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(ああなんてきれいな人なんだろう)
振り返った先には、私が今まで出会った誰よりも、これまで見てきたどんな人よりもきれいな男子がいた。背は高くて190cmはある。
人間離れしている整った顔立ち。でも血色が少し悪い。長すぎない髪は茶色で所々黒が入ってる。染めてるんだ。細身の身体にフィットしている着崩した制服はダサくなくて落ち着いた感じ。
「だいじょうぶ?」相手の目が困惑して疑問を問いかけているのがよく分かった。
顔や上半身ばかり見てた。恥ずかしくなる。顔が熱い。
「突然話しかけて驚いてしまったのかな?」
そう言って首を傾けて私の顔色をうかがう。私は余計に恥ずかしくなってうつむいた。
驚いたのは突然話しかけられたからではなくてイケメンさんに話しかけられたからなんですけどね。
自分のピカピカのスリッパを見つめて気を落ち着かせる。深く息を吸った。
「はい。すこしだけ。でもだいじょうぶです」
「顔色が良くないよ。保健室に案内する。僕は三年だから」
言われなくてもスリッパの色で上級生だと分かった。私は吸ったままの息をゆっくり吐きだした。
これが恋なのかな? 顔を見てみたいけど見たくない。なんだこの感情は!
「心配していただかなくても大丈夫です」
保健室の場所も知ってるし自分の教室の場所もわかっている。とりあえすこの場を立ち去ろうとした私は三年の先輩を振り切って教室に帰ろうとした。
「どこに行こうとしているのかな。それに君の言葉を文字通り受け取れるような状態には僕は見えないんだけどな」
パニックになった私は突っ走ろうとしたが新しいスリッパのせいだ。体勢を崩してしまった。肩を支えられた。
「ほらね。だいじょうぶじゃない。それに君の教室は反対だ。あっちだろ」
ニコッと笑って指で示す。でもその笑顔にはどこか寂し気なところがあった。
「僕の名前は堀越 彦根。気に入っているけどちょっと不満なんだ」
「どうしてですか?」
「君が保健室にいって安静にするというのなら考えるよ。だから頑なに拒否しないでくれないかな」
(まったく・・・)
私は堀越さんの言うとおりにすることにした。