フラグはわざと立てていくスタイル
俺は今、常設依頼の詳細が書かれた紙っぽいものを見ながらのんびりしている、これ羊皮紙かな?
父さんにもらった白本は普通の紙だったけど、実は珍しいものだったりしたのかな。
考えてもわからないので依頼内容を再度確認する。
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薬草の採取
依頼内容:南部の森、ケイス森林にて群生する薬草を
十個採取し納品する。
達成条件:薬草十個の納品。
報酬:1ブロズ
依頼主:冒険者ギルド セントリアス支部
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町の警備部隊の補助
依頼内容:警護部隊詰所へ赴き、定時間部隊の人員と
して従事する。
達成条件:達成証明印の提示
報酬:5ブロズ
依頼主:冒険者ギルド セントリアス支部
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南部の森の調査
依頼内容:南部の森、ケイス森林に設置された観測所
で用意された資料に従い、定時間内に発見
した魔物の頭数を報告する。 但し、急を
要する事案が発生した場合、各自の判断で
対応すること。 内容によって追加報酬を
与える。
達成条件:記録用紙の提示、又はそれに準ずるもの
報酬:5ブロズ~
依頼主:冒険者ギルド セントリアス支部
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ざっと見た感じではとても簡単な内容だ。
この定時間と書かれているのはだいたい一時間だった。
今、俺はケイス森林の観測所にいるのだが、ここに来る前に警護部隊の補助をしてきた。
その時の従事していた時間が体感で一時間、町の中を警護部隊の人と一緒に見て回っただけだから、暇だったので少し長く感じたがだいたいそのくらい。
それとこの観測所に着いた時に別の冒険者がいた。
この人、朝ギルドへ向かう道中で通りすがりに見たような気がする。
それを加味してこの人がここに着いた時間と俺がついた時間を逆算すると、その間大体一時間だったわけだ。
以上のことから、定時間とは一時間のことだと認識した。
そしてこの森の調査の依頼なんだが、この依頼だけで三食分の金を手に入れられるので、なんとも良心的な依頼だ、駆け出しに優しい。
パーティで受けるようなものではないのは確かだけど、ソロの俺にとってはありがたい。
ただ時間設定があり観測所がここだけなわけだから、一日に最大二十四グループしか受けられないという難点はある、競争率は高そう。
朝の時間帯は人が少ないから何の問題もなく受けられたが、昼間だとうまくはいかないかもしれないな。 早起きすることはいいことだ。
「えーっと、ゴブリンが17体かな。」
記録用紙に発見した魔物の名前と数を記入していく、思いのほか数は多い。
コノ村の周辺だと一日にゴブリン一体と会うか会わないかくらい。
このケイス森林は魔物が発生しやすい場所なのかもしれないな、ギルド側から依頼が出るということはそういうことなんだろう。
魔物はどこから発生するのか、父さんに聞いたことがある。
曰く、マナが寄り集まって滞留したところから生まれるそうで、俺の想像するような悪魔や魔人族が悪さをして生まれてくるというわけではない。
マナが滞留する理由はいくつかあるが、最も多い要因はマナを放出する生き物、つまりは人間の作った街や都市が密集する場所の近くだそうだ。
このケイス森林は言わずもがな王都という町がたくさん密集した地域であり、魔物が大量発生するのもわけない。
俺としてはそっちの方がありがたいけどね、飽きないし。
といっても強い個体が生まれることはめったにないし、この辺りの強個体は通常個体からするに大した奴は出ない、と観測所に置かれているマニュアルっぽいものに書かれている。
強個体についての詳細がびっしり書き込まれているので、何度か発生したようだがそれによって町に被害が出るようなことはなさそうだ。
……それこそ見たこともないような奴が出てこない限り、町は安泰だなー、いいところだなー。
ギャアオォォォォォォォォオオオン!!!
……八ッ、しまった。
意識せずにRPGあるある、『そんなのないないって思ってたらいきなり聞こえてくるやばそうな雄たけびフラグ』をばっちり立てていたみたいだ。
いやー、うっかりしていたなー、決してわざとじゃないからなー、仕方ないなー。
よし、早速見に行こう。
べ、別にどんなやつか気になってるわけじゃないからね、一応発見した魔物が何か確認するだけだからね、まだ発見してないけど今からするからいいよね。
と、誰にするわけでもない言い訳を考えながら雄たけびの聞こえてきた方へ向かうのだった。
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木が不自然に倒れているところを見つけたので、こっそりと様子をうかがう。
そこにいたのは全長2メートルほどの灰色の狼だった、間違いなく魔物だ。
さっき読んでいたマニュアルっぽいものには載っていない個体、新種の強個体だろう。
どうしよう、ギルドに報告するべきか自分で倒すべきか。
報告するのが正しいんだろうけど、俺の中の欲求が今すぐ飛び出していけ!と言っている。
とりあえず報告するにしろ倒すにしろ情報は多い方がいい、のっそのっそと歩いていく灰色狼についていくことにした。
ゆっくりと歩く灰色狼についていくこと数分、灰色狼の正面にゴブリンがいるのが見えた。
灰色狼はそれを見やると立ち止まって尻尾を左右にゆらゆらと振り始めた。
なにをやってるんだ、とじっくり見ていると尻尾に魔力が集まっていっているのがわかった。
もしかしたらもしかするかもしれない。
十分に力をためた灰色狼は一吠えし、尻尾を縦に振り下ろした。
尻尾に集まった魔力は強力な風を起こし、一直線に飛んでいく。
その先にあるのは当然ゴブリン、全身を切り裂かれて絶命したようだ。
こいつなかなか強い。
さっきの風の魔法は魔力を風に変化させて放っているというわけではなく、尻尾を振って起こした風を変形させて、鎌鼬の様に飛ばしているみたいだ。
魔力でできた風はうっすらだが風属性の魔力の色、緑色に見える。
だが灰色狼のやってることは魔法攻撃じゃなく物理攻撃だ、普通の風に色なんてあるわけがなく不可視の刃を飛ばしてくるということになる。
あれ避けられるかな……。
これは分が悪いかもしれない、万一に俺がやられてしまったら被害は拡がっていくだろう。
ここは俺の欲なんぞは捨て置いて、いち早く報告するほうがいいな。
と、そこまで考えたとき。
俺の頭上に風が吹く、通り過ぎた風は明らかに勢いが普通ではなかった。
気がつけば俺が隠れていた木が滑り落ちるように切り倒されていた。
はっと、顔をあげればそこにいるのは灰色狼、が二匹。
雄たけびが一つしか聞こえなかったことで完全に油断していた、強個体は滅多に出てこないから一匹だと思い込んでいた。
だが今目の前にいるのは二匹の強個体の魔物。
見た目から同種の個体なのは間違いない、二匹とも俺を睨んでいることから二対一の状況だ。
新種の強個体が二匹、俺は駆け出しも駆け出し、未だ見習いの冒険者もどきだ。
傍から見れば絶体絶命な状況なのは明らかだ。
逃げることもできず、ただ死を待つばかり。
恐怖に震え足がすくんで動けない。
それが普通だ。
俺だって初めてゴブリンに遭遇した時に死ぬと思った。
でも感じた死の恐怖の分だけ死ねないって強く思った。
俺にはまだやりたいことも、やらなきゃいけないこともたくさんあるから。
だからこそ剣を取って立ち向かおうとした。
だから今も、生きるために剣を握る。
恐怖を感じる、ゴブリンと遭遇した時が比にならないくらいに。
でも、なんだろうな、この感じ。
今、俺すっげー嬉しいんだよ。
前世でこういうシチュエーションは何度も経験した、何度も心震えた。
いくつもの物語の、全ての主人公たちはいつだって逆境を乗り越えて一段と強くなっていく。
今、目の間に逆境がある、立ち向かい乗り越えていく壁が。
まさに俺こそがその主人公になったかのようだ。
あぁ、やっぱり俺は、
「RPGはこうでなくっちゃな!!」
ゲームが大大大好きだ!!
震えていた足はいつもの様相を取り戻す、伝う冷や汗が今は心地よく感じる。
強敵が目の前にいるにもかかわらず俺の頭はひどく冷静だった。
互いに臨戦状態で、空気はまさに一触即発。
俺は勝つために思考を巡らせる、俺には何ができる?あいつらに勝つにはどうすればいい?考えろ。
俺は何のために今まで頑張ってきた?師匠に教えてもらったことを思い出せ。
前世の知識も引っ張り出せ、今この場で使えることを総動員しろ。
前世で培った集中力であいつらに勝つ道筋を組み立てていく。
俺が思考に時間を使えば使うほど相手の準備も進む、時間がない。
時間がないなら作ればいい。
完璧じゃなくていい、戦いながら勝つ道筋は考えればいい。
今俺がすべきことは、俺にできるありったけをぶつけることだけだ!!
俺はすぐさま突貫した、明らかに無謀な一手。
灰色狼たちは少しの動揺を見せた後、嘲笑うかのように尻尾を振り始める。
木剣を構え低姿勢で向かう。
近づくにつれて相手の尻尾に魔力が集まっていく。
距離およそ五メートル、俺が近づき切る前に左の灰色狼が鎌鼬を繰り出した。
だがそれは悪手だったな、俺はお前たちに向かって走っている間にもう勝つ道筋は整っていた。
俺は向かう途中で空中に魔法陣を描いていた、そして灰色狼が鎌鼬を打つタイミングを見計らって同時に発動する。
「『ウィンドボール』!」
火属性魔法『ファイアボール』の風属性版。
相手が風ならこっちも風だ。
俺はそれを足元に撃ち出す。
鎌鼬といえども所詮はただの風、たとえ研ぎ澄まされた刃のようなものであっても魔法の風により霧散する。
かと言って『ウィンドボール』も改良版であるとはいえ初球魔法、せいぜい人一人吹き飛ばすのが精いっぱい、二メートルサイズの大きさの狼は直撃だとしてもびくともしないだろう。
だがそれで充分、俺一人空高く打ち上げられるのだから。
空中でまた魔法陣を描く、描いている間に上昇はとまり今度は緩やかに落下し始める。
もう一匹の灰色狼が鎌鼬を放つが不規則な動きをした俺には当たらない。
そして魔法陣を描き上げたころには、灰色狼の頭が目前に迫る。
大きく口を開け俺の落下を待つ灰色狼。
思い通り知性が乏しくてよかった、距離を取られていたら今までの行為は無駄になったからな。
「『身体能力補助』」
『フィジカルアップ』をもとに作った俺のオリジナル魔法の一つ。
『フィジカルアップ』は筋力の限界を出させる魔法だったが、俺の魔法は単純に魔力で体の機能を補助するだけ、負担はない上『フィジカルアップ』以上の効果を発揮してくれた。
重力による加速、魔法による補助、師匠から教わった剣技が相乗効果を生み出し、灰色狼の頭部を貫いた。
一撃だった。
灰色狼は光の粒子となって霧散し、その場に戦利品袋だけを残し消えた。
残るは一匹のみ。
同じ策は通用しないと考えた方がいい、また別の策を考えよう。
と思っていたのだが、なんだか灰色狼の様子が変だ。
油断はできないと構えは解かずに相対していると、灰色狼は寝転がり腹を見せた。
…もしかして降参ってこと?
ゆっくり近づくが動かなかった、恐る恐る触ってみるとすごいもふもふしてた。
なでなでもふもふ
おぉ、気持ちいなこの感触、前世の人をダメにするなんちゃらに勝らずとも劣らない、いい感触だ。
灰色狼は触れられたとき固まって動かなかったが、次第に尻尾を振って喜んでいるようだった。
…こいつ狼じゃなくて犬なのかな?
ポンッ
子気味いい音とともに煙が発生した、発生源は灰色狼。
しまった、油断はしないといったはずがいつの間にか絆されていた。
再び警戒し煙が晴れるのを待つ。
風に流され晴れたその場所には一匹の犬がいた、しかも子犬、両掌サイズ。
わんっ、と元気よく吠え俺の足元に来るとスリスリと頭をこすりつけてきた。
うん、ちょっと待って、情報の処理が追い付いてないから。
…この子犬、さっきの灰色狼と毛並みと色は全く同じだった。
いや、まさかね……。
「お前、さっきの狼か?」
「わんっ。」
…どうやらそうらしい。
え、どうすんのこれ。
なんかくだらないこと考えたら現実になったんだが…。
置いていくわけには、いかないよな。
というか、ついてくるし。
仕方ない、一先ずギルドに戻って常設依頼達成の報告をしよう。
その時に話せばいいだろう。
手のひらに乗せた子犬の感触に癒されながら、ギルドに戻ることにした。
もふもふの子犬、うらやますぃ……。




