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大罪者
国家は腐ってる。
佐々木夏彦は、隠れたブロック塀の隙間から道路を窺い、深く、とても深くため息をついて、つい口から出た愚痴と共に、僅かに残った唾を飲み込んだ。
施行された法律により選ばれた自分を、今や日本国民全員が狙っている。その命を。
夏彦は決して体力も頭脳も人より優れているわけではない。中の中。そう自分では思っている。
その自分が大罪を犯した凶悪犯のように、皆が目を光らせ、その存在を捕縛し亡き者にしようとしている。もちろん罪など犯していない。万引き一つ、ケンカ一つもした事がない。
そんな夏彦が民衆の追っ手から逃げているのは他でもない、十年前に作られた法律により今年の真殺者に決まったからだ。
真殺者とはその年の最後に公平に選出され、全国民から命を狙われる役目を負う者の事をいう。真殺者は老若男女年齢問わず、日本国籍を持ち日本に住んでいる者が全対象となり、12月31日に内閣総理大臣によりくじを引かれた人がその座につく。