種明かし
文中にモザイクの部分が一箇所あります。
そこはご自由に言葉を当てはめてみて下さい。
「さて、聞きたいことがあるなら聞こうか」
サイヴァ地区が燃えた日の夜、皆が食料庫で寝静まった頃にドラークはクロムを外に誘った。
モーガンが隠れていた食料庫は地下にあった為、大火の被害を免れていた。しかも風通しが神がかっており、ここで生活しても全然大丈夫なんじゃないかというくらい設備が充実していた。
これ、本当に食料庫か?家じゃなくて?
そんなわけで、ヴァルゴが作る家が完成するまでは皆でそこで寝泊まりすることとなった。
皆が寝たのを確認し、クロムは忍び足で食料庫を抜け出す。外に出ると、綺麗な満月が夜空に浮かび、星々が輝いていた。
食料庫を出てしばらく歩くと、ドラークが焚き火をしながらこちらに手招きしていた。呼ばれるがまま近づき、焚き火を間に反対側に腰を下ろす。
「さて、お前が来たところで、聞きたいことがあるなら聞こうか」
いきなり本題に入るドラーク。
クロムは好機とばかりに疑問を繰り出す。
「じゃ遠慮なく。まず第一に、ドラーク。アンタは何者だ?」
ドラークは驚いた風もなく、
「何故、そう思うんだ?」
「最初に思ったのは、ドラークと再会したときだよ。もしそこらと同じ人間だったら、魔族に襲われていたはず。でも確証はなかった。人間でも強い人はいるしね。で、決定打になったのが」
「血術、だな」
クロムは頷く。
ドラークは真面目な声色で
「確かに俺は人間じゃない。魔族だ」
クロムは顔色一つ変えずに次の言葉を待つ。
「驚かないんだな。ちょっと引き攣るくらいの反応はあるかと思ったが」
「予想はしてたからね。もし俺のツギハギな仮説が当たってるならひょっとしたら、って」
「そうか」
ドラークはキザに笑みをこぼし、
「俺は魔族だ。名前で察するかもだが、ドラキュラ族の長『ヴァンパイア』の末裔であるドラーク・バースⅣ世。だが、これは信じてくれ。俺は人間を襲ったりは絶対にしない」
「それは信じるよ。だって、人里で暮らしてたんだから」
それに人を襲う気があれば、大火のどさくさに紛れて襲っているだろうし。
「でも、なんで魔族が人里で暮らしてたんだ?」
ドラークは少し難しい顔をして
「まあ......過去に色々あってな。今は話しても意味がないから話さないが」
クロムはそれ以上詮索するのは野暮、と判断した。
クロムは次の疑問について繰り出す。
「で、イオは?彼女も人間とは思えない」
「再び聞こう。何故そう思う?」
「ビルから飛び降りて無傷とか、普通の人間じゃありえないしね。アニメじゃあるまいし」
「その、あにめ、とやらが何かは知らないが、まあそうだよな。有り得ないことだ」
ドラークは一呼吸置いて、
「彼女も人間ではない。だが、魔族でもない。魔族と人間の狭間に位置する “亜人” と呼ばれる存在だ。見た目は人間だが、時に魔族並みの能力を発揮することができる便利な存在だ」
「なるほど。まあまだ予想の範囲内だ」
これ以上はクロムも聞こうとはしなかった。仲間の事は熟知していたいが、かといって彼らの過去は他人からより自身の口から聞きたかった。
「じゃ、この疑問はこれくらいにして、次だ。今日の一件、どう思ってんの?」
クロムは声を低くして問う。
ドラークは気難しい顔をして、
「正直なところ、解らない、というのが結論だ。しばらく魔族は動向を見せていなかった。そんな時に、今回の件だ。何かがあったとしか考えられんが.........」
「人間側も油断するくらい、魔族は姿を見せてなかったのか?」
「そうだな。精々100年くらいか」
「100年......ドラークの言い方だとそれ以前から生きてるっていう感じだったな。ならドラークの年齢は少なくとも......」
「死にてえかテメェ?」
ドラークが本気で凄んで来たのでクロムは呆気なく口を閉ざす。
「魔族は無駄に長生きなんだよ.........で、魔族が襲った件だが」
ドラークはなんでもなさげに、
「まあ、思い当たる節がないことはないが。でもそれだと本当に人間は不憫に思えてならないんだよなぁ」
「なんだよ、はっきり言えよ」
ドラークは一つ、重ーい溜息をついて、
「多分な、現魔王の、八つ当たり」
..................。
長い沈黙の中、クロムの頭の中では少ない語彙の中から掛けるべき言葉の選別が行われていた。
その選別が終了し、脳から神経を通して声帯にその言葉が伝達され、声帯が震え、彼の口から言葉が飛び出る。
「はぁ?」
やはり、この二文字。
これしか有り得ないだろう。
サイヴァ地区が燃やされ、人間が大量に亡くなったあの一件の原因は、八つ当たり?
ドラークはまた溜息をつくと、
「だよな。やっぱそれしか出ないよな、言葉」
「これ以外に何か言える奴がいたら俺はそいつに弟子入りを志願するね!」
クロムは後ろにひっくり返って、投げやりにドラークに今の心情を吐露する。
「嘘だろおい街一つ消えたのはどこの誰とも知れん奴の八つ当たりってか?それ人間不憫すぎやしねーか⁉︎亡くなった人達も無念どころの話じゃないだろ憤慨しまくって墓場から起き上がってくるレベルだぞそれ!」
クロムはガバッと体を起こして、断言した。
「魔王はガキか、▒▒▒ だ。間違いない」
衝撃のあまり、完全に情報媒体では表現してはいけない言葉を発してしまうクロム。
「まあ、後者だな。今の状況から考えるとそいつは」
ドラークもそれに肯定する。
「じゃあ何、その魔王様が、なんかしらの原因でお怒りになり、『ムカつくから焼いちまえ』の勢いで、あのコボリオン軍団は来たの?」
「多分、な。ほら、人間が不憫な事に」
ドラークは笑いを堪えながら言う。
いやいやいや、笑い事じゃないよドラークさん。
クロムは大きく息を吸って、
「ふっっざけんなあぁぁぁぁぁああああ!!!」
その時、皆一度目を覚ましたという。