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sickズ ~余命幾ばくもない戦士たち~  作者: 念平夢
Chapter1 宣告(オトシ)
2/8

Act01 POWOR or SICK? 股間に秘められし謎!

ー 努力などするもしないも人の自由。

  幸せになるもならぬも努力次第。

  しかし強制的に努力強いられる時あり。

  達成なれど通常に戻るのみ。

  大金獲られず。


 球印圭たまじるしけいが実家の古びた物置の、これまた古びた木の箱から発見された詩集を見ていた。恐らくこれは亡き祖父のものだろう、父から祖父は詩を書くのが趣味だと聞いたことがあるからだ。

 その詩集の中で、続きが破られ紛失している前述の詩に目を止め、球印は思った。

「努力とか、あんました事ねーなぁ、受験勉強くらいか?」

「強制的って、どういうことだ?北朝鮮の奴隷にされるのか?おー怖!しかし、じいちゃん気の毒だったよなぁ、その分俺に幸せが来たのか」

 彼のような軽い性格の男でも、目に留まった詩だ、そのほかの詩は流し読みをしてもう記憶にすらないというのに…何でこの詩だけ…続きが見れないから逆に興味を引いたのか?しかしその詩すら、彼は次第に興味をなくしていった。


 球印圭にとって、本日は人生のメインイベントと考えている、彼女との初デートなのである。受験や就職活動などのほうがイベント度は大きいんじゃあね?という人もいるが、彼のような後先考えない、かつ思春期真っ盛りの人間にとっては、デート程度でも一大イベントなのだろう。それに比べたらさっきの"ジジイ"の詩など、どうでもよくなってきていた。


 彼は今、幸福絶頂期らしい。ルックスこそは〇プチューン〇内健似の普通のあっさりとした平凡しょうゆ顔だが、学生生活も実に充実している、友達も多く、そして何より恋人がいる。独りぼっちの人間にとっては、尻から爆弾を埋め込んで爆殺してやりたい位羨ましい野郎だ。

 それだけではない、コンビニのアルバイトも、そこそこうまくいっている、期限切れの食品もタダで食べ放題、違反行為なのだが、罪悪感はない。どうせ捨てるのだ、胃袋に捨てようが問題ないと思ってやがるからだ。

 更に羨ましい事に、拾った宝くじで100万円も当てやがったのだ!ついてない人間にとっては、チ〇コに爆弾括りつけて爆殺してやりたい程のラッキー野郎である。しかも"努力"という言葉も行動も大嫌いである。つまり、完全に"運"のみで幸せになった男なのだ。


 そんな幸せ過ぎる気持ちの高ぶりからなのか、最近、股間が妙な感覚が訪れてくる、なんかモヤモヤする、重く感じられるのだ。彼はポジティブに、

《チ〇コが焦っているのか…?ヤりたがっているのか...?》

と考える、浅はかな彼ならではの思考だ。

「なんせ今日はデートだもんな…ムスコもウズウズしてるんだろうな、わかるわかる、今日夜、絶対遊ばせてあげるからね~~」

夜のベットプレイを股間に約束をし、更に左小指を適度に起ってる〇ンコに絡ませて、指切りげんまんならぬ"チン切りげんまん"行った。これを見た母親は完全に危ない息子と思ってしまった。


 デートも終盤に差し掛かった。すっかり日も暮れ、遊園地で遊びつくし、退場した直後、彼女に大事な約束、そう、メインイベントの話を切り出した。正直球印にとって、今までの遊園地とかなど、若手お笑い…いやお寒い芸人の前座並みに興味がなかった。

「さぁて原っちん…」

彼女、原美由を愛称で呼び、

「約束の…ムフフ…待ちに待ったこの日を…」

ニヤけながらメインイベントの話を持ち掛けた。

「えぇ~?なにを~?」

原は甘え口調でとぼけた。

「ほら~、あれだよ~、下半身の~キッッス!」

球印は彼女が本当に忘れたと思ったのか、記憶を呼び起こすべく腰をゆったり、素早く動かす努力をしてみた。

「んん~もお~エッチなんだから~、セッ…もぉ~こんな公衆の前で言わせないでよぉ~~」

原は照れた。アレを言うのが恥ずかしいのだろう。周囲の人間は完全にバカップルと捉えている。

「解ってんじゃあ~ん、そう、男女最高の快楽!生物最高の営み!そう、セック…」

あれを言ってしまった球印、すると、

「おい!公衆の面前だっつってんだろうが!空気読めや!!」

何と!急に男らしい態度に豹変!これがアスリート、原美由である。実は柔道の選手でもあり、デート用と試合用とを人格を使い分けている。ただ、デートの時ですら感情が昂ると試合用の男が出てくる時がある。

それで怒鳴られた時、もはや球印は

「すいません…」

と、謝るしかないのである。

「んでさ~、プレイ場所はどこにしよ~か~」

変わり身の早さも球印のウリだ、いつものことなので慣れているせいだろう。


 球印はかなり焦っている、イベントがしたくて仕方がない様子だ。

「俺の股間もかなり待たされたせいでさ~最近熱くてよ~熱さを通り越して、イてえぐれえだぜ~~!!」

話も若干熱くなっていた。

「ふ~じこちゃ~ん」

彼が行為時によく使用されるギャグを放つ。

「セックかさないでよ~ルプァ~ン」

原は"セック〇"と"急かす"の合わせ言葉、昔で言う"ギャル語"を発した、ピコ〇郎でも思いつかない言葉だろう。

 球印は恥も知らず、興奮気味に、

「こりゃすげ~よ!マジで進化の予兆だぜ~俺の〇ンコ。も~スゲープレイができっぜェ~!」

自分の股間の状態を話した。

「進化~?ただ起ってるだけじゃあないの~~??」

原は逆に冷め気味だ。

「いや~これは、、ガチだぜ~、ガチでチン〇が痛むんだって、疼くんだって、ぜってースゲー事になってるんだって!」

球印は止まらない。

「痛いィ!?マジかィ!そりゃあもー先に、病院行くしかないじゃあ~ん。セッ○スしている場合じゃあないよ」

原は正論で彼の興奮を止めようとする。

「びょっ?病気??穏やかじゃあねーなぁそれ...」

病気という、球印にとって聞きなれない単語を聞いて、ようやく興奮が止まった。"馬鹿は風邪をひかない"というが、彼は正にそれである。最もこれは逆で、馬鹿は自己管理ができてないので病気になりやすいのだが…

「だろーね、こっちも病気移されちゃあかなわんし~」

原も一安心。

 しかしここで、急にテンションを下げたせいか、それとも病気という言葉を聞いたせいなのか、彼の股間に激痛が走った!

「イテテテェ…畜生…やっぱ病院行くしかねーのかぁ?」

球印は股間を抑えたが、すぐに痛みが止んだ。

しかし球印は性懲りもなく、

「この反応…ぜってーパワーアップだって!スッゲー行為プレイが出来るって!セック過ぎるメインイベントが巻き起こせるって!」

彼も"〇ックス"と"過ぎる"を合体させギャル語を作った。

原は呆れ、

「セック過ぎるんじゃあなくって、シック過ぎるんじゃあねーの?」

球印は突如飛び出た"シック過ぎる"が理解できず、思わず「はぁ?」となった。

ついに原は苛立ち、

「シックとは英語で病気のことじゃ!つまり"病気過ぎる"っつーギャル語じゃあ!とっとと病院行ってこい!!」

怒りのあまり自分でギャル語と言ってしまう始末。恐怖した彼は一目散に、

「は!はい!!」

自宅へ駆け足で帰っていった。


 翌日、彼女に言われ、球印は渋々病院に行くことを決めた。

しかし彼はまだ疑っていた。

「病気なわけねーと思うがなァ…俺のチ〇コに限って…最近オナニーしかしてねーし、本番もとーぜんやってねェ。ぜってー進化だって、おや…〇ンコのようすが…みたいな、もう丸わかりだよ、チン〇の魂胆丸分かりだよ!!」

 余談だが、伏字の単語が出てくる耽美に隠す文字がずれており、意味をなさなくなってきている。しかし、商業誌ゆえに伏字でなくしてしまうと載せられなくなってしまうので毎度この単語は一応伏せるしかないのだ。だから、単語の文字をすべて知ってもらうためあえてずらして書いたのだ。これは規制へのささやかな抵抗である。

「でもまァ…無罪の証明書見せねーと、原っち納得しねーしなァ。行くしかねーかぁ…なけなしの勇気振り絞ってよぉ、病院という名のポケ〇ンセンターへ」

 しかし、行こうとしたが、彼にはどこの病院に行くかわからない。歯が痛ければ歯医者、目が悪くなれば眼科、等は分かるがチン〇が痛いときは?まさかパチンコ屋じゃあないかと思ったが、そこは病院じゃあねー!と自分で突っ込んだ。

 悩んでいても仕方が無い!彼は調べもせずに、近くの病院に行くことにした。


 球印の自宅から徒歩十分程にある個人病院がある。住宅街の家と家の間にそれは建っていた。赤い瓦の屋根に黄色のコンクリート外壁、黒いドアの上に「岩尾木いわおぎクリニック」と書かれた木材の看板が掲げられている。アイドルに紛れこんだ芸人のように風景から明らかに浮いており、怪しさを醸し出している、明らかに中国が関わっていそうだ。

 だが球印にとって、そんなことは関係なかった。今まで健康優良児だった彼は、殆ど病院に通ったことがない、怪しいとか、危ないとか、頭にないのだ。そんなことより自分の股間がどれ程進化しているか、早く知りたかった。その一心で、何のためらいもなく院内に入っていった。


 受付を済ませると、すぐに診察室に呼ばれた。牛丼店のような速さだが、その理由として、客など誰一人入っていなかったからだ。

 診察室へ入ると、球印は速攻、腹の中で、

《うっ!?こ、こいつは...》

とつぶやき、そして笑った。医者のいでたちが髭の濃い、ゲイバーで働いているかのような、フット〇ールアワー岩〇にも似た、中年男性オッサンを見て。

 医者はそんな患者の笑みを無視し、

「はい、どうされました?」

事務的に問いた。オカマ口調ではない様だ。

珍しく球印は、

「えっ!?えぇ...あ...あのう...何ていうか...その...チ...チン...あぁ~もう言えん!は、はずい、なんかはずい…」

異様に恥ずかしがった。

「はい?何も恥ずかしがることないですよ、落ち着いて」

医者の言葉も耳に入らず、球印は考え事に陥った。

《ば、ばかな…この球印圭、女にも子供にも上司にも下ネタを軽く言える度胸のある男の筈、それなのに何故言えねえ…》

相手がホモっぽく、変な感情を持たれちまう!そんな危険性があると生理的に感じたから言いづらいのだろう。

医者は業を煮やし、

「告白やあないんやから、言える筈でっせ。チン○に違和感を感じると、チ○コがビンビンしていると、わしの顔見てごっつ〇ンコが吠えちまったとね」

関西人のようだ、何やら己惚れている様子。"やあない"と伸ばしているが、関東弁の"じゃあない"と一緒のようなものなのだろう。

「えっ!?そ、そんなことは思って…」

球印は赤面し、照れ隠しした。

「アナタ書きましたでしょ、問診票に。チン○がなんかおかしいと…」

医者は問い詰めた。すると球印は赤面が引いてきて、

「えっ?じゃあ何で聞いたんです?」

と質問。

「患者さんの口からも聞かなきゃあかん。就活かて履歴書見せた後面接やるでしょ?目にも耳にも訴えなきゃああかん」

医者は妙な理屈で答えた。


「バラエティー番組のテロップみたいなもんっすね」

なけなしの知識から例えた球印。

「テロップつけりゃあ寒いギャグが面白くなると思ってる考えが腹立つ、寒いのは何やってもスベるっちゅうねん!」

医者は例えに文句がないみたいだ、話に乗ってきた。

「わかるわかる、余計白けるっちゅうねん。でもクソ笑った字幕があったんですよ、アニメなんすけどね、ガキがお供の黄色いネズミに『相棒だ』っていうとこの字幕が『愛棒だ』ってなってて、下ネタになってムッチャ笑った覚えがある」

球印も乗ってきた。しかも話し方まで移ってしまい、少々関西弁になってしまっていた。

「ヒャハハ!!そりゃああかん!!でも冗談おいて最近のテレビは詰まらないですよね」

医師は爆笑!話が少し脱線してきた。

「アニメの方が面白いくらいっすもん、最初アニメなんてガキの見るモンだと思ってたけど、なかなかどうして、バラエティーやドラマより面白いからビビるわ」

返す球印。話は完全にテレビ番組の方向へ、週刊脱力タイムズのような話の脱線ぶりだ。

「ガキ向けっつっても、大人が作っとるからな、そりゃ大人も楽しめるやろ。そして大人向けのアニメもある、いやオタク向けかな、どちらにしてもバラエティーよりずっと冒険してる」

医師も多少なりともアニメを見ているようだ。最近では色んな人間がアニメを視聴している、「マニアだけしか見ていない」なんていう考えは、もう既に過去の物なのだ。

「何でバラエティーが詰まらないのか、出てくるのがどれも同じ芸人。これやあどんな企画でも同じようになるっちゅうねん」

続けて医師が愚痴る、的を得ている。

「構成どれも大半トークっすもんね」

球印も納得。


「あと、テレビがつまらん理由、規制が多すぎなんスよね~」

球印、更に話進める。

「規制出してる意味、ガチでわからへん、子供守る為のモンやろ?下ネタって子供脅かしてるか?」

そして話に乗っかる医師。反省などしていなかった。

「脅かされた覚え、全くないっすね~~」

 子供の頃の自分を思い出した球印。昔は今と違い、過激な下ネタ、暴力表現、そして女性の乳首、子供の性器がモザイクなしでお茶の間に流れていた、しかしそれらを見ていた自分も、周りの友人も、悪い影響など全く出てこなかった。

「せやろ?聞いたことあらへん子供がエロ見てえろくなったとか聞いたことない。逆なんですわ、子供の頃規制されると大人になって爆発すんねん!とんでもなくエロになる、それこそ犯罪を犯してしまう程にねェ~」

医師も同感だった。尿を出さずにためていると、膀胱破裂で死に至るのと同じということに。

「レイプ魔誕生みたいな」

規制が性犯罪者を育てていると言いたい球印。

「そうそう、知ってます?エロ規制が激しい国ほど、性犯罪が多いんだってことに」

世界の状況をチャラ男に質問する医師。

「そーなりますよねェ…レイプ魔爆発みたいな」

ワード推しがうるさい球印。

「解ってないねんな、人の育ち方が、しつけの下手な親みたいな、とりあえず厳しくしつけときゃいいみたいな。そんな親じゃあろくな子が育ちませんよ、だいたい子供の作り方ぐれー教えとけと」

怒りを露わにする医師。

「そういう国って、変わらないンすかね?昔からあるじゃん」

球印も、多少は世界を分かっていたようだ。

「難しいのよ。宗教がらみやから、国全体が洗脳されとる。牛が神様とかいまだに思われてて喰うの禁止にしとる国が21世紀の今でも変わっとらんぐらいや。変えられたら、それこそノーベル賞モンやでェ」

世界の難しさをチャラ男に訴える医師

「俺、日本人でよかったーー!」

日本人以外にケンカを売るような喜び方をする球印。

「日本だとて安心できませんよ、どんどん規制が激しくなってくるから。このまま規制派の好きにやらせておいたら最悪、ニュースや旅番組しかなくなる、しまいにゃあ”砂嵐”しかなくなってまうで…」

語った後顔を覆う医師。

「最悪や…考えただけで奇声を上げたくなるぜ…」

頭抱える球印。

「ニュースこそ規制されるべきやと思うねん…だって犯罪者の真似する模倣犯が出てくるし、ドラマやアニメの模倣犯なんかよりもずっと多い、人はフィクションよりも現実を真似るんやから」

もっともなことを語る医師。実写、ノンフィクションの方が遥かに真似しやすい。

「退化してるよなあテレビは…俺のチン〇の様に進化しなきゃあな。俺の〇ンコは、今まさに進化しようとしている、そうっすよね、医者!」

話を戻してしまった球印。

「それは検査してみいひんと何ともいえん。てかトークしてる暇あらへん!診断の途中やってん…」

トークを切り上げる医者。

「じゃあ早く頼みますわ」

関西弁で診察を急かす球印。


 客の心をほぐす前座が終わり、いよいよ診察が開始される。医師はまず、何故か銀色のトレーを差し出し、

「じゃあ早速ここにチン〇を置いてください」

と指示。

「えっ!?どーやって置くん??」

当然、球印は疑問で返す。まだ関西弁が移っているようだ。

「取り外して」

「でき…るかィ」

急かす医師に、疑問を浮かべながら関西弁で突っ込む球印。

「冗談ですよ…ピリピリしとったんでね」

この医師は冗談好きのようだ、患者を和ませようとしているのか。しかも今まで和やかだったのに、こんなことを言ってくる始末、それに対し球印は

「…ですよねェ、ずっと静かでしたしねェ…フフ」

突っ込まずに乗った。


「じゃあ本番!」

そう言って、医師は球印の股間を触り始めた。

「きゃあ!?」

思わず、女子みたいな悲鳴を上げた。

「きゃあ!やあらへんがな、美少女キャラか!今まで聞いた中で一番キツい”きゃあ”やでェ」

別に医師はアニメ好きではないのだが、アニメというのは意外に一般にも浸透しているのだ。

「触らんことには調べられへん、んっ?しこりが!う~んこれは、とりあえずレントゲン撮りましょう」

偶然駄洒落になってしまい、これぞ本当の錦織圭!と脳内をよぎり笑ってしまった医師。早速レントゲンを撮ろうとしたら、球印が変な一言、

「チ〇コの骨格を見るわけですな」

「フニャフニャやん、骨格なんてあるかい」

球印に骨格の知識はなかった。

「骨格はないが、それより硬い”筋”はあるぜ!」

「なにぬかしとんねん!じゃ、早速撮りますよ、時間がないねん」

そして球印には筋の使い方を知らなかった。

 いよいよ冗談抜きの、本格的な診断が始まった、と言っても股間のレントゲンと血液検査だけだった、しかし事の重大さを発見できたので、それだけで十分だった。



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