プロローグ
恐怖の怪談 かくれんぼ
目を覚ました時、僕は知らない家に居た。電気が付いておらず真っ暗で、周りの様子が分からない。
「ここは___何処なんだ?」
そう呟いた時、ガサガサっ、と何処からか音がした。こんな真っ暗な家の中で、僕以外にも人間が居るのかと最初はそこに驚いたが、しかしその直後、それなら自分が置かれている状況は、かなり危険だという事に気が付き、それは恐怖の感情に移り変わった。もしこの家の人間なら、僕は泥棒扱いになるだろうし、もし其の人物もこの家の人間じゃないなら、そいつが強盗目的でこの家に入ったという可能性もある。そして、これは無いと信じているのだが___
もし、人間ですらないのなら___
「…へ、ヘヘッ、僕は何を考えてるんだよ。馬鹿か僕は。」
そんな事ある筈が無い。幽霊とか化物とか、そんなの、ただの空想上の概念だ。そんなもの___
暫くの暗闇の中で、目が慣れてきた僕の目に飛び込んできた景色、それは___
床も壁も、血の跡がびっしりこべり付き、家具は全て壊れていた。そして、僕の足元には紙切れが落ちていた、そこに書かれていた言葉は、子供が書いたような拙い字で
「かくれんぼ、しよ。ぼくがおに」
___ッ!
僕は直ぐにこの家から逃げようと、玄関を探した。
こんな所にいたら、殺されてしまう___ッ!
すると、下の階に降りる階段があった。
ここは2階なのだろうか?
兎に角、玄関を探すには下の階に降りなければ__ !?
下の階から、足音がする。大きさ的に子供だ。となるとさっきの紙切れを書いた子か?…
そこで僕の頭を、恐ろしい考えがよぎった。
もし下の階にいる子供がさっきの「かくれんぼ、しよ」というものを書いたのなら、今その子供は、隠れんぼをしているのではないか?そして、探しているのは僕。そして、かくれんぼのルールに則ると、見つかれば、負け。即ちそれは___
僕は咄嗟に、周りに隠れられる場所がないか探した。すると近くに部屋を見つけた。とにかく隠れなければ、どうなるか分からない。僕はその部屋に飛び込んだ。暗くて周りが良く見えなかったが、沢山物が置かれていた所を見ると、恐らく物置だろう。これだけ物が在れば、物陰に隠れてやり過ごせる筈だ。そう思い物と物の隙間を探していると、床下に続く穴を見つけた。ここに隠れれば見つからない筈だ!僕は必死になって穴の中に体をねじ込み、近くにあった段ボールで入口を塞ぎ、息を殺して穴の中で、奴が来る音に耳を澄ませた。
___ギィィ…
立て付けの悪いドアが軋んだ音を立てた。奴が来たのだ。僕は体の震えを必死に抑えながら奴の動きに集中した。
ガサガサ、ガサガサ…
バタン!
ドタドタッ!
ガシャアァン!
バサバサバサッ!
バキッバキッ!
僕はそんな音を聞きながら身体を震わせ、奴が早くこの部屋から出ていくのを待った。すると、
ギィ、ギィ、
足音が近づいてきた!見つかってしまう…気配を、気配を消すんだ!
僕の息は、恐怖のあまり自然に止まっていた。暫くの間、沈黙が続く。
早く___
早く行ってくれ___!
ギィ、ギィ、ギィ、
ギィィィ…バタン。
ドアの閉まる音がした。
やった…出ていったんだ。
なんとかやり過ごせたんだ!
助かった…
さて、奴がまた戻ってこないうちにここから出て下に降りないと。
僕は穴の上に置いていた段ボールをどかし、穴から身を乗り出した。
そこには、
血の気のない。真っ白な子供の足があった。
「みいつけた」
見上げてみると、そこには目から血を流した、不気味に微笑む子供の顔があっ
かくれんぼ 終わり
『ぎ…』
『ぎぃやあああああああああああああ!!』
「怖い!怖かったぁ!ねぇお姉ちゃん…ってお姉ちゃん?おにいちゃーーん!お姉ちゃん失神してるよー!」
「…ったく、お前らうるせぇなぁ…こんなの子供騙しの怪談だろ?そこまで怖くないだろ…」
「そんなことないもん!怖かったもん!この話!特に最後のみいつけた…のところなんて…あぁ!思い出すだけでも…」
「俺からしたらお前らの叫び声の方がよっぽど驚いたよ!」
俺の名前は神溝 霊。高校二年生だ。
今、テレビの怖い話を見て恐怖しているのは俺の二人の妹、彩佳と幽香だ。上の妹、彩佳は内気で口数が少なく、下の妹、幽香は明るく、お喋りが大好きな、正反対の性格の二人だが、とても仲良く、いつでも二人一緒に過ごしている。これまでの感じで分かっていただけたと思うが二人ともとっても元気な可愛い妹たちである。(幽霊番組を見て失神するほど)
「お前ら…そんなので怖がるのかよ…」
「ムッ!お兄ちゃんそんな事言わないでよ!怖いものは怖いよ!だって私達まだ中学二年生だもん!」
「いや、まぁ、そうかもしれないけど…年齢とかの問題じゃあないよ…」
「じゃあどういう問題なのっ!」
妹が頬をふくれてそう言う。
「いやだって…俺たち兄弟は…」
「本物じゃん。半身は人間でも、半身は本物のお化けって奴じゃん。」
「ちょっとお兄ちゃん!私達は幽霊じゃなくて妖怪じゃない!」
「あんま変わんねぇよ!」
「おーい、お前らー。晩飯できたぞー。今日はカレーだぞぉ〜!」
「お父さん本当!?やったあ〜!」
「カレー!?」
カレーと聞いて、さっきまで失神してた妹まで飛び起きた。
「お前ら、失神したり、喜んだり、忙しいなぁ…。」
「そりゃ喜ぶよ!お父さんのカレー最高だもん!」
「はっはっはぁ!お前らホントに可愛いなぁ!お父さん感激だよ…っ!さぁこっちへ来い。抱き締めてやろう。お?どうした霊、俺の事をジロジロ見て。お前も抱きしめてもらいたいのか?」
「何が悲しくて高校二年にもなって実の父親に抱き締めてもらわんといけないんだ!親バカすぎるだろと思って見てたんだよ!こいつらも中二だぞ?」
「いやいや、どこの家庭の親もこんなもんだよ。子供達は可愛くてしょうがないさ。な、彩佳に霊香!」
「はぁ…でもそいつらに彼氏でもできたらどうするんだ?流石にいつまでもそうベタベタしていられる訳じゃないんだぞ?」
「はっはっはっ、なぁに、そん時はそん時さ。と言うことで二人とも、ボーイフレンドが出来たらお父さんに言ってくれよ!色々準備するから。」
なんだ、意外とちゃんと応援するんだな。そこら辺はちゃんとした父親なんじゃないか___
「包丁研ぐとかしとかないといけないからな…」
「何の準備だーーーっ!やめろ!娘のボーイフレンドを殺ろうとするなぁーっ!」
「ハハハハハ、何。冗談だよー。ハハハハハ…フハハハハハハハハハハハ」
「なんか笑い方とかが怖いんだけど?やる気だろ絶対それー!目が笑ってないもん!」
「お父さん大丈夫だよ!私達ボーイフレンドとかいないから!それに…私達には、お兄ちゃんって言う素敵な男の子が居るもん!!(所謂ブラコン)」
「おっ、そうかそうか!ハッハッハッ!ふぅ…残念だなぁ…実の息子を自らの手で…」
「父さんがご乱心の様子だーーー!幽香!お父さんも好きだってちゃんと言い直してくれー!」
「お父さん安心して?もちろんお父さんも好きだよ!」
「幽香…ホントか?」
「うん、ほんとだよ?だから安心して!」
「お前達…ありがとう…!」
ふぅ…取り敢えずなんとか親父も落ち着いたみたいだ…
「あ、でも付き合うとか、結婚するとかになるとちょっと…」
「ゥオオーイ!何でそれを付け足したんだよ!ああっ!父さんやめて!台所から包丁を持って来ないで!帰ってこーーい!」
この親バカ男が俺の父親の悠作だ。基本的におちゃらけてて、話の中で恐ろしい程の冗談を言うので、何処までがホントで、何処からが冗談か全く分からない、めんどくさい男だ。あ、実際に父親のカレーは絶品だ。(一応ここまでのフォローも兼ねて言っておこう。)
「さてと、冗談はこれ位にしといて、腹も減ったし、早く飯を食うぞー。」
「はーい。」
「そんじゃ、今日は霊が頂きますって言う日だ。声小さかったら言い直させるからな?」
「ええっ!?ったく…分かったよ。そんじゃ、いただきまーす!」
『いただきまーす!』
明るく、楽しい家庭だが、普通ではない。僕達兄弟は、人間の父親と、妖怪の母親から産まれてきた、妖怪と人間のハーフだ。まぁだからと言って楽しくなかったり、周りに馴染めないとか言った事は無い。しかしこんな存在である以上、僕らの周りは不思議、奇妙で溢れてる。
これは、僕達と、ちょっと奇妙で、愛おしい奴らとの日々の物語___
『僕らの愉怪な日常』のお話___