド側が検討会を開き適切な必要階級や報酬を設定し、それぞれ本部から最も適したギルド支部へと回される。
階級依頼はこれの一種、各々の階級によって依頼は変わるが大きくとらえればすべて通常依頼と言える。
緊急依頼、ギルドが出す依頼で特別理由がなければ発布されたギルドにいる冒険者全員が強制的に受けさせられる依頼だ。
この依頼が発布されることは滅多になく、それこそ町が滅ぶような危機が迫っている時くらいのものだろう。
指定依頼、之も通常依頼の一種ではあるがいくつかの特別な条件が有効となっている依頼だ。
階級は問わず各人の能力が一定値を超えている場合受理できるものや、指名される様なもの、無作為に強制参加させられたりと多種多様だ。
知名度が上がればこういったものの依頼が増えていくんだろうけど、今の俺には関係ない。
最後に、パーティのこと。
パーティはギルドに申請したものを正規パーティ、ダンジョンなどで臨時的にその場限りで作られたものを非正規パーティと呼ぶ。
正規パーティのメリットは、クラスが存在するので自分のランクが低くともパーティでなら受けられるようになる依頼があったり、報酬が人数分貰えたりする。
だが、メンバーが一人でも別の依頼を受けている場合、パーティとしての依頼が受けられなくなったり非正規パーティを作るのに制限がかかったりする。
一方、非正規パーティのメリットはいつでも作成・解散ができ緊急時での対応などに役立つことと、即席ではあるが戦力の補強ができることだ。
ただし、非正規パーティで受けた依頼では貰える報酬は一人分で、クラスも存在しないためメンバー全員が受けられる依頼しか受理できない。
知っていて損はない情報だが、知り合いの少ない俺にとっては今聞かなくても大丈夫な話だ。
ぼっちじゃないぞ、断じて。
この日は午前中に常設依頼をこなし、午後はルアの件やこれらの説明を聞いて一日が過ぎていった。
夜、宿に帰って自室のベッドで地図を広げ、明日のことについて考えながら眠った。
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翌日、いつもより早く起きた俺は予定通りギルドに赴いた。
ギルドに着くや否や依頼の張ってある掲示板を見に行く、掲示板は三つ置いてありそれぞれ位階別に張られている、俺が今見ているのは下位の依頼が張ってある掲示板だ。
依頼は日が昇り始めるころに更新されるので、今目の前にあるのですべてだろう。
下から上へ上がるにつれて難易度と必要等級が上がっていく、俺はまだ最下段のところからしか依頼を受けられない、それでも沢山の依頼が所狭しと張ってあるあたり冒険者の需要は高いといっていいのだろう。
より取り見取りとまではいかないがかなりたくさんの種類がある依頼を俺はしっかり確認しながら数枚の依頼を選び取っていく。
じっくりと吟味し地図と見比べながら選び取った五枚の依頼書、内容を簡略化するとこんな感じだ。
『大工からの依頼:人手の補充。力仕事のできる者を求む。報酬:5ブロズ』
『調合士の依頼:ケイスの森で朝花草を十五個採取し届ける。報酬:3ブロズ』
『木工士からの依頼:ケイスの森で規定サイズの枝を三十本採取し届ける。報酬:3ブロズ』
『町の道場からの依頼:交流戦がしたいので武道の心得のあるものを求む。報酬:5ブロズ』
『医療所からの依頼:薬の素材となる明水草を五個採取し届ける。報酬:7ブロズ』
我ながら完璧な組み合わせだと思う。
これらの依頼を選んだのは、最速で終わらせられるからだ。
俺がいろいろ書きこんだ地図を見ればわかるがこの五つの依頼を受ける場所・行く必要のある場所が全て一筆書きで行くことができるようになっている。
これこそ前世の某同人誌即売会で培った技だ。
自慢できるほどじゃないが、一般人よりは地図を読む速さと方向感覚には長けていると思う。
結果は上々だった。
全ての依頼を達成するのに、あわせて三時間くらいしかかからなかった。
採取依頼は全て植物だったので、コノ村に住む植物のことなら何でも知っているプランさんにほとんど教えてもらったから、よく群生しているところや採るときの注意点などは網羅している。
拍子抜けするくらい簡単なお仕事だった、最下位の階級だからそんなものなんだろう。
残り二つの依頼も書かれた内容から想像するほどきつい仕事でもなかった、俺以外にも冒険者と思わしき人がいたことと同じ内容でも階級の場所が違うところに貼ってあったものを見たので、それによってさせることが違うのかもしれない。
その分報酬も高いんだろうけど今の俺には受けられないし、それよりも早く階級を上げていくことに専念しよう。
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俺は達成報告をするためにギルドに向かっていた。
帰りは特に寄るようなところもないので地図の未記入の場所を通っていこうと思い、いつもとは違う道を歩いていた。
見慣れない道なのでゆっくり向かっていたことと地図に書き込みながら歩いていたことが相まって、のんびりと散策していた。
今となっては、そのせいでこんなめんどくさいことに巻き込まれていると考えると、少し後悔してしまった。
ことの発端は、俺が昼飯を買っていこうと屋台を探していたときだった。
いきなり道の真ん中から怒声が聞こえてきたのだ。
「おい、どこ見て歩いてんだてめぇ!」
「い、いや、ぶつかってきたのはそっちじゃないか…。」
「あぁん?なんか言ったかオラァ。」
ガラの悪そうな、いや明らかに悪い集団に囲まれている男女ペアの冒険者カップル。
んん?よく見たらあの柄の悪い連中は、俺をたかってきた外道パーティおっさんズ(仮称)じゃないか。
なにやってんだあいつら、こんな人目の付くところで騒ぎを起こせば困ることになるのはそっちだろうに。
人の印象を悪くして自分たちの立場を危うくするのに利点なんてないはずだが。
そういう性分なら仕方がない。、制裁を受けるがいいさ。
……でも助けてやる義理もないんだよなぁ。
逆に俺が今出て行ってしまうと余計怒らせそうな気がするし。
ああは思ったものの、心苦しいがここはスルーさせてもらおう。
できるだけあいつらの視界に入らないように気配も殺しつつ移動する。
周りに人はたくさんいるし難なくやり過ごせそうだ、と思っていたが。
「ぐぉおあ!」
「!?どうし、ごはぁぁあ!」
「んだてめぇは、そこをどけ!」
おっさんズの叫び声が聞こえた。
ぱっと振り返るが、人込みで何も見えない。
何とかかき分けてようやく視界が開けると、おっさんズは地面に倒れていた。
原因は明白、おっさんズの叫び声から第三者が介入したということ。
その第三者は囲まれていたペアのもとにあった。
「大丈夫?」
小首を傾げて聞くのは、白い美少女だった。
ようやくメインヒロインの登場です。
思いの外長くなってしまったなぁ。
完全に作者の趣味ダダ漏れなので、ご理解の上温かく見守ってください。




