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転生したオタクゲーマーは異世界RPGを攻略する。  作者: シュトロム
第一章 転生編
20/60

モフモフは偉大

 町を歩いていると妙に周りからの視線が刺さる。

 昨日もギルドでこんな感じだったなー、でもあれには明確に理由があったからの視線だったわけで。

 なんでこんなに見られてるんだろ、顔になんかついてる?

 それにいつの間にかあの子犬モード灰色狼もどこか行っちゃったし。

 まぁいいか、とにかく今はギルドへ行かなければ。


 ギルドに着いても周りからの視線は変わらなかった。

 時間はもう昼時、他の冒険者たちもまばらだが朝よりは来ている、その人たちからの視線を浴びている。

 視線から不快な感じはしない、前もそうだったが悪意を感じられないからだ。

 だからと言って見られているのはちょっとやりづらさがあるのでやめてほしい。

 逃げるように受付の列に並ぶ。

 思いの外、早めに列は解消されていき開いた場所へ行くと、たまたまそこにいたのがナナリーだった。

 たびたびお世話になります。


「あ、リュートさん!おかえりな、さい?」

「ん?どうした、やっぱりなんか顔についてるのか?」

「いえ、顔と言うか頭に乗ってるというか。」

「頭?」


 頭を手で触れてみる。

 すると触ったことのあるモフモフが手に伝わってきた。

 掴んで持ち上げてみると、案の定それはあの灰色狼だった。


「なんだ、お前こんなとこにいたのか。軽かったから気づかなかったよ。」

「わんっ。」


 相変わらず元気だ、どうやらみんな俺じゃなく俺の頭に乗っていたこいつを見ていたようだ。

 理由がわかって一安心。


「あの、そのわんちゃんどうしたんですか?」

「そのことなんだがな…。」


 俺はあの時あったことを詳細に説明した。

 途中でナナリーの表情が固まって、口をパクパクしていた。

 あ、こら、人の口に手を入れない。

 もごもごした食感を感じてハッと我に返ったナナリーが恐る恐るといった感じで質問してきた。


「えーっと、その話が本当だとしたら、そのわんちゃんさまはリュートさんの言う風の刃を飛ばしてくる狼の魔物、と言うことでいいですか?」

「わんちゃんさま?…まぁそういうことになるよな、タイミングとか考えたら。」

「で、デスヨネー。アハハ……、はぁ。」


 ため息をつかれてしまった、なぜに。

 頭をうなだれさせて、耳までもシナシナと元気がなくなってしまう。

 そこへ灰色狼パンチ、こいつの肉球もやわらかそうだな、後で触らせてもらおう。

 それはそれとして、なんでしょぼくれてるかは知らないがナナリーを励ましてやらなければ、原因俺にありそうだし。


「何しょぼんとしてんだよ、元気出せって。」

「しょぼんとしたくもなりますよ。その狼は、ここから南西の方角にあるメル雪山に生息する刃狼(じんろう)っていう魔物です。」

「へぇ、刃狼って言うのかお前。」

「わんっ。」


 間違いないみたいだな。

 俺が両脇を抱えて持ち上げると、元気よく吠えながらバンザイした。

 ふふ、愛いやつめ。


「……その雪山に生息する魔物はそこまで強い個体はいないんですけど、刃狼だけは別格で一等下位冒険者の六人パーティで倒せるか倒せないかくらいなんですよ、それを一人でって……。しかも二体同時にって、もしかしなくともリュートさんて実は有名な冒険者だったりしません?」

「いやいや、十数日前に村から出てきた駆け出しだって。それに、そのくらいの魔物ならこの前のおっさんたちのほうが強いんじゃないか?ランクは低くてもクラスが高かったんだから。」

「まぁそうなんですけど…。もう考えたら負けな気がしました、ちゃんと躾して人を襲わないようにしてくださいね?」

「まかせろ!」

「わんっ!」


 躾か、犬っぽいから簡単だろうけどもとは狼なわけだし、違いがあったりするのだろうか。


 ポンッ


 持ち上げていた刃狼からまた煙が出た。

 ということはまたサイズ変化するのか、今あの大きさになると俺潰されるんだが。

 煙が晴れるとそこにいたのは全長1メートルないくらいの、俺のよく知るサイズの犬だった。

 さしづめ狼モードと言ったところだろうか。


「きゃあぁぁ、でたぁぁ!!」


 ナナリーがいきなり大きくなった刃狼を見て驚き、慌てふためく。


「落ち着け、ナナリー。大丈夫、俺が最初みたときはこれの倍以上大きかったから。ほれ、見てみろこのつぶらな瞳を。今すぐどうこうするつもりはないと思うぞ。」

「もっと確信をもって言ってくださいよ、そういう言葉は!」


 いや、犬の気持ちとか見ただけでわかるわけじゃないし、狼だけど。

 それにしてもビビり過ぎじゃないか?

 こんなにも可愛いのに。

 ちらっと周りを見回すと、一部の人を除いて警戒しているのがわかる。

 うーん、魔物っていう偏見があるからなのかな。

 俺の中ではテイムした扱いだから警戒する必要ないと思うけど、この世界では常識じゃないのかもしれない。

 そもそもこの世界テイムってあるのか?

 でも、普通魔物がこんなになついたりしないよな。


 ……触ってみれば何か変わるんじゃないか?

 俺も最初は怖かったけど、モフモフに包まれて懐柔されたし、

 抱き枕にしたいくらいモフモフで暖かいし、何より触れていると安心できる。

 このモフモフは人の心を暖かくできる何かを持っていると思うんだ。 

 では早速…。


「ナナリー、こいつに触ってみろ。」

「ぇぇぇええ!む、無理ですよぉ、絶対噛んだりしてきますって!」

「大丈夫だって、ほら撫でてみな?もっふもふだぞ。お前もいいよな?」

「わんっ!」

「うぅ、私にはリュートさんみたいな度胸はないですよ…。」


 と言いつつもゆっくり手を伸ばしているあたり、触ってみたいという気持ちが抑えきれていない。

 わかるぞその気持ち、見た目からでもわかるこの毛並みのふさふさモフモフ感、触りたくもなるだろう。

 じりじりと近づいていくナナリーをじっと待ち構える刃狼。

 長い時間をかけて手を伸ばしようやく頭に手を乗せることに成功。

 恐る恐る頭をなでたその瞬間、驚くほどのモフモフ触感にナナリーはただ腕を動かす機械にでもなってしまったかのように撫で続ける。

 刃狼もそれに返すかのように頭や顔をスリスリしている。


「うへへぇ、もふもふだぁ。」


 ふにゃふにゃな顔で笑うナナリー、完全に落ちたな。

 チラッと背後を見ると、さっきまで警戒していた人たちが一変してうずうずしている。


 そうか、君たちも触りたいのだね?

 うむ、よかろう、こっちに来たまえ。


 というニュアンスで手招きしてやると、俊敏な動きで一斉に集まってきた。

 そしてみな思い思いに刃狼をなでまくる、刃狼も嬉しそうなので特に問題はなさそうだ。

 こいつのモフモフの魅力がみんなにも伝わってうれしいよ、ただな……。


「俺にも触らせろ!」


 もとは俺が連れてきた子だぞ、触らせる分には構わんがうちの子は誰にもやらん!

 ギルド内が一つの毛並みを奪い合っているというとんでもない状態ができてしまった。


 --------------------


 この刃狼モフモフ騒動(仮称)は簡単に収集つかないと思っていたのだが、


「何をしている、お前たち。」


 ギルマス、ガルートさんが来たことでみな我に返り、その場は落ち着いた。

 ただ、思いもよらぬ事態によって更なる大混乱が巻き起こってしまった。


「む、なんだこいつは。犬か?」

「わんわんっ。」

「……モフモフだなお前。」


 なんと完全受け身だった刃狼がガルートさんの方へ自ら撫でられに行くという緊急事態発生。

 しかもギルマス、あんな強面のくせにまんざらでもない様子。

 ま、まずい、このままでは俺の抱き枕計画が!


「ギルマス、その狼実は俺についてきた魔物なんだよ。」

「なに?犬じゃないのか。」

「そう、だからどうしようかと思っててさ。俺についてきたわけだから、俺が責任をもって面倒見るつもりだったんだが、一応話はしとかないとと思って連れてきたんだ。」

「なるほど。」


 なんとか、俺が責任を感じて世話をするという流れに持って行けた。

 頼む、うまくいってくれ!


「…残念だが、魔物はみな凶暴だ。いつ人を襲うかわからぬものを新入りのお前に任せるわけにはいかん。」


 くっ、そうだった。

 俺には実績も信頼もまだ全然足りてないんだった。

 そんな相手に魔物を町中で飼わせるというのは難しい話だろう。

 完全に失敗した、というか俺には最初からどうすることもできなかった。

 でもこの流れだとこいつはどうなるんだよ。

 まさか……?


「まさか、倒すとか言わないよな。」


 周りのみんなが俺の一声に激しく反応する。

 このモフモフはやらせねぇ!って空気がバンバン伝わってくる、俺もおんなじ気持ちだ。

 最悪、ここでギルマスと一戦交えるかと思ったがどうやらそうはならないらしい。


「こいつをここで倒すつもりはない、勘違いするな。お前ひとりには任せられないといっているだけだ。……私はこいつをギルドで監視しようと考えている。」

「ギルドで監視?」

「そうだ。何人もの冒険者が集まるこの場所でなら、いきなり暴れだしたとしても素早く対処し最小限の被害で事を収められるだろう。」


 確かにそうすることが今出せる最適解と言えるだろう、しかし俺の夢の抱き枕計画が……。


「……というのは建前で、お前たちはずいぶんこいつのことを可愛がっているみたいじゃないか。それならば、ギルドに常に置いておくことで士気をあげようという策を思いついた、どうだ。」

「まぁ、そういうことならいいのかな?」


 みんなも賛成の様で、再び刃狼をなでている奴もいれば小躍りしている奴までいる。

 ただその策、意味あるのか?

 みんなあいつのこと可愛がるだけで仕事行かなかったりしないか?

 疑問に思ったのでそこのところを聞いてみた。


「大丈夫だ、すでに実証はされている。」

「どういうことだ?」

「今、私はやる気に満ち溢れているからな。」


 あー、なるほど……。

 そりゃあんたが一番いい思いしてるからな、うらやましいぜちくしょう。

 俺が初めに見つけて連れてきたのに……。


 あ、刃狼がこっちに走ってきた、どうした?

 撫でてほしいのか?俺に?

 ……ふふ、愛いやつめ。

 うん、もうさっきのことどうでもいいや。

 こいつのモフモフを触っていられるなら。


「ところで、この子の名前はどうするの?」

「そりゃ、一番最初に見つけたやつがつけるんじゃないか?」

「なるほど、理に適ってるな。我らがモフモフ同盟の創始者だからな。」


 何その同盟いつできたんだよ、俺知らないぞ。

 でも、創始者っていう響きは悪くない。

 いやそんなことはどうでもよくて、確かに名前付けてやらないとな。


「……お前オスか?」

「わんっ。」


 なるほど、オスか。


「じゃあ、ポチだな。犬に名前を付けるなら定番だからな。」

「くぅ~ん…。」


 なんか嫌そうだな…。

 僕は犬と同じ扱いですかそうですか、みたいな目でこっちを見るのはやめてほしい、悪かったって。

 うーん、じゃあ風に関係する言葉で名前考えるかな、風の魔法使ってきたし。

 ウィンドはありきたりすぎるし、ブロウは吹くって感じだから違うかな?

 ミストラル、エテジアン、シロッコ、ハブーブ、フェーン、……どれもこいつのイメージと合わないな。


 あ、じゃあ。


「ルア、っていうのはどうだ?」

「わんわんっ!」

「お、気にったみたいだな。じゃあ今日からお前はルアだ、よろしくな。」

「わんっ!」


 確かヘブライ語だったかで風って意味を持ったルーアハって言葉があった。

 それをもじってルア、我ながらいいセンスしてると思う。


 俺が思ったほど魔物に対する考え方に凝り固まったものはなく、みんな友好的な相手には友好的に返していた。

 魔物のいるこの世界は前世よりも殺伐としていると思っていた、自分が生きるために人間同士で蹴落とし合いが起こる程度には。

 でも、魔物と人が一緒に過ごせるようになったらそんなことをする意味も必要もなくなって、みんなが幸せに暮らせるんじゃないかと思うと、今日のことがその一歩になるかもなんて考えたりして、少しわくわくしてしまった。

 子供みたいな考えでも、今目の前で幸せそうにしている人たちを見ると、いつかは本当にそうなるんじゃないかって信じたくなった。

 俺は自分がやりたいことをやるだけ、でもその道中で誰かが幸せになるならできる限りのことはしようかなって思った。

リュート 「でも、ポチって名前もいいよなぁ、無難で。……こっそりポチって呼ぼうかな。」


ルア 「わっふ!」


リュート 「あ、ポチどうしイタイイタイイタイイタイッ!」

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