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転生したオタクゲーマーは異世界RPGを攻略する。  作者: シュトロム
第一章 転生編
10/60

新たな魔法と決心

 朝、顔に乗っかっている白本(ノート)をどけて上体を起こす。

 昨日の夜は集中しすぎて寝落ちしてしまった。

 ただそのおかげで、今日こそはハウラスさんをあっと驚かせるような、新しい魔法を見せられるだろう。

 上手くいくかどうかはまだわかっていないのだが、試していないし。


 ハウラスさんとの約束で許可が出るまで、俺が一人前になるまでは一人で魔法を使うことを禁止にしている。

 初めに見せた『フィジカルアップ』のような魔法は使えば使うほど、多かれ少なかれ影響を及ぼす。

 精錬された者、つまりは大人が使う分には大きなダメージはないし、無理をしなければ休憩するだけで回復する程度のものだ。

 だが発達途中な肉体、未熟な精神ではそれに耐えきれず何らかの後遺症が残ったり、最悪の場合精神・肉体がともに壊れ死に至ることもあると教わった。

 精神で言えば、俺は転生してきた身であるから見た目の二倍以上は精神年齢的な年は取っている、はず。

 ただ肉体に関してはこの世界に生まれてからのものなので、素直に師匠の言葉に従っている。


 そんなわけで、昨日の頑張りは全てこの白本にしたためてある。

 もし今日俺が新しい魔法を作れたとしたら、この一冊があるだけできっとこの世界の魔法技術は格段に進むだろう。

 それこそ今まで頑張ってきた研究者達の努力を、無遠慮に踏みにじってしまうほどに...。


 そう考えると、これは公表しない方がいいのか。

 そもそもどうやって師匠に説明すればいいんだ、これ。

 たまたま思いついた、とか言っても嘘ってバレそうだしな。

 そんなたまたま思いつくような簡単な事じゃないから、確実に怪しまれる。

 ……話すしかないかな。

 そうなると色々準備しないとな。


 ちょっとの間考え直してみたがやっぱりそうするしかなかった。

 決心してベッドから起き上がるといつものように師匠の下に向かうのだった。


 ----------------------


「師匠、おはよう。プランさんの体調はどう?」

「おう、ワシが起きた時には朝食自分で作っとったわい。婆さんあと三十年は生きると意気込んでおったわい。あの調子じゃ、三十年後にも同じこと言ってそうじゃわい。」

「はははっ、相変わらず元気だな。」


 ひとまず普段通りを装って話す。


「それじゃあ、今日もいつものように新しい魔法を作るのかの?」

「おうよ。今日の俺は一味違うぜ、ふっふっふ。」


 不敵な笑みを浮かべながら返す。

 内心はかなり余裕はない。

 もし昨日の努力が無駄になってくれるならそれはそれでいいのだが、成功してしまったなら覚悟を決めなければならないな。


 一度深呼吸、すー、はー。

 よし。


 白本を取り出し昨日書いたものとにらめっこしつつ、恐る恐る魔法陣を描き始める。

 それを師匠が興味深そうに横から眺めている


「なんじゃなんじゃ?いつもは本なんぞ持ってきておらんかったじゃろ、……ん?なんて書いてあるのじゃ、読めぬぞ?」

「わちゃわちゃうるさい!集中してるから静かにしてくれ!」

「お、おう。」


 怒ったのは申し訳ないとは思うが、ただでさえドキドキしているのだから横やりを入れられて失敗しては困る。


 師匠が読めないのは仕方ない。

 前世の言葉、俺の元故郷の日本語で書かれているからこの世界で読めるのは俺だけだろう。

 これもいろいろな万が一を考えてのことだ。

 実証されていない今の時点ではただの誰にも読めない子供の落書きだが、これが価値を持つようになったら大変だ。

 できるなら俺以外の人が発見できるまで待つか、ヒントだけ教えて俺の力ではなくこの世界の人だけで魔法の技術を発展させていってほしいと思っている。

 俺はこの世界の一種のイレギュラー、本来いない存在であるべき、そんなやつが勝手に歴史とか世界とかをひっかきまわしたいとは思っていない。

 この白本がこの世界で使われる共通語で書いて、ないとは思うが落としてしまったらどんなことに使われるかわかったもんじゃない。

 第一に、人の努力を横から盗んで自分の利益にしようとする奴に、渡す気はないのだが魔法のある世界だ、何があるかはわからない。

 用心するに越したことはないのだ。


 静かになったところで再度目の前の魔法陣に集中する。

 初めに書いたのは外円、ここからすることが実験であり証明だ。

 緊張で体中から汗が出る、伝う雫が敏感に感じられる。

 気にしたら負けだと自分に言い聞かせて、一心不乱に描く、描く、描き進めていく。


「……?そのままじゃと失敗するのは目に見えておるぞ?」

「まぁ見てなって。成功するかはわからないけど、できたら後で説明するからさ。」


 話しながらも順調に描き進めた魔法陣がようやく完成した。

 額に張り付く汗を一拭い、ふぅ。


 この魔法陣今までのものと明らかに違う点がある。

 これには内円と五芒星がないのだ。

 今までの本で読んだものと師匠から教わった魔法には必ずあったこの二つをなくして描いた。

 師匠が失敗すると言った理由はそこにある。

 だが俺の理論が成立しているのなら、これでも発動するはずだ。


「これでいいはず…。それじゃあ、いくぞ。」


 魔法陣に手をかざし魔力を込める。

 それに従って、魔法陣は光を放ち始める。

 魔法陣の光は次第に強くなっていく、普通に魔法を詠唱して使ったときのようにただ眩しいだけではない、不思議な力が感じられるような光だ。

 その光の輝きはさらに力強く辺りを照らし、そして……。


 ポンッ


 と、子気味いい音とともに魔法陣を描いた場所の真上に綺麗な円形が浮かび上がった。


「……?なんじゃこれは。まるで、空中に魔法陣を描いたかような…。」

「ぃよっしゃぁぁぁぁっ!成功だぁぁぁぁぁうおぉぉぉぉぉぉぉ!!」 


 俺は高らかに腕を振り上げガッツポーズ。

 なんだろう、この内から湧き上がる高揚感、そして溢れ出る達成感!

 大して頑張ったわけじゃないし前世の記憶があったからこその成功だが、誰も成し遂げられなかったことを自分一人で成したことに今までに感じたことのない喜びが、胸の内に広がっている。

 例えるなら、フルレイド推奨ボスを半数以下の少数精鋭で挑んで互いにHPを削りあい、全員が満身創痍になりながらもラストアタックを決めてギリギリ勝利をつかんだ時のような、そんな感じだ。

 こういう時って、集中しきった後で疲れてるからベッドにダイブしてそのまま寝ちゃうんだよなぁ、懐かしい。

 だけどもう、あのゲームはできないのか……。


「おーい、帰ってこーい。ちゃんと説明してくれるんじゃなかったのかのう?おーい。」

「あぁ、すまんすまん。ちょっと感傷に浸っていただけだ。」

「感傷に浸るとな、そんなに長い間生きておるわけでもあるまいに。何を爺臭いこと言っておるのじゃ、それより早う説明してくれんか。この年になっても好奇心でワクワクすることなんぞそうそうないでの。だから早う!」

「わかったって、そんなに急かすなよ。」


 いまだフヨフヨと浮かんでいる円形の魔力線に手を伸ばす。

 すると、それは俺の手に触れてもゆがむことなく前に押し出される。

 掴もうとすれば掴めたし、そのまま投げることもできた。

 ふむふむなるほど。

 白本を開きメモ。


「なにやっとるんじゃ!早う説明せいと言うたであろう!」

「今からするって、これも全部説明するには必要なことなんだよ。…よし、できた。それじゃあ説明するけど、その前に一つだけいいか?」


 師匠のほうに向きなをって、俺は努めて真剣な顔で問う。


「なんじゃ今更そんなに改まって。」

「必要な事なんだ、頼む。」

「……わかった、なんじゃ?」


 魔法は俺の見つけた理論で正しかった。

 成功したなら全部話すと決心した。

 覚悟はできている。


「俺が今から話すこと、全部隅から隅まで信じるって約束できるか?」

「ふむ……。」


 師匠はすこし考えるそぶりを見せる。

 その後すぐに柔らかな笑みを見せながら言った。


「…よかろう、お主はワシの弟子じゃ。師が弟子を信じずしてどうする。」

「ありがとう、そういってくれるって信じてたよ。」


 一拍置いて、俺は俺のすべてを語り始める。


「実は俺、別の世界から転生してここにいるんだ。」

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