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転生したオタクゲーマーは異世界RPGを攻略する。  作者: シュトロム
第一章 転生編
13/60

家族と旅立ち

 師匠に本当のことを話してから五年が経った、早いものだ。

 今でもあの日のことは鮮明に思い出せる、師匠と関わったこの十年の間で一番濃い日だったからな。


 あれからも内容はその都度変化していったが、師匠との修業の日々は変わらず続いている。

 時々俺の前世の頃の話をしたり、逆に師匠の現役の頃の話を聞いたりした。

 師匠の話は非常に心躍るものが多く、これこそまさに悪魔だ!というものばかりですごく面白かった。

 若かったころ、それこそ悪魔でいう今の俺くらいの年の頃はかなり暴れていたそうで、なかでも師匠VS元悪魔族子爵級四十名の戦いは聞いているだけで手に汗握るような、熱いバトルを繰り広げていたみたいだ。

 それを当時見聞きした悪魔族のお偉いさん方が師匠を国官にスカウトしたらしい、今ではいい思い出だと笑って話してくれた。


 一方、俺の話はあんまり師匠にウケなかった。

 車?電車?飛行機?なにそれ?って感じで、説明しても特にいい反応はなかった。

 代わりに、パズルゲームはメチャクチャはまってくれた。

 新しい魔法の件で話題になっていたのでせっかくだからと、俺の思いつく限りで作って渡したら予想以上に喜んでくれた。

 朝、師匠の家に行くとだいたい触っているくらいには楽しんでくれているようでよかった。


 まぁそんなこんなで五年が過ぎたわけだが、今日は俺がコノ村を旅立つ日だ。

 一週間前、師匠に出された武術の最終試練をクリアし、とうとう一人前と認められたのだ。

 俺は最初一人前として認められたら、すぐに冒険者になるために王都郊外の町に行くつもりだった。

 ただ師匠に転生のことについて話したことで少しその予定が変わった。

 俺の今の家族についてだ。

 王都に行く前に話をしてから出るつもりではあったが、転生してきたことは話すつもりはなかった。

 だが、師匠に話して、受け入れてくれたことで、話すべきだとと思うようになったのだ。

 しかしどうやって話せばいいかわからずに、悩む毎日が続いていた。

 師匠は言ってしまえば完全に赤の他人なわけで、抵抗とかそういうものはなかった。

 ただ家族だとそうはいかない。

 血のつながりは当然ある、だけど両親はどうおもうだろうか、今まで育ててきた息子に、本当の別の親がいるようなものだ、俺の話を聞いてどう考えるのか、どう思うのかなんてわからなかった。


 でもようやく決心がついた。

 結局話してみなければなにもわからない、話さなければ今まで通りでいいのかもしれないけど、自分の親に何も話さないままで行っては心残りができると思った。

 ならいっそのこと、受け入れられるにしろ拒絶されるにしろ、全て話してしまった方がいいと考えた。

 俺は明日コノ村を出ていくつもりだ。

 その前に、今日の夜に両親に話す、それで晴れて心置きなく旅立てる。

 決心はついたが、緊張はするし不安な気持ちでいっぱいだ。

 俺はなんとかこの気持ちを紛らわそうと、森の方へ向かった。


 少し森の中を歩いていると、十年前のことを思い出した。

 確かこのあたりでゴブリンに襲われたんだったかな、あれがなかったら今の自分はないと思うと少しばかり感謝しなければ。

 なんてことを考えていると、近くの茂みから何かがひょこっと出てきた。

 噂をすればなんとやら、そこにいたのはゴブリンだった。

 あぁ、この感じ懐かしいなぁ。


 ゴブリンは俺を見るなり、グルルと声らしき音を出しこちらを威嚇してきた。

 以前は俺を格下だと察知すると、すぐさま襲い掛かってきたが今の俺はそうではないということだ。

 十年も修行してゴブリンに舐められたとあっては、師匠に申し訳が立たない。

 ちょうどいい、気分転換と暇つぶしを兼ねて相手してやろう。

 俺は使い古した木剣を取り出し、楽に構える。

 ゴブリンが相手だから舐めているというわけではなく、ゴブリンを相手にするならこれが一番戦いやすいからだ。


 ゴブリンはRPGでも雑魚キャラ筆頭だがその生命力と繁殖力はかなり高い、その上野生の勘もなかなか鋭く緩い攻撃だとよけられる。

 だがこの構えだと攻撃の出がわかりづらいので、最適だと考えたわけだ。

 案の定、ゴブリンは木剣の不規則な動きに目を取られ、俺の回し蹴りを側頭部に浴び消えてなくなった。

 残るのは戦利品袋のみ、何気に初ゲットだ。

 中身は……、なんだこれ?ゴブリンの牙、みたいな?

 まぁなんでもいいか。

 戦利品袋は開けるとなくなり、合わせると大きさは変わらずまとまるので便利だと聞いた。

 相変わらずファンタジックな世界だなと、改めて思った。


「やることもなかったし、このあたりで体を動かしていよう。」


 俺はしばらくの間、森で魔物ゴブリンを狩ったり、フラフラと散歩したりと自由に過ごした。


 --------------------


 気がつけば、陽が沈み始めていたので帰路に就いた。

 明日、ここを旅立つと決めたのでゆっくりと見れるのは今日が最後だろう。

 歩く速度を少し緩め、少しだけ散策することにした。


 生まれて十七年、大きな変化や災害に合うこともなく至って不自由も危険もなく過ごしてきたこの村は、俺の中では前世で過ごした町よりも故郷というか帰ってこれる居場所のような印象が強い。

 それだけコノ村に慣れ親しんだということなんだろう。

 感慨深い気持ちに胸を満たされながら、俺は家に帰った。


「ただいま、今帰ったよ。」

「おかえり、リュート。」

「おかえりー、お兄ちゃん。」

「おかえりなさい、もう夕飯で来てるから先に体を拭いてきなさい。」

「わかってる。」


 いつもと同じ、家に帰れば迎えてくれる両親と妹のミナ。

 両親はともに年を取ったがまだまだ若く見える、ミナに至っては見違えるほど成長した。

 主に身長、それ以外は、うん、考えたら負けだ。

 大丈夫、まだ十四だ、伸びしろはある、きっと。

 前世の妹はお兄ちゃん呼びでもなければ仲が良かったわけでもないので、漫画やアニメのような理想的妹像のミナにお兄ちゃんと呼ばれるとこう、恥ずかしいのだが微笑ましく感じる。


 夕食等を済ませた俺は、両親に話があると引き留めた。

 ミナには悪いが今話しても理解が追い付かないかもしれない、いづれ話すことにしよう。


「それで話ってなんだ?」

「俺は今年で十七になった、そろそろ独り立ちしていくべきだと思うんだ。……明日、王都の郊外のほうに行く、当分は帰らないと思う。」

「……確かにそうかもしれないわね、リュートは冒険者になるって小さいころから言っていたからものね。お父さんも私も今更止めるつもりはないけど、それだけじゃないんでしょう?」

「あぁ。ここを出る前に言っておかなきゃならないことがあるんだ。俺が今から言うこと信じてくれるか?」

「自分の息子を信じない親はいない、なんでもいってみろ。」

「……実は、俺には前世の記憶があるんだ、それもこの世界じゃない記憶が、転生してきたんだよ俺。俺がこの世界で生まれて、父さんと母さんが俺に名前を付けてくれていたあの時から、鮮明に、はっきりと、何もかも覚えてるんだ。変なこと言ってるってことはわかってる、でも本当のことでこれが今の俺の考え方とか生き方のもとになってるのは確かなんだ。」

「…………」


 父さんも母さんも何も言わず、俺の話を聞いてくれた。

 後は俺にはどうすることもできない、二人が俺のことをどう思いどう扱うかだ、俺はそれに従う。

 しばらく沈黙が続いて、口を開いたのは父さんだった。


「その、前世のこと、今のお前はどう思う?家族や友人、恋人もいたかもしれないんだろう?」

「今でも変わらず家族や友人だと思ってる、生憎彼女はいなかったけど。」

「そうか。……じゃあ、俺達のことはどう思ってる?家族か?それとも育ててくれた他人か?」

「お父さん!そんな聞き方しなくても……。」

「いいんだ、母さん、それが普通だよ。……父さんも母さんも、俺の本当の親だと思ってる。前世も今も、最初も後もない、どっちも俺の家族だ。」

「そうか、………。」


 また沈黙が俺たちの間を包む。

 俺は本心で答えた、前世の親も今世の親も変わらず、俺の親という認識だ。

 たとえ前世があっても今世で俺を生んでくれたのは、間違いなく父さんと母さんだ。

 そこは変わらない、なら同じように考えるのは当たり前だと俺は思う。

 さっき言った通りどっちも俺の本当の親なのだから。

 また沈黙を破ったのは父さんだった。


「……たまにでも、すぐにでも構わない。俺たちはお前の、リュートの親だ。いつでも帰りを待っているよ、なぁ母さん。」

「えぇ、いつでも待っているわ。帰ってきたら、うんと甘やかしてあげるからね。」

「おいおい、俺達の息子だからって何でもかんでも甘やかしてたらダメになってしまうぞ?」

「いいじゃない、だって私達の子供なんだもの。」

「父さん、母さん。………ありがとう。」


 転生してきたこと話してよかった、いい家族を持ったと心から思った。


 --------------------


 朝、昨日準備した旅に必要なものを詰めたバックをもって、玄関口に立つ。


「それじゃ、行ってくる。」

「気をつけていくんだぞ。」

「不安になったり困ったことがあったら、いつでも帰ってきていいんだからね?」

「わかってる、相変わらず心配性だなぁ。」


 昨日のこともあって、少したどたどしい挨拶になるかと思っていたが杞憂に終わった。

 本当にいい家族を持ったと改めて感じた。


「お兄ちゃん、いつ帰ってくるの?」

「ん、まぁしばらくは帰ってこないつもりだし、いつ帰ってこれるかもわからないな。大丈夫、定期的に手紙は送るからさ、父さんと母さんに迷惑かけるんじゃないぞ?」

「あ、えっと、あのね、お願いがあるんだけど、聞いてくれる?」

「何でもとは言わないが俺にできることならやれるだけやってみるが、なんだ?」

「えっとね、お兄ちゃんが返ってきたときに、私もっと成長してもっともっと可愛くなったら、その、わ、私と結婚してください!」


 いきなりの爆弾発言に、なにも言えず固まる俺。

 ミナ、この前十四になったばかりとはいえ、ちょっといやかなり考えが子供過ぎるのではなかろか。

 贔屓せずに言っても、短髪の元気溌剌な女の子って感じで可愛いとは思うけどさ。

 兄妹で結婚って、……しかも親の前でそれを言、なんでよく言ったと言わんばかりにうなずいてるんですかお母さん。


「リュート、今まで言ってなかったが、父さんと母さんは姉弟なんだ。」


 更なる爆弾発言、待ってくれ今言わないでくれよ父さん。

 前世の倫理観的にそれはド直球でアウトだよ。


「えぇ、……うん、まぁ、帰ってきたら返事するから、それまでに考えておくよ。」

「本当に!?絶対だからね!!」


 何も言わず頭をなでてやると嬉しそうに家の中に戻っていった。

 ごめんな妹よ、前世の倫理観重視な兄で。

 今の俺にはこう言うので限界だ。

 帰ってきてもいい返事はできないかもしれない。

 母さん、そんなヘタレを見るような目で見ないでくれ。


 俺、大事な旅立ちの前にそれとは別の意味でお腹が痛くなりそうだ。

 直前でなんだかんだあったが、俺は生まれ育った村を後にするのだった。

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