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誘拐

 カナルとテールと俺の三人で今の研究を始めてから、もう2週間ほどになるだろうか。


 テールが話だけでなく、元のシガラキオンが観たいと言い出したのだ。

 だが、冷蔵庫なんかはあっても流石にテレビも再生機も無いこの世界では、視聴させてあげたくても諦めざるを得なかった。


 その後、ロワから魔術には、相手に幻を見せるものや好きな夢を見せるものがあることを聞いた俺は、その魔術を使ってテールに作品を見せることはできないかと思い、なんとか鉱石操作で魔術陣を書けるよう勉強したのだが……。

 結果はさんざんな有様だった。

 wまず、幻や夢を見せる魔術を試したところ相手が朦朧とするせいか、肝心の夢や幻の内容が曖昧なものになってしまった。コレでは意味が無い。


 次に、思いを伝える魔術と銘打たれていたテレパシーみたいな魔術を試してみたが、2メートルくらいの距離の相手と話ができるくらいの魔術で、欲していた性能ではなかった。

 せっかく覚えたのに……。


 落ち込む俺にテールが紹介してくれたのが、カナルだ。

 カナルは最初、テールの魔法見たさに近づいたらしいが、テールからシガラキオンの話を聞かされるうちにドハマリし俺が出会った時にはもう立派な信者だった。

 カナルは天才だった。というのも、俺がやりたいことと今までの結果を伝えると、既存の魔術にカナルが開発したという静止画を壁などに映す魔術「投影」を組み合わせ、映写機のような素晴らしい魔術を組み上げてくれたのだ。

 だがこの魔術「映写」には消費魔力量が多すぎるという欠点があり、一度に2話分しか再生できない。しかも、原作を100回以上は見てセリフまで完璧に記憶している俺を接続しないといけない。

 それをみていたテールが俺に魔法を使ってくれたのだが、使われた瞬間俺の体がガンガン周囲の魔力を吸収しだし、今度は全身が壊れるかと思った。

 テールの魔法による回復手段は、主にロワ的な意味で危険すぎるため、毎日2話ずつ放送しようかと妥協を提案しようとしたのだが。中途半端に2話まで見せられたカナルの熱意は高く、是非研究に加わりたいとの本人の希望もあり、本格的に研究を始めることとなった。


 今日も俺とテールはロワ達が学校に行ったのを見届けると、急いでカナルの研究室に移動した。

 ロワとカルムにはこの研究の事は黙っている。

 というのも、シガラキオンは当時絶大な人気を誇っていたのだが、ファンの女性者層が1%を切っていた。

 当然といえば当然なのだが、まず理解されないだろうという確信があったため余計な追求を避ける意味もあり、黙っておくことにしたのだ。


 あれから、研究はあと一歩といったところで暗礁に乗り上げている。

 正直、「映写」は完成しているのだが、内容を記憶する記憶魔術の開発が遅々として進んでいない。 「見たい者が見たい時に見られる」をモットーに研究している我々にとって、これは由々しき事態なのだ。


「では、試作記憶魔術の発動実験を開始させて頂きますぞ」

「う、うむ、宜しく頼むぞ」


 カナルがこんな態度をとるのは「お二方の研究の末席を汚す身として、上下の区別はハッキリさせておくべきだ」とのことで、正直年上にこんな畏まった態度をとられるのは落ち着かない。

 何度言っても聞いてくれないんだよなぁ。

「いずれ、研究が日の目を見たらわかる」なんて言ってたけど、前に何かあったの?

 

「あ、また失敗だ」 


 調整はカナルに任せ、続きはまた後日にするということになった。


 その後、カナルの勧めで先に帰っていた俺達がロワとテールを迎え、ロワ宛てに手紙が届いていた事を伝えると、なにやら家族がこの街まで来ているようで、明日皆で行くみたいだ。

 俺も行きたいと言ってみたが、いつも通り断られてしまった。

 その日は皆早く寝るようで、俺は長い夜をすっかり習慣になった鉱石操作の練習に費やして過ごした。


 翌日、俺はロワ達三人を見送ると、今日はカナルが講義があると言っていた事を思い出し、また操作練習でもして時間を潰すか……と、思い立ったところで来客がきた。

 カナルかと思って確認したところ、あまり面識はないが何度かこの研究室に来た事がある教員、デセオさんだった。


「こんな早い時間からすまんね。今日は是非君に協力して貰いたい実験があるのだが、頼まれてもらえないだろうか」

「大丈夫ですよ。俺は寝ませんからね。実験ですか? どんな内容なので?」

「ちょっとした耐久実験とでも言えばいいか。そのようなものだよ」

「ふむ……まぁ丁度暇していたところなので俺は構いませんよ? あ、ちょっと待って貰えますか? ウチの者に書置きを――」

「い、いや、それには及ばんよ。すぐ終わる実験なのでな」

「ん? そうなのですか? なら行きましょうか」

 

 実験には、少しばかり大がかりな装置を使うとのことで、裏門に停めてある馬車で移動することになった。

 この世界どころか元の世界でも馬車なんか乗ったことがない俺は嬉々として馬車に乗り込む。


「おぉぉ、馬車。すごいな。初めて乗ったけど、めっちゃ揺れるんですね……」


 思ったより揺れるし、全然乗り心地が良くない。

 と、ちょっと憧れていた馬車にガックリ来ている俺にデセオさんが遠くを指差す。


「そうかね? こんなものだと思うが。お、アレを見てくれ」


 デセオさんに言われるがまま俺は言われた方向を見てみるが何も無い。が、突然、視界が真っ暗になり、手足の感覚が消失した。

 

「こんなに簡単に事が運ぶとは、こいつバカなんじゃないか?」


 と、混乱していた俺にデセオさんの声が聞こえてきた。

 どうやら俺はゴーレム本体から、俺自身であるコアを抜き取られたようだ……。またですか。

 今思えばおかしいところはたくさんあった。

 妙に挙動不審だったし、俺が質問するたびにビクついていたように思う。

 

「すんません。ちょっと馬車に浮かれてまして……」

「お前このままでも聞こえて喋れるのか。いや、私も聞こえないと思ってな。申し訳ない、過言であった」


 俺はちょっと憎めない感じのデセオさんに誘拐されたようだった





―――





 馬車が走り出して数時間が経った頃。


「うるせぇぇ! さっきから歌ったり騒いだり! お前は誘拐されてんだぞ。少しは静かにできねぇのか!」


 体も動かせないし、せっかくの初馬車なのに景色も見えないしで散々なので、暇つぶしに歌ったりしてたらガラの悪い御者に凄い怒られた。


「お前に俺の何がわかるんだ! これ、めちゃくちゃ暇なんだぞ! さっきから話かけても無視しやがって! 本当に俺喋ってるのか不安になったじゃねーかっ!」

「まさか無視してるのに日が暮れるまで話しかけてくるとは思わねーだろ! こっちは余計な事は漏らすなって上から言われてんだよ! わかれよ!」

「ま、まぁまぁ落ち着きたまえよ。ほ、ほら、そろそろ夜になる。どこか停められるところを探さねばな」


 この馬車の乗員はデセオさんと御者と俺の三人だ。

 当初俺はデセオさんと話していたのだが、「うむ」と「そうか」しか言わなくなったので御者に話しかけていたのだが、あんまり無視するので俺も維持になって話しかけ続けていたのだ。

 まぁ、怒られちゃったけどな……。

 しかし、上から言われてって、デセオさんが上司ってわけじゃないのか?

 二人の発言から何か得るものが無いかと一応考えていると、馬車が止まる。

 野宿できる場所を見つけたようだ。

 何かを準備する音と、デセオさんの火魔術の詠唱が聞こえていたので間違いないだろう。

 

 暇だ。野宿を始めたらしい二人から魔物や野生動物を引き寄せるから今だけは静かにしてくれって言われたから流石に黙ってるんだが、もう何時間だったかな。もう朝かな? もういいよね。ん?


「なぁ、なんかガサガサ音聞こえね?」

「てめぇ、今度は何言って――」

「いや、本当だ。探知魔術に反応がある。これは……数が多いな、おそらく森狼だ」

「まじかよ、よりによって森狼かよ。あんたならなんとかなるんだよな?」


 森狼?

 

「何なの? 森狼って何なの?」

「前衛がいれば問題ないだろうな。お前に前衛が務まるならだが」

「それは、無理だ。俺はスキルなんて持ってない、ただの御者だ」

「おい無視すんなよ。森狼何なのって聞いてるだろ!」

「なら、このゴーレムの力を借りるしかないだろうな」

「俺が戦うのか? いいぞ、戦っちゃうぞ」


 ずっと動けなかったしストレスも溜まっているところだ。それに、狼見たい!

 

「なんでこいつこんなやる気なんだ」

「良いか? これから君のコアを本体に戻すが、変な気は起こすなよ? 君の体には捕縛用の魔術陣を仕込んであるからな」


 そう言うとデセオさんは俺をゴーレムボディに戻した。ていうか、その手があったか。ダメみたいだが。

 

 視界と手足の感覚が急激に戻ってくる。視界が完全にクリアになり、周囲を確認すると……森狼とやらがいた。

 数は4匹。

 緑がかった黒の体毛に鋭い牙、顔はまさに野生って感じだ。

 そして何より、一匹一匹の体長が2メートルくらいある。

 ……でけぇ。


「でけぇよ! でかすぎだろ森狼。そりゃビビるわ」

「戻ったようだな。今はまだ様子を窺っているようだが、やつら一斉に襲い掛ってくるからな、先制する。壁役は任せるぞ」

「タンクは得意だ。任せろ」


 でも実戦は初めてなんですけどね。

 とりあえず、全身を魔力で満たし、回路と魔術陣を活性化させる。

 前これやったら、力んだ部分が壊れたのだが、その辺はロワによって改修済みだ。


「いくぞ。《風刃》」


 デセオさんが放った魔術が森狼の一匹をズタズタに引き裂き、活動を停止させる。

 が、仲間が攻撃を受けた事で、残りの3匹がデセオさんに向かって一斉に動き出した。

 俺はデセオさんと森狼の間に入って身構える。

 突然間に入った俺に驚いたのか、二匹の森狼が右腕と左脚に噛みついてきた。

 

「うぉ、森狼すごいな。ヒビ入ってる」

「言ってる場合か。そっち回りこんでるぞ!」


 御者の一言で我に返った俺は、回りこもうとした森狼に、左腕で大振りの一撃を食らわせると同時に、右腕の森狼を振り払った。


「おぉ、なかなかやるではないか」


 俺の攻撃を受けた森狼は木に激突し、ギャンっという鳴き声の後に地面に落ちると動かなくなった。

 

「次、いくぞ《風刃》」


 振り払われ、地面に着地してすぐの森狼にデセオさんの魔術が命中し、切り刻む。

 だが、いつの間にか脚に噛みついていた森狼が脚を離し、御者の方に向かっていた。


「うわぁ! こっち来てる! く、来るな!」


 御者は持っていた松明を森狼に向け、振りまわしている。


「アリタァァァロケットフィストォォォ」


 森狼が松明に怯んだ隙を狙い、右腕を「射出」した。

 ロワに頼んで搭載してもらったカナルのオリジナル魔術「射出」である。

 本来は槍や速度の遅い魔術などを加速させる目的で使う魔術らしいが、やたら重量のある俺の腕を射出した結果。森狼は地面に、腕ごとめりこんだ。


「ヒィッ! あ、当たったらどうすんだ!」


 助けたのに怒られるのか……。

 でも憧れの技が決まったのでうれしい。

 しかし、デセオさんはえらい場馴れした感じだったな。

 あの学校は優秀な魔術師をスカウトしてるって話だったし、教師は皆こんなに強いものなんだろうか。今も周囲に気を配ってるし。

 俺は地面に半ば埋まるように突き刺さっている右腕を回収し、鉱石操作で装着する。

 何度も試してみた感じ、回路と魔術陣が生きていれば千切れてもくっつくらしい。後はこの射出した腕が自動で戻ってきてくれれば完璧なんだけどな。

 うわぁ、腕に血が……。


「もういないようだな。だが血の匂いが酷い、移動するとしようか」

「あぁ、わかったよ。今馬車を出す」


 今日はこのまま周囲を警戒しながら移動するはめになりそうだ。

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