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転生したオタクゲーマーは異世界RPGを攻略する。  作者: シュトロム
第一章 転生編
1/60

長い長い、始まりの始まり

 俺は社会から見れば、オタクとかゲーマーとかニート予備軍とかいう言われ方をしている。

 まぁ、高校2年生にして部活も入らず、必要最低限の勉強しかせず、両親がやるべき事さえすれば何も言わない放任主義だったのも拍車をかけて、ゲームやアニメに没頭するようになったのは言うまでもない。


 そんな、果てしなく生産性のない俺の日常はいとも簡単に崩れ去った。

 率直にいえば、俺は事故死した。

 いつものように学校からのんびり帰宅していると、信号を無視して走ってきたトラックが歩道に突っ込んだのだ。

 トラックは歩道にいる人、つまり俺をはねとばした。


 死ぬ直前思ったことは、どうして俺がとか家族はどう思うかなとかそういうのではなく、人って意外と簡単に死ぬんだな、ってことだった。

 ここがアニメの世界なら、誰かが助けてくれたり超人的な動きで避けたりするんだろうな、なんて呑気なことも考えていたかもしれない。

 でも、そんなことはありえないって自分が1番わかっていた。


 そして俺はやり残したゲームに後ろ髪を引かれつつ、この世を去った。


 ―――――――――――――――――――――


 目が覚めた。

 目の前に広がる景色は1色。

 ひたすらに真っ白な空間で横たわっているようだ。


 なんかおかしくない?

 俺さっきトラックにはねられて...?


 体をおこして周囲を見やる。

 本当に何も無い、ただただ白い空間だ。


 ここどこだよ...。


「それは私がお答えしましょう。」

「うおっ!」


 心のなかで1人呟いた言葉にまさか返事が帰ってくるとは思っていなかった。

 辺りをキョロキョロ見回すがやはり何も無い空間が広がっているだけ。


「誰?!ここどこ?!どこから声してんだ?!」


 誰もいないように見えるが声がしたんだから、誰かが監視しているのかもしれない。

 そう思い、とりあえず今早急に解決したい疑問を矢継ぎ早にぶちまけた。


「私は貴方の世界の神です。ここは私が世界を見るために使っている部屋です。そして、私は貴方の後ろにいますよ。」

「なっ?!!」


 勢いよく振り返ると、今まで誰もいなかったはずの場所、俺の後ろに人がいるではないか!

 その人は腰ぐらいまでの長さの金髪と琥珀色の瞳を持った美女だった。


 えぇ、何この人。…人?さっき自分のこと神だとか言ってなかったっけ…。自称神(笑)とか?


「正真正銘、本物の神ですよ。人の子よ。」

「…あの、サラッと心読むのやめてくれません?心臓に悪いんです。」

「それにしては随分冷静ではありませんか?」

「万が一にも、俺が洗脳とかされてて、貴方がイカれた誘拐犯だって可能性を捨てきれてないだけですよ。ここじゃどうせ何もできないとは思いますけどね。」

「なるほど、なかなか頭が回るようですね。見させてもらった貴方は娯楽一辺倒で、あまり詳しくわかりませんでしたから。こうやって直接会話してようやく理解できるほどです。人間基準で言うのなら、貴方は少し特異な存在なのかもしれませんね。」


 いきなり神?に特異認定受けました。

 そんなわけないだろ。


 よく見ると、1枚のとてつもなく長い白い布を体に巻き付けているだけのようで、抜群のプロポーションをより際立てている。

 かと言っていやらしさがある訳ではなく、どことなく神聖な雰囲気を漂わせている姿は正しく神というべきだろう。


 何この方…。本物の神様なのか?

 ()()()()()()()()とか言ってたよね…。

 …ストーカー、ではないよな。

 俺をストーキングするとかどんな暇人だよ。


 突然起こった異常事態の数々にうまく思考がまとまらない。


「……混乱しているようですね。であれば、これを見れば少しは理解できるかもしれません。」


 そういった神?が手を水平にあげると、正面にガラスのような透明の板が現れた。


 なんか、システムウィンドウみたいなの出したぞこの人、いや神か。

 現実では絶対ありえないだろ。

 ということは、マジモンの神ってことなのか!すげー!!


 なんてことを考えていると、そのガラス板にどこからか映像が投射された。

 そこに映っていたのは、


「!?!?………これ、俺、なのか?」

「はい。貴方は死んだのですよ。」


 そこに映し出されていたのは、事故にあって四肢が不自然に曲がり身体中が赤にまみれて、横たわる俺だった。

 周りにいるのは野次馬か、多くの人が俺の死体を見ている。

 救急車や警察も少なからずいる。

 凄惨な事故現場を聞きつけてきた、記者のような人達は何度もカメラのライトを光らせた。


「どうです?これである程度の事情は把握できたでしょう。」

「…………。」

「どうしました?……あぁ、やはり自分が死んでしまった場面というのは、ショックを受けますよね。」


 神はそう言っては少し残念そうな顔をした。

 俺は画面を目を見開いて、固まっていた。


「嘘……だろ…………。」

「あまり、深くは考えないことです。その方が、幾分かは心が楽でしょう。」


 心配しているのか、優しい声音をかけてくれている。

 そして、俺はこう言った。


「えぇ、グロ過ぎない?人って死ぬとこんな血とか出るの?でもそんなもんなのか、いやでも人体って水分が7割だけど、その内の血液量なんてたかが知れてるし、あぁいやそれでもかなり量はあるのか?うーん、なぁどう思うよ神サマ。」

「……………。」

「神サマ?」

「………え?あ、あぁ、そうですね。体積で考えるのでは駄目です。この場合は面積ですから、このくらいの範囲であれば血液で満たせるとは思いますが……。」

「なるほどねぇ………。」


 俺は頷きながら画面を見つめた。

 興味深いものだ。

 人体って不思議!


「……あの、いくつか質問してもよろしいですか。」

「なんですか?」

「驚かれないのですか?これを見て。」

「……驚きはしましたけど、まぁ過ぎちゃったことですしねぇ。」

「私のことはもう神だと認めたようですが、そんなにも早く割り切っても良いのですか?」

「それに関しては、ここまでされたら信じるしかないですし、わざわざこんなことを一人一人にやるわけがない、ってことは俺になにか話があるとか、そういうことなのかな、と考えたら今はそんなこと置いといていいと思ったので。」

「………つくづく貴方という人間はわかりませんね。」


 神は俺に呆れていらっしゃるようだ。

 とても心外だ、ぷんぷん。


「似合ってませんよ、それ。」

「だから、心読まないでくださいよ!ていうか心読めるなら俺のことくらいなんでもわかるんじゃないんですか?」

「それとこれは分野が別なのですよ。心を読むというより思考を感じるというのが正しいです。貴方のことがわからないというのは、貴方という存在、魂が人間のそれとはかけ離れているということです。神だからなんでもできるという訳ではないのです。沢山の神が存在し、それぞれ出来ることが違いますから。」


 なるほど、わからん。

 それよりもまずは俺がここにいる理由を教えて欲しいです。


「それは今までの会話から推測ができるのでは?」

「………つまり、俺のことがわからなすぎてここに?」

「そういうことになります。ここまで謎な存在は初めてです。いかに私が神とはいえ、わからないものがあるとは思いもしませんでしたよ。」


 総じると、「おめぇなにもんだこらぁ。」ということか。

 そんなこと言われましても………。

 俺を構成するものは、人間を作るに足るものとゲームとラノベくらいのもんだ。

 比率は5:8:3くらいだが。

 うーん、どうすれば俺が俺自身を説明できるだろうか。


 あ、パクリかもしんないけど、これだな。


「俺の人生、というか俺はゲームがすべてなんですよ。勝ち負けとか、種類とかそういうの関係なく、俺の目の前にあるものは総じて。ゲームに置き換わるとかでもなく、すべてがゲームなんです。自分で言ってて何言ってるのかわかんないですけど、そういうことです。」

「ふむふむ………。」


 おぉ、神が頷いてるぞ。

 納得出来る説明とは言えないと思うがなにか俺の言葉から感じ取ったのだろうか。


「やはり、貴方という存在は謎ですね。」


 わかってないやつだこれ。

 さっきの俺と同じじゃん。


「不思議と興味が湧きました。」

「はぁ、それはなんとも返しづらい言葉ですね。」

「ということで、転生しましょうか。」

「いやそれは唐突すぎるだろ!」


 おっと思わず敬語を忘れてしまった。


「別にいいのですよ?普通に話していただいて。」

「あ、そう?じゃあこれで。それでなぜ転生とかいう面白おかしいフレーズが出てきたんだよ。」

「貴方のことが知りたいからです。」

「急に告白された?!」

「そういう意味ではありません。」

「知ってます。冗談ですって。」


 なんだろう、この人間身のある神。

 さっき、神は全能じゃないんだー、みたいなこと言ってたし、人間の上位互換とかそういう立ち位置なんだろうか。

 それにしては、フランクすぎやしませんかね。


「貴方だからですよ。ほかの人間ではそもそも見向きするしないの話ではありませんから。基本私は放任主義ですので。」

「それでいいのか。というか話逸れてるよ。俺を知ることと転生にどういう関係が?」

「貴方はすべてをげーむというものであると言いましたね?ならば、初めからげーむの世界に行けば何か変わるのではと思ったからです。」

「え、つまりあれですか。ゲームの中に入れるってことですかなにそれすげー!!」

「厳密には違いますね。貴方がしていたげーむのあーるぴーじーというものに似た世界があるので、そこに転生してもらおうかと考えています。」

「ということは、異世界転生ってことかなにそれすげー!!」

「先程から語彙力が低くなりすぎでは?」


 しょうがないじゃん、正直言って頭が追いついてないんですって。


「それでは転生を行います。準備はよろしいですか?」

「あぁいいよ。………いや、ちょっと待ってほしいというか、俺の頼みを聞いてほしい。聞くだけでもいいから、たのむ。」

「なんでしょうか。」

「俺が死んだあとの世界がどうなるのか、少しでいいから見せて欲しいんだ。俺の家族は、俺がいなくても変わんないかもしれないけど、それでも迷惑とかかけてないか気になるっていうか。」

「………本当に貴方という存在はわからないですね。いいでしょう。」


 そう言うと、さっきと同じように、ガラス板が現れ、映像が流れ始める。


 そこに映っていたのは、俺の葬式が行われている光景だった。

 母さんと父さんは、涙を浮かべながらも落ち着きを見せていた。

 両親はそこまで感情が吹き出るタイプではないから想像の範囲内ではあったが、俺のために流してくれている涙が、申し訳なさと少しの喜びを生んだ。

 俺は確かに、この世界で生きていて、誰かの記憶に残っているんだなってことがわかった。

 実の親なのだから当たり前のように感じるかもしれなが、それでも嬉しかった。

 他にも親戚の人達や仲の良かったクラスメイトが参列していたが、その中でも目を引いたのは、2人の姉妹だった。


 俺には3つ上の姉と2つ下の妹がいた。


 姉は両親から生まれたのかと疑いたくなるぐらいに感情豊かで活発で自由奔放で無茶苦茶な人だった。

 高校を卒業した途端に旅に出て、連絡は何度かとってはいたが1度も帰ってきていなかった姉もそこにはいた。

 姉は静かに、ただ静かに泣いていた。

 姉が静かな姿は1度も見たことはなかったし、切り替えの早い人だったから両親に変わって周りの人に気を遣っている声をかけたりしている可能性もあったが、それでも悲しみを噛み締めるような、後悔するように泣いていた。


 妹の方は激しく泣いていた。

 普段は冷静沈着で文武両道の完璧人間で、自分にも周りにも厳しかったから、不真面目な俺に対してあまりいい印象は持っていなかったはずだ。

 いつも俺のことを冷めた目で見ていたのを覚えている。

 だが、誰よりも声をあげて泣き崩れていた。

 嫌われていると思っていたのだが、どんなに碌でもないやつでも、家族の1人が死んだのだ。

 この反応は普通なのかもしれない。


 ほかの人たちも、多分俺のことを思って泣いてくれているのだろう。

 俺が生きている間はずっとゲームのことを考えていたから、正直周りからあまりよく思われていないと思っていた。

 それでも、そんな俺のためにこれだけの人が集まってくれていることが何より嬉しかった。

 それが知れただけでも、この光景が見れて、頼んでよかったと思ったった


 ゲームがすべてだと思って生きていたけど、そんな俺でもこんなに沢山の感情が湧き上がってくることに戸惑った。

 でもそれは、少しでも普通の人としての心があるってことなんだと感じた。

 いつの間にか流れていた涙は、その証拠になるには十分すぎた。


「ありがとう、もういいよ。」

「わかりました。」


 すっ、とガラス板は消えた。


「それでは、転生の準備を始めます。」


 涙を拭っていると、途端に俺の体が光を放ち始めた。

 とうとう異世界転生か、そう考えるとさっきまでの感情はどこへやら、なんだか非常にワクワクしてきた。


「幾つかサービスしましょうか。一応この転生は私の都合で行うものですからね。」

「どんなサービスをくれるんだ。まさか、生まれた時から最強とか?!」

「そこまでは私の力では不可能ですね。前世と同じ見た目、記憶の引き継ぎ、言語理解、生まれつく場所の操作などですかね。」

「まぁそこまで贅沢なことはないよな。でも、RPG世界な訳だから、魔法とか使えたり?」

「しますよ。」

「よっしゃ!全力で覚えよう!!」


 そうこう話しているうちにも、俺の体から放たれる光はどんどん明るさを増していく。

 どうやらもうすぐのようだ。


「そろそろですね。それでは、2度目の人生、貴方の思うように過ごしてみてください。私はここで見守っていますから。」


 みるみる明るくなり、何も見えなくなった。

 こうして、俺はRPG世界に転生するのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 目が覚めた。

 目の前に広がるのは1色、というわけではなかった。

 そこにあるのは焦茶色の天井。

 だが今までに見た事のない景色だった。

 本当に俺は転生したのか!

 ひょいっ、と横から顔が出てきた。

 おそらくこの世界の俺の親だろう。

 父親の方は短い茶髪に琥珀色の目、顔立ちは至って普通の、どこからどう見てもただの人である。

 母親の方は長い黒髪に灰色の目、おぉぉ異世界っぽい。

 顔立ちは前世基準で、5人に2人は振り向くかな?というくらいの美人だった。

 そしてこちらもただの人。


 転生したら、種族が違うとか少し期待していたけど、まぁ変なのになるよりは普通でいい。

 そんなことを考えていると二人は俺を見つめながら色々と話していた。


「男の子だな。名前どうしようか。」

「そうね、かっこいい名前がいいわ。それこそ、後世に残っても恥ずかしくないくらいの。」

「そうだな………。じゃあ『リュート』ってのはどうだ。確かに東洋の国で、『龍の使い』という意味があるらしい。」

「まぁ、素敵!!それにしましょう!ほら、貴方はリュートよ。」

「大きく立派に育ってほしいな。俺たちの宝なんだから。」


 俺の名前はリュートになったようだ。

 前世の名前にちょっと似てるな、呼ばれた時に返事できないなってことは起こらなそうでよかった。

 それにしても『龍の使い』か。

 やっぱりいるのか、モンスター。

 いいね、わくわくする!!


 早く大きくなって、冒険者とかそういうのになってみたいな。

 魔法も使いたいし、剣とか武術もやろう。

 やることは山ほどあるけど、今は自由に動けない。

 今のうちにやりたいことをまとめておこう。


 俺はこれから、この世界、RPG世界を攻略するんだ!!

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