ゲーム攻略の一歩
師匠の突発的な発言に俺は茫然としてしまう。
その様子を見た師匠は不思議そうに首を傾げている。
「そんなに驚くことないじゃろう?お主の転生してきた発言よりもよっぽど現実味あると思うがのう。」
「いやいや、もともとこの世界の常識で生きてこなかった俺にとっては、自分の知り合いが実は悪魔でした、とかかなり驚愕な内容なんだけど!?それに、言うほど師匠は驚いてなかったじゃん!」
「それはあれじゃ、年の功ってやつかの?上位魔法を見せられた時の方が驚いたわい。」
「ん?なんだよ、上位魔法って。」
「お主がさっきした『ファイアボール』の改変魔法があったじゃろ?あれはワシら悪魔族が使う魔法の一つ、『フレイムバースト』という魔法じゃ。悪魔族が使う魔法は人族が使う魔法よりも強力な魔法が多い。よってワシらの界隈では呼び分けるために上位魔法と呼ばれておる。」
「なるほど…。じゃあ、なんで人族の魔法と悪魔族の魔法が同じ魔法陣からできてるって気づかなかったんだよ。」
「悪魔族は特定の属性魔法しか使うことができん。代わりに無詠唱での発動が可能じゃ、ゆえに悪魔族の魔法に魔法陣は存在せん。じゃから気づく気づかない以前の話なんじゃよ。」
師匠の話には興味深い点が多いので全ては処理しきれていないが、ひとまず納得できる説明はもらえたのでよしとした。
俺が転生したことを話し、師匠は悪魔であることを話した。
だからと言って俺と師匠の関係性が変わるわけじゃない、と思っている。
多分師匠もそう思ってくれているから、変に追及することなくいつものように話してくれている。
実はこんなお爺さんらしい話し方じゃないのかもしれない、プランさんに召喚されて五十年ほど、つまりはプランさんがまだ若い時からずっと一緒にいたことになる。
プランさんが年を取るにつれて、それに合わせた話し方になったのかもしれない。
周りの人に違和感を与えて自分の正体がばれてしまわないようにするために。
俺が今事実を知ったからと言ってコノ村の人に言いふらすつもりはない、それは師匠も同じだ。
なら、俺たちがたとえどんなものであっても、どんな過去であっても今まで通り師弟であることに変わりはない。
そのことを踏まえたうえで、元日本人としてこれはしっかりとしておきたいと思った。
「それじゃ、改めて自己紹介でもするか。」
「む、別に必要なかろう、今まで通りで。」
「この世界の俺ではしたからいいと思ってるけど、前の世界の俺がまだだろ?前世で済んでた国じゃ礼儀をひどく重んじてたからな、その名残だと思って付き合ってくれ。」
「うむ、いいじゃろう。」
「ありがとう、じゃあ改めて。俺は伊上達人だ。前世では今より五年くらい年を取ってた。まぁこっちの分を合わせたら精神面で言うならそこそこのおっさんかな、そんな気はしないけど。」
「ワシは、ハウラス。昔はフラウロスと呼ばれておった。悪魔の国では内政をしておったのじゃがもう引退した身。それでも悪魔族の中でも上から数えたほうがかなり早いくらいの実力は持っておる。今は婆さん、プランと契約した一悪魔だと考えておくれ。」
俺の自己紹介を終え、師匠に握手を求めて手を伸ばす。
師匠はそれ見取って自己紹介をして俺の握手に応えてくれる。
俺の顔は今かなり引き攣っているだろう。
師匠が悪魔の中でも強いこととか、内政官だったこととか、それだけでもおぉ、と感嘆しそうなのに初めの初めに大きな爆弾を落としていきやがった。
「……今、フラウロスって、言ったか?」
「ん?そうじゃが。あぁ、真名を言ったことを気にしておるのか?大丈夫じゃ、ワシには先に契約しておる者がおるから、真名によってワシを縛ることはできんぞ。」
「そう言うってことは、フラウロスは本名なんだな……。マジかよ……。」
「?どうしたんじゃ、何か言いたいことでもあるのか?」
「ありまくりだわ!!フラウロスって、あのフラウロスだろ!?ゴエティアの悪魔の序列64番の!?」
「お、おぉ、そうじゃが。よく知っとるな、ゴエティア様はワシら七十二の悪魔の生みの親じゃ。どこでそんなこと知ったんじゃ?」
「全部前世の知識だよ。ちゃんと存在していたわけじゃないけど、悪魔とか天使とかそういうのは想像上のものとしてつくられてたから。そのうちの一つに『レメゲトン』っていう本があって、それにフラウロスって名前がある。一時期そういうの調べまくってた時期があるから間違いない。嘘だろ、本物かよ……、ゲームで出てきたら強キャラ確定じゃねーか……。」
ていうか、その話の流れで行くとこの世界、ソロモン王いるってことになりません?
なんだよこの世界!なにこの圧倒的ファンタジー感!たまんないなおい!
ゲーム好きの血が騒ぐぜ、こっちに来てからやってないけど、というかやってないせいで余計うずうずしてるんだけど!
「はい、はい!質問したいこととか山ほどあるけどいいか?」
「構わんぞ、ただワシにも話を聞かせてくれんか。」
「もちろん!!」
それからいろいろ話をした。
まず俺が気になっていたこと、ソロモン王がいるかって話。
結論から言えば、ソロモンなる人物はいるにはいる、ただ師匠の知るソロモンは王ではなく、師匠の生みの親と言っていたゴエティアの夫だそうで、たまたま召喚され一目ぼれしたそうな。
それと、俺の知る限りゴエティアは『レメゲトン』の部分けの題名だったはずだが、どうやらこっちでは悪魔のようだ。
師匠はゴエティアの子供ということになるが血縁があるわけではなく、ゴエティア自信から発せられるマナから生まれた悪魔で、実質的な親はいないとのこと。
あと俺の知っているフラウロスと師匠の違いについても話をした
俺の知識からすれば、確かフラウロスは過去・現在・未来のことについて正確に答えられる、三角形の魔法陣の上では真実を話しそれ以外では必ず嘘をつく、召喚者の敵をすべて焼き尽くす力を持つ、となかなか濃い設定がある。
だがこちらの世界のフラウロス、師匠は赤い魔力の持ち主なので最後の設定については頑張ればできると言っていた。
ただ過去や未来を見通す力はなく、今迄からわかる通り魔法陣の上でなくとも本当のことを話せる。
前世の役に立つ知恵もあるにはあるだろうが、全てが同じというわけではないということは、注意しておかなければいけないな。
今日はいろいろなことを知ることができた、これは大きな一歩だ。
この世界を知り尽くすための、これからの俺の人生を左右するような大きな一歩だと、俺は思うのだった。




