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転移1日目

はじめまして、咲間湊介と申します。

この度はこの小説を読もうとして頂き、ありがとうございます。

私はド素人ですので、かなり拙い文が多いと思います。ご了承ください。

読み終わられましたら、感想や意見をくださると嬉しいです。参考にさせていただきます。

「なんだ、ここ.........?」

 少年は、目の前の光景に絶句する。

 白いワイシャツに赤いネクタイを締め、黒いズボン。まるでどこにでもいそうな高校生のような出で立ちだ。

 だが少年がいるこの場では、その格好こそが浮いていた。

 目の前を行く人々は、まるで魔法使いが着るようなローブを着ていたり、踊り子さんが着るような妖艶な雰囲気を醸し出している薄い生地の服を着ていた。

 おまけに、歩いているのは人類の他に、リザードマンとでも言うべきかトカゲの頭を持った人が歩いていたり、耳が細長いエルフのような人が歩いていたり。

 ここまで状況が揃っていれば、流石に察しがついてしまう。


「異世界転移、ってやつ.........?」




 * * * * * * * *


 学校帰りにいきなり異世界転移してしまったこの少年はなんの変哲も無い日本国の高校生だ。

 この他に特記すべきことは無く、毎日高校に通い、友人達と何気ない1日を過ごしていた。

 そんな中、学校から帰る途中のトンネルをくぐって出口に辿り着くと、この異世界転移だ。


 * * * * * * * *


「さて、どうしたもんかなぁ」

 少年はそう言いながら自分の持ち物を確認する。

 ・スマホ(充電残り47%)

 ・教科書とノート(主教科だけ)

 ・筆箱

 ・水筒(微妙に残ってる)

  以上である。心許ないことこの上ない。

 まぁ学校帰りだったから仕方ない部分もあるが、それにしても異世界転移した奴の所持品ではないだろ、とため息を吐く。

 少年は出した物を仕舞い、当てもなく散策する。一度来た道を戻ってみたものの、そのまま元の世界に戻れるはずもなく、結局半ば文無しの状態で彷徨う。途中で何人にも奇異なものを見る目を向けられたが、今のトモキにはそれにすら気づく余裕がない。少年は歩きながら頭をフル回転させて考える。

「ラノベの主人公ならこんな時どうする......」

 少年は商店街の入り口に立っていた。見慣れない顔立ちの人種、読めない文字で書かれた看板、

 見た目はうまそうな、だが元の世界では見た事のない食べ物。

「異世界物なら典型的なパターンだな。だけどここまで元の世界と違うと、なんか怖えな。まさか言語まで違うとか言わないよな......?」

 言語まで違うとなると、もはや笑えない状況になってしまう。

 恐る恐る周りの声に聞き耳をたてると、


「なあ、今から銭湯行かねえか?」

「昨日、あいつがさ......」

「お母さん、今日のご飯これがいい!」


 という日常的な、しかも日本語が話されていて少年は心底ホッとする。

 いきなり異世界転移して、持ち物も不十分な状態で、かなり精神的に参っていた身分としては、言語が日本と同じということだけで軽い感動を覚える。

 だが、言語の問題が解決したからといってまだ安心は出来ない。なにせ今、自分がどこに居るのかすら分かっていない状況なのだから。

 なのでとりあえず、

「あのー、すいません」

 少年は通りすがりの人に声を掛けてみた。

 こういった場面に限り、自分が所謂「コミュ障」でなくて良かったとつくづく思う。

「あん?なんだ兄ちゃん」

 声を掛けてみたいかついおっちゃんはすごく嫌そうな顔でこちらを向いた。

 声をかける相手を間違えたかも、という思いが一瞬頭をよぎるが、それをすぐに振り払う。

「ちょっとだけ聞きたいことがあるんだけど、いいですかね」

 とりあえずフレンドリーな感じで聞いたつもりだが、初対面の相手にこれは舐めてかかってると勘違いされるかと一瞬だけ後悔。

 だがそれは杞憂だったらしく、

「直ぐに済むなら構わんが」

 と、意外とあっさり了解してくれた。

「で、なんだ聞きたいことってのは」

「とりあえず、ここってどこなんですか?」

「はあ?」

 何言ってんだコイツ、みたいな顔で言われた。

 まぁ、でしょうね。

「ここはどこってお前、どっから来たんだよ?」

「いや、まあ、田舎から......」

 少年はどこか言い訳でも言ってるかのようにタジタジになる。

 まさか「異世界転移してきました」なんて言えるわけない。そんな事を口走った日には「何言ってんだコイツ」という目から「可哀相な奴」という目に早変わりしかねない。

「大丈夫か、お前。.........まぁいいや。ここはサイヴァ地区。まぁ商業が盛んな地区だわな。見てみろ、周り、店ばっかりだろ」

 そんな少年の様子に怪訝な顔をしながらも、おっさんは説明を始めた。

「ここの住人のほとんどは店を経営しながら生計立ててるのさ。あとは金持ちの輩か冒険者とかいうただのダラケ者で全体を占めるな」

「冒険者がダラケ者?」

 おっちゃんは大仰に頷き、

「そうさ。冒険者だなんて、物語じゃあるまいし。第一、ここで冒険者を名乗る輩は只の親泣かせさ。家業を継がずに冒険者だ何だかんだ言って何もせずにぶらついてるだけなんだからな」

 と、冒険者という職業(?)を非難しまくった。

 この世界では冒険者=ニートという扱いなのだろうか。

 気になるが、今はそれどころじゃない。もっと情報を集めなければならない。

「とりあえずこの街がどんな街なのかは分かったよ。他にはどんな街があるんだ?」

「街、じゃない。地区、だ。他は、中心地区に当たるブレイズ地区。山間部に位置するオグシス地区。平野部のテンショウ地区。この4つか。なんだ、行きたい所でもあるのか?」

「いや、そういうわけじゃ。ただ気になっただけで......」

 どうやらこの世界は4つの「地区」で成り立っているらしい。そして少年がいる地区はサイヴァ地区というらしい。

 それだけ分かれば十分だと判断した少年は、さっきから視界の端に入り込んでくる「何か」をピッと指差して、

「いや、ありがとうおっちゃん。おかげでなんとかなりそうだ。ところで質問なんだけど、アレ、何?」

 おっちゃんは少年が指差した方をチラッと見やり、なんでもないように言った。

「あー、ありゃ魔王城だ」

「......は?」

 魔王城。

 物語では勇者がよく最終目的地にする、あの魔王城。

 それが、この地区からちょっと離れた場所にある、だと.........⁈

「どうしたんだ、そんな気の抜けた顔して。別に珍しいもんでもないだろ、アレ」

「いや、普通に珍しいもんだと思うんですがね!てか、大丈夫なんですか?なんか攻めて来そうで怖いんですが」

「お前が何に怖がってんのか、いまいちよく分からんが、まあ攻めて来ることなんざねえって。確かにあそこら辺にゃ魔族が住み着いてるが、ちゃんと人類と魔族で棲み分けされてるからさ」

「サラッと爆弾発言すんのとフラグ立てないでくれませんか⁈魔族だなんだて、初耳なんですけど‼︎」

「まあ、言わなかったからな。悪い悪い。でもこんなん常識だぞ?お前本当に大丈夫か?」

 いかんいかん、つい元の世界のテンションで突っ込んでしまった。

 しかし、いきなり異世界ファンタジー系になってきたな。魔族だの棲み分けだの。

 まあ、関わらなけりゃ大丈夫だろう。

 おっちゃんはまだ少年を心配した様子で、

「大丈夫か?本当に。お前、自分の名前とかちゃんと言えるか?」

「いや、流石にそこまで忘れてないよ、失礼だなあ。俺の名前は.........」

 あれ、俺の名前はなんだったか。

 少年は必至に記憶を呼び起こそうとする。だが、思い出せない。

 しかも自分の名前だけではなく、自分の家族や友人の名前まで忘れてしまっていた。

「名前は......」

 少年の背中を冷や汗が流れた。

 昔の記憶はある。でも人の名前が思い出せない。

 なぜ、何故、何故何故何故............

「ん?どうした?まさか忘れたなんてぬかすんじゃねえよな?頼むぜ」

「おっちゃん......俺の名前、なに?」

「知らねえよ!てか、えええっ⁉︎」

 おっちゃんの叫び声に、道行く人の視線が少年達に集まる。おっちゃんは周りに米つきバッタよろしくペコペコしながら、驚きを隠せないように

「なあ、今のは本気で言ったのか?」

「ああ。本気で言った。本当に分からないんだよ.........」

「本当かよ......参ったな......」

 本当に参った。異世界に飛んで記憶喪失など、今後の生活に支障をきたしかねない。

 するとおっちゃんは、

「んじゃあ、とりあえず偽名使っとけ」

 と、なんでもないように言った。

「ぎ、偽名っすか」

「ああ。そんな珍しい事じゃあねえだろ」

 いや、珍しい事だと思う。

 この世界には戸籍はないのか、と疑問に思ったが、聞くのが面倒なのでやめた。

「偽名、か。どういう名前がいいんだろ」

「クロム、はどうだ?」

 おっちゃんが何気にカッコいい名前を提案してくれた。

「なにそれカッコいい!それにしよう!」

 するとおっちゃんは含み笑いしながら

「ま、元ネタはあれだ」

 と、少年の後ろを指差す。振り向くと、そこには象形文字を彷彿させる文字で「喫茶 クロム」とあった。俺の名前の由来はカフェの名前かい!と突っ込みそうになる。

 でも、ま。なんか気に入ったからいいや、と少年はまた前を向き直る。

「いや、何から何までありがとうなおっちゃん!本当に助かったよ」

 少年、改めクロムは、誠心誠意感謝を込めて言う。いきなり放り込まれた異世界で、おっちゃんの存在は大きかった。

「なに、良いって。あ、そういや自己紹介してなかったな。俺はケトン=オグニルってんだ。旅商人を生業にしてんだ」

 そう言っておっちゃん、改めケトンは、手を差し出した。

 クロムは差し出された手を握って、名乗った。

「俺はクロム。クロム=オグニル。どっかでまた会ったら、そんときも宜しく!」

 ケトンは驚いた表情になったが、直ぐに今度は照れた表情を浮かべて、手を握り返しながら、

「ああ。いつかな」




 ケトンと別れて、また商店街の中を歩いていく。

 何故、元の世界の記憶が消えたのか。

 何故、こちらの世界の字が読めたのか。

 頭の中で、この2つの疑問が浮かび上がって離れない。

 でも、その答えはきっと、この世界で生活していけば見つけられるはずだ。

 異国の地、いや、異世界の地だろうがどこだろうが、必ず生き残る。元の世界に帰るために。

 クロムと名付けられた少年は、意志を新たにして、その一歩を踏み出す。



 .........はずだったのだが。

「腹減った......」

 クロムは裏路地の真ん中でうつ伏せに倒れていた。

 思えば、この世界に来たのは学校帰り、つまりは夕方である。元の世界とこの世界は時間が同じ流れのようで、現在のお天気状況はがっつり「夜」なのだ。

 途中でいくつもレストランらしき建物を見たが、一文無しな状況なので、入れるわけない。

 そして我慢に我慢を重ねた結果が、今の状況だ。

「異世界転移1日目にして早くも瀕死の状態とか情けなさで涙が出てくるよ......あー腹減った......」

 せっかくケトンという優しいおっちゃんに情報をもらって、さあこれからだと気持ちを新たにしたはずなのになぁ、と1人悲嘆していると、


「ねえ、大丈夫かい?」


 顔を上げると、青色のキャスケット帽を被り、黒色のパーカーを着た少女がこちらの顔を覗き込んでいた。

 クロムはうつ伏せのまま、精一杯の見栄を張ってどこか堂々と言った。


「全然大丈夫じゃない!」

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