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魔方陣の「眼」

 イオに連れて行かれた場所は、サイヴァ地区の中心に位置する教会のような建物だった。

 サイヴァ地区の建物の中では一番の高さを誇り、その優雅とも言える佇まいは、地区の人々に活気を与える。(イオ談)建物内部にあるステンドグラスはもはや芸術作品の域に達しており、初めて見る者は必ずその美しさに言葉を失ってしまう。

 イオとクロムはその建物に入り、内部に設置されている受け付けカウンターに言われるがまま手続きをする。

「......で、来たら分かるって話だったはずだけど」

「んん?」

「何の仕事をするのか全く分からないからそろそろ説明を求めたい!」

 クロムは辛抱たまらずイオに言う。「来れば分かるよー」と彼女は言ったが、実際来てみたところで全く分からない。

  イオは、ハッとした顔をした。

 まさか忘れてたわけじゃあるまいな。

 イオは先程の表情を消して真面目な顔になって、

「私の職業は探検者っていうの。主に何処かの遺跡やらダンジョンに潜って、中に危険がないかを調べてくる仕事。ただ、危険な仕事だから人口は少ないの」

 この世界には、クロムが元居た世界の職業に加えて、冒険者やら探検家といった物語に出てきそうな職業が存在する。だが、やはりそういった職業には危険が常につきまとうため、収入は多いが人気はないらしい。しかも最近、冒険者や探検家の高齢化が進んでおり、今まで以上にヤバい状況なのだとか。

 そんな時に、近くの山の中腹に新しい遺跡が発見され、ブレイズ地区に調査を依頼されたのだ。

「でも人手が足りなくて、かといって少人数で潜るのはご法度だし。そんな時に君に会って、なんとか君に手伝ってもらおうと思って......その、半ば強引に......」

 イオは本当に申し訳なさそうに言った。

 イオは必死だったのだろう。そして今の現状を打破するためにはクロムが必要だと判断し、ここへ連れて来たのだろう。クロムに仕事内容を黙っていたのは、クロムが内容を聞いて拒否した場合の事を考えてのことだったのだ。

 ならば、とクロムは

「分かった。まあ俺も出来る事があるならやるって言ったもんな。それに、助けて貰った恩もあるしね。喜んで手伝わせてもらうよ」

「本当に⁉︎ありがとう!本当に助かる!いやー、本当に良かった......」

 イオは本当に嬉しそうな表情で言った。目尻には涙まで浮かべて。

 すると、遠くから「集合ー!」と声が聞こえた。イオその声に反応して素早く涙を拭うと

「行こう。集合も掛かったし、そろそろ出発だよ」

 と言った。



「今日は朝早くから集まってくれてありがとう。今回の調査で長を務めることになったタッグだ。よろしく頼む。では早速、今回の......」

 タッグと名乗るガタイの良い男が、手際よく話を進めていく。

 話を聞くに、どうやら今回潜る遺跡は既にブレイズ地区の調査団が軽く調べ終えており、危険な罠などはないとのこと。しかし部屋数が多い為2人1組で班を編成して、各階層ごとに詳しく調査していく、との事だった。

 ちなみに、クロムのパートナーはもちろんイオである。

 その後、準備やら調査方法などのレクチャーを受けたのち、遺跡へ向けて出発した。

 遺跡は山の中腹にあるので、道のりの半分は軽く登山のようだった。途中で野犬らしい動物を見かけて腰を抜かしかけたが、イオ曰く「ここら辺を住処にしてる動物は人間に危害はあまり加えない」との事。

 そんな感じでこの世界の事を1つ、また1つと覚えながら歩いていると、いつのまにか目的の遺跡に到着していた。

 タッグは全員を一度集めて、

「それではこれより調査を実施したいと思う。一度ブレイズ地区の調査団も入っているので危険はないと思うが、念のため皆、気を引き締めて取り組むよう。では、それぞれ調査開始!」

 この号令の下、それぞれ割り当てられた階層の部屋へと探検者達が散らばっていく。イオとクロムもそれに続く。2人が割り当てられた階層は地下3階の手前の部屋3つだった。

 1つ目の部屋は中ががらんどうで、調べても何も出てこないのは一目瞭然だった。

 2つ目の部屋は、どうやら宝物庫のような場所だったらしく、古めかしい金貨銀貨が1、2枚落ちていた。イオ曰く、他のめぼしい物はブレイズ地区の調査団が持っていったのだろう、との事。

 3つ目の部屋は、何かの倉庫のようだった。

「何もないな......」

 イオはどこか残念そうに言った。

「そりゃそうだよな。一度入ってるんだったら」

「要は私達、体のいい後処理係なのよねー。気づいちゃいたけども」

「ブレイズ地区って、各地区の中心に当たる地区なんだろ?やっぱ人口も多いのか?」

「まあね。とりあえずサイヴァの3倍の土地面積で、4倍の人口が生活してると思えばいいわ。だから『調査団』を1つの地区だけで編成できた」

 イオは手頃な形の箱に腰掛けながら言った。その声色はどこか不機嫌そうだった。

「ブレイズ地区は半ば強引に発達した地区として有名だよ?強引な地域合併が、サイヴァ地区の規模縮小に繋がったと言っても過言じゃない.........って、自分から人に聞いておいて何読んでるの?」

 クロムは「あーごめん」と完全に気の抜けた返事をする。彼の手には煤けた文庫本のような物が握られており、彼はそれを読んでいた。

 イオは怪訝そうに

「何ソレ、本?」

「んー、よくわかんない。読めない文字で埋め尽くされてる」

 その本に書かれてある文字は、象形文字のようなものだった。だが、この世界での公用語の筆記体とはまた違う形をしていた。ページをめくれどその文字が途切れることはなく、どこか不気味な印象を受けた。

「......全然わからないなぁ、どこの文字なんだろ。古代文字に似てる気がしないでもないけど」

 クロムは最後のページをめくる。するとそこには文字ではなく、魔方陣が描かれていた。周りは緻密な模様で構成されており、陣の中心には一筆書きの星、さらにその中心にはやけにリアルな「眼」が描かれていた。

「最後は魔方陣か。さらに訳が分からなくなってきたな」

「とりあえずこれは回収しましょう。その文字が解読出来たらこの遺跡が何なのかが分かるかも」

「文字が解読出来たら、この魔方陣の意味も分かるかもだしな」

 クロムは指を曲げて魔方陣の中心を2回叩いて同意した。

 その時、魔方陣の「眼」が一瞬光った。

「ん?」

 見間違いか?と訝しげに魔方陣に目を戻して見つめる。

 魔方陣の「眼」と目が合った直後、

「が.........っ⁉︎」

「眼」が再び光り、その光がクロムの左目に直撃し、直後全身を鋭い痛みが突き抜ける。

 イオはクロムの異変に彼の上げた声で気づいたらしく「どうしたの?」とこちらを振り返る。

 その時にはもうクロムの身体は倒れ伏し、突き抜ける鋭い痛みに悶え、苦しんでいた。


 * * * * * * * * * * * * * *



 クロムの脳内で映像が再生される。


 簡素な構造の木造家屋。中はがらんどうで何もない。外は真っ赤に染まり、周囲の気温は猛暑日のように高い。先程外に飛び出していった亜人はうまく逃げだせたのだろうか、外で自分達を守っていた者達も逃げられただろうか。

 自分達?

 この家屋の中に自分以外の何者かがいたのか?

 周囲を見回すが、人影などはどこにも見当たらない。

 勘違いだろうか。いや、今はそんなことはどうだっていい。今は外の状況を考えるべきだ。

 外では魔族がこの家屋を囲んでいることだろう。脱出する気はない、むしろ迎え撃つ気さえある。

 自分はやがて殺される。だが死ぬわけにはいかない、絶対に。その為に保険もかけた。準備は十全に整った。

 扉の取っ手に手を掛ける。これを開ける事で戦いの火蓋は切られる。

 後悔はない。恐怖など感じたことはない。

 自分の目的を果たす為に、たとえ死んでも必ず舞い戻る。

 そう決意を新たに、扉を開け、飛び出していく。

 己の得手武器を手に。


 クロムは困惑していた。

 この記憶はなんだ。

 この記憶は誰のものだ。

 どういった状況だ。

 考えれば疑問は尽きない。だがその答えを知る術をクロムは持たない。

 それでも、その答えを知りたいと自然と思った。

 異世界からやってきて、記憶の一部を失くし、この世界の事をまだ完全理解出来ていない身でそう願うのは傲慢だろうか。

 それでも.........


 そして、「ソレ」は潜り込む。

 奥底へと。



 * * * * * * * * * * * * * *


「.........っ!」

 そしてクロムは目覚めた。

「...大丈夫⁉︎やっと気がついた......よかった」

 イオが安堵した顔でクロムの顔を覗き込む。

「......ここは?」

 クロムはまだ残る身体の痛みを我慢しながらイオに問いかける。今クロムは、イオに肩を持たれながらゆっくりと歩いている状態だ。

「まだ遺跡の中よ。実はちょっと困った事になってきてて......」

「......困った事?」

 イオは焦った様子で言った。


「偶然かもしれないけど、君が倒れた直後から何処からか湧き出した魔族が調査団を襲い始めたの」


 魔族。

「誰か」の記憶の中でも出てきた、魔族。

 それが、この遺跡に?

 イオは続ける。

「それで今、君を連れて急いで逃げてるの。......偶に、悲鳴が奥から響いてくるの。助けに行きたいけど、今は君が優先」

 イオは歯噛みしながら言った。

 その時、奥の方から「うわー!」という悲鳴が聞こえた。クロムは痛む首をなんとか動かして後ろを向く。だが、うまく目のピントが合わない。視覚が狭まっているような感覚だ。

 その時イオが「あ、出口!」と言った。再び前を向き直すと、四角く光が中に射し込んでいた。

 だがその光は、クロムにとって妙に赤く見えた。

 まるで、先程見た記憶の中の赤みたいだった。

 隣でイオが息を呑む気配がした。

 クロムは怪訝そうに前を向く。

 そして2人絶句する。


 サイヴァ地区が炎に包まれていたからだ。

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