自給自足
「さて、それじゃあこれからどうするのかの話し合いを始めようか」
ドラークが厳かに周りの人達を見渡しながらも宣言する。
クロムは周りの人の顔を盗み見る。その誰もが深刻な、あるいは険しい表情を浮かべていた。これから自分達はどうなるのか、どうやって生きていくのか、暮らしていくのか。皆それぞれ不安がある。
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ジェネラルコボルトをドラークが瞬殺してしまった後イオと無事再会したクロムは、ドラークとイオと共に大通りへ戻り、配下のコボリオンの掃討に取り掛かった。とは言っても、クロムは相変わらず罪悪感に駆られてしまい、ドラークとイオが殆ど倒していたが。イオの武器はナイフの様に短い双剣で、巧みに操りながらコボリオンの急所を的確に刺していた。ドラークはあの謎魔法(クロムはそう呼んでいる)で相手の懐に飛び込んでは瞬殺していった。
本当に彼らは何者なのだろう。
異世界にやって来て、元の世界の人間と変わらなかった人間なんてケトンくらいだった。
異世界じゃこれが当たり前なのか?でも実際亡くなっている住民だっている。
クロムの頭の中はありとあらゆる疑問で占領されていた。
そうこうしているうちに、ドラークが最後の一体を砂に変え、掃討が完了した。
そういや、なんでドラークさんはコボリオンの掃討を始めたんだ?何も利益はない筈なのに。
また疑問が増えてしまった。
「終わったぞ」
辺りを見回すと、やはり一面焼け野原となっていた。
乱立していた商業施設は全て焼き払われ、あるいは壊され、木材と煤の山となっている。
「ひどいね......」
『ああ、ひどい』
声が聞こえた。
「いたのか!なんかいきなり出てこなくなったから死んだかと思ったわ」
『勝手に殺すな!君が頭の中で疑問が浮かびまくってるだろう。多すぎて溺れてたんだよ」
「ちょっと待てアンタ今どこにいるんだよ!」
今の話から考えると、この声の持ち主は俺の中にいる、だと?
「ねえ、さっきから何ブツブツと独り言言ってるの?」
「いや、なんでもない!」
イオが心配そうに聞いてきたので全力で大丈夫だと伝える。
今まで考えもしてなかったが、この声は俺にしか聞こえていないらしい。
そしてそろそろ、この声の正体が知りたくなってくる。
「しかし、やっぱ異世界だな。元の世界じゃ有り得ない事がもうわんさか起こってる」
正直起こりすぎな気がしないでもないが。
「しかし、生き残ったのがこの3人じゃな......」
ドラークが呟く。だが、
「3人だけじゃないよ」
イオの声がそれを否定した。
「なに?」
「人命救助する、って言って地区に入っていったんだよ?あ、言ってなかったっけ」
「いや、クロムに聞いた。じゃあその生きてる人達はどこに」
「教会があった場所にいるはずだよ」
「向かおう」
ドラークは足早に教会があった場所に向かう。
イオとクロムもその後に続いた。
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生き残っていた人は6人だった。その中にはクロムより年下の子供の姿もある。
クロム達が合流すると、6人は諸手を挙げて喜んだ。
その後、互いに自己紹介を交わした。
「私はモーガン・レナ。よろしくね」
表現悪いがお色気ムンムンな女性だな、というのがクロムの第一印象だった。
「ヴァルゴ・オーガイルだ。鍛治職人だった。よろしくな」
筋肉質な身体の男性、だがどこか優しそうな印象
だ。
「私、ノルカ・エルサス。これ、精霊、ソルカ。よろしく」
どこかたどたどしい話し方の少女。その子の指差す背中には、
「The 精霊」て感じの女性が浮かんでいた。
『私がソルカ。この子はちょっと口ベタでね。まあよろしく!』
超フレンドリーだった。
「私はレミ。アマフジ・レミ。よろしく」
どこか暗い印象を受けた。悩みでも抱えているのだろうか。
..................ていうか。
なんでこんな状況で呑気に自己紹介なんてやってんだろう?
ドラークさんに聞いてみたら
「なんとなく」
駄目だこりゃ。
「さて、これからどうするか、と言ってもだ」
ドラークが皆を集めて言った。
「正直なところ、二者択一しかない」
「ここに残って自給自足か、大きな地区に移動するか」
後ろから声がした。
レミだ。
ドラークはうむ、と一つ頷いて
「俺はどちらでも構わない。お前達、ここで商売をしていてこの土地に思い入れのあるであろう君達の意見を尊重したい」
ドラークの言葉を聞いて、皆顔を見合わせて互いに詮索し始める。
クロムはドラークに対して質問をした。
「もし、他の地区に移動するとしたら、何処へ行くんだ?」
「ブレイズ地区だな。一番ここから近いし規模も大きいからな」
と、言われてもイマイチピンとこない。
すると、「謎の声」が、
『ブレイズ地区はここら一帯で一番発達した地区だ。人口も土地面積も桁違い。色々な技術も進歩している場所』
「なるほど。王都みたいな場所のことね」
そんな場所があるならそこに避難すればいいんじゃないのか。クロムはそう考えた。
だが、他の皆は違ったらしい。
満場一致で自給自足の生活に決まった。
「な、なんで自給自足に.........?」
その独り言に答えるように「謎の声」が
『ブレイズ地区は難しい地区なのだよ。技術力や経済力はあるけど、他の地区と同調しない、つまり自己中な地区。他の地区には色んな要求はするのに、自分がされたら無視を決め込む。住民もそういった輩が多いから、中心の割りには嫌われてるのだよ』
「何その場所.........そりゃ皆の意見にも賛成だわ」
なんか、色々問題ありそうな場所だなそこ。関わらないでいければいいんだけど。
「じゃあ俺達は、この地に残る事にする。なら、次にすべき事は?......クロム、分かるか?」
いきなり振るドラーク。
「ええっと......家建てる、とか?」
「それは後でいいだろう。今からすべき事は、このサイヴァ地区に、何が残っているのかを把握することだ」
「必要そうなものがあれば、それを使えばいいってこと?」
「そういうことだ」
ドラークは辺りを見回す。
「木材は腐るほどあるから良しとして、一番大事な食料がな......」
「あら、食料なら大丈夫よ」
声がした方を向くと、モーガンさんがいた。
「私、お店の食料庫の中に隠れてたからね。備蓄がたくさんあったからしばらくは大丈夫じゃないかしら?」
ドラークは安心したように
「分かった、なら食料はそういう事で。次はクロムがさっき言った家だが......」
「それなら、俺が建てよう」
今度はヴァルゴさんの声が聞こえる。
「今は鍛冶屋だが、昔は大工仕事もしててな。平屋くらいなら建てられる」
「「頼もしすぎるだろ」」
ドラークとクロムがハモる。
しかし本当に頼もしい。モーガンさんが偶々隠れていた場所がお店の食料庫で、ヴァルゴさんは大工仕事の経験の持ち主。
なんだろう、かなり幸先がいい。
「分かった。じゃあヴァルゴはすぐに使えそうな木材を片っ端から選別してここに運んでくれ。量が多いときは俺かクロムを使え」
「分かった」
ヴァルゴさんはそう言うなり、早速木材の山に向かう。
「残りの皆は食料庫に行ってくれ。何がどのくらいあるのか見て、どのくらい持つのかを把握しておきたい。モーガン、頼めるか」
「分かったわ。じゃ、こっちよみんな〜」
モーガンさんが残った人達を連れて、件の食料庫に向かう。
残ったのはドラークとクロムだ。
「しかしどうなるかと思ったが、案外うまくいったな」
「全くですよ。てか、手際が良すぎませんかドラークさん。あんなに皆をまとめて、指示出して」
ドラークは苦笑して
「昔、似た事があったのさ。あ、あと」
ドラークがクロムに向き合う。
「その堅苦しいのやめようぜ。名前も呼び捨てでいいから。今から皆で暮らすんだ。いつまで敬語を使うつもりだよ」
ああ、ほんと、とクロムは感嘆する。
本当に、この人は............
「分かった、改めてよろしく。ドラーク」
ドラークは笑みを浮かべて
「ああ、よろしくな。クロム」