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やりすぎちゃった

 ロワ達に話を聞いてから三日が経った。

 

「じゃ、あたしは行くからね。あんたはあんまり出歩くんじゃないよ? たたでさえ目立つんだからね」

「はいはい、まだ外に行く気はないよ。笑われるからね」


 ブオンブオンと腕を振って答える。

 カルムによるとこのボディ。ロワ以外の人から見たらやはりかなりアレなようで、カルムは苦笑いを浮かべながらドアを閉めると、校舎へと向かっていった。

 カルムは俺にかなり責任を感じているようで、何かあるたび様子を見に来る。

 悪い気はしないが、そろそろ俺がもう気にしていない事に気付いて欲しい。


 あの後、10日ほどに迫った進級試験の研究課題として提出するため俺を作ったのだと聞かされ、進級試験に向けて調整をさせて欲しいそうなので、特に反対する理由もないし承諾した。

 そのため、最近は学校が終わるたびこの工房倉庫に集まって調整を繰り返している。


 工房倉庫は、学校側が研究活動をする生徒達に貸し出す建物で、いわばクラブハウスや部室のようなものだ。

 昔生徒が行った実験で学舎が半焼したため、学内敷地のあちこちに建てられたものらしい。

 今いるこの工房倉庫は学内から離れた森の中に建てられていて、寮からもかなり離れた場所にあるためかまだ他の生徒を見たことがない。


 それにしても、工房倉庫が日本でいう納屋にしか見えない。

 それもそのはずでこの国の初代国王は恐らく日本人だ。

 この学校の設立からしてもそうだし、冷蔵庫や炬燵なんかも置いてあるのを見た。

 まぁ、それだけなら勘違いかもしれないが、名前がヒロセ・ユウヤとかいうらしい。

 どう考えても日本人だろ……。

 もう亡くなっているみたいだが。


「ふぁ……おはよ」

「おう、おはよう」


 テールが起きてきた。

 テールはここの休憩室に住んでいて、学校には生徒たちのおもちゃにされるので行かないらしい。

 時刻は昼頃。

 昨日も遅くまでシガラキオンについて語っていたので、まだまだ眠いようだ。

 今は腹が減ったのか冷蔵庫をあさっている。

 この冷蔵庫、なんと魔力で動いている。流石異世界だ。

 この冷蔵庫なら置くとこにも困らないし実家に欲しいくらいだ。

 この世界の住人たちは大なり小なり魔力を持っているそうで、魔力補給式がメジャーなんだそうな。

 それに、俺にとってはどうみても全部魔法にしか見えないのだが、魔術と魔法という明確な区分が存在する。


 詠唱や魔術陣を用いるものを魔術、ダイレクトに事象に干渉する能力を魔法と定義しているとかで、魔法を使えるのは一部の希少種族と伝説に出てくるような魔獣などに限定されるようだが、驚いたことにその一部の希少種族にテールが含まれている。

 今まさに、冷蔵庫を漁るテールが乗っているのは俺が話の参考に作ったダイカンチョー、その下ではシガラキオンに出てくる主人公の愛機である人型ロボット、アリターが冷蔵庫のドアが閉まらないように支えていた。

 これが魔法か……。


「ねぇねぇ。お腹いっぱいになったしお散歩行こうよ」


 冷蔵庫から出したテールと同じくらいの大きさのハムを、全身で抱きつきながら幸せそうに齧っていたテールが食べ終わったのか散歩を提案してきた。


「散歩か。いいけどロワ達にあんま出歩くなっていわれてるけど大丈夫?」

「大丈夫だよ。ここらへんに来る人はめったにいないんだ」


 テールはいつもロワ達が学校に行っている間、ずっと一人で寂しかったらしく、何にでも楽しそうに俺を誘ってくれる。

 正直ここにいてもやることはないし、初めての外にわくわくもする。

 俺はテールの提案を受けることにした。


 テールと散歩し始めてからすでに30分ほど経ち、この体で動くことにそろそろ慣れ始めた頃、周囲を見る余裕が出てきた。

 まず、聞いていたとおり森だ。

 森なのだがやはり異世界らしく見たことのない実や動物ばかりだ。

 と、周囲を見渡していたら、兎に遭遇した。


「お、兎じゃん。こっちでも兎はちゃんと兎なんだな」

「兎って美味しいよね!」

「あれ、食べるの……?」


 何とも言えない気分で兎を見ていたら、こちらに気付いたらしく、ビクっと跳ねると両足で着地し、見事なストライド走法であっという間に見えなくなった。

 

「なぁ、兎って両足で走って逃げるのか? しかも走り方きれいなんだな」

「そうだよ? だから捕まえるの大変なんだって」


 あんなのが食肉らしい……。

 さらに散歩を続けているとリンゴみたいな実を見つけた。


「あ! あれ取って取って!」


 手先を変形させて取ってあげると美味しい実なんだよ、と一つ貰った。

 あの、口ないんですけど。

 まぁご厚意だしなんとか食べてみようとしても、やはり食べられない。


「ごめんなテール。俺にはハードルが高すぎたみたいだ」

「よく考えたら、口ないもんね!」

「そ、そうだね」


 やっぱり食事は不要みたいだな。

 腹も減らないし別にいいか。 


 その後、シガラキオンの話をしながらテールと散歩から帰っていたら、テールにこの体の強さを聞かれた。

 やはり、男の子だからなのか自分も作るのに参加したゴーレムボディの実力が気になるようだ。

 気持ちはわかる。

 じゃなきゃシガラキオンなんかにはまったりしない。


「強さをはかるってどうする?」

「うーん、何かにパンチ?」 

「そういう感じか。じゃ、あれとか」

「いいね!」


 工房倉庫の近くに、成人男性が両腕を回せるくらいの太さの木があったので、殴りつけてみる事にした。

 体を半身にして左前に構え、右腕を引いて右拳を腋に添える。

 シガラキオンの主人公機アリターが得意とする必殺技「アリターフィスト」のポーズだ。

 そのまま後ろに踏み込み腕と腰の回転を乗せて木の幹に向かって右拳を突きこんだ。


「アリタァァフィストォォ!」


 拳の当たった木は幹の中程からバキバキと割れる音を立てながらぽっきりと折れていた。

 はは……すげぇ。

 ロワテールカムルゴーレムすげぇよ。

 こんなんなると思わなかった。

 なんてテンションを上げていたのだが。

 右腕と右脚の付け根部分がパチパチと電気が流れるような感覚と共に火花が散った。


「あれ……? なんか火花でてる!」

「あわわわわ」


  なにが起きているのかわからず、テールとあたふたしていると、付け根部分に亀裂が走りだし、俺の右腕と右脚が外れる。


「ちょ、テール?。取れちゃったんだけど……」 

 

 なんとかバランスを取りながらテールに視線を移すと、大量に汗をかき、視線を逸らしながら、我関せずの構えに入っていた。

 こやつ……。

 とりあえず、最近習得した鉱石操作で元に戻るか試してみたのだが、外れてしまった部分は肉体と認識されないのかくっ付いてくれない。

 焦った俺は、屈みこんでなんとか体にくっ付けようとしていたら、バランスを崩して倒れてしまった。

 うーん。この体は脆いっていうか、ポンコツボディだったのか。

 ちょっと本気で叩いただけでこれとか……。

 全力で走ってみようとかじゃなく本当に良かった。

 あれ、これは……?


 外れた腕を見ながら文句を垂れていると、腕の表面が剥離しビッシリと何か刻まれている部分が露出していた。

 工房倉庫にあった魔術陣のような模様にところどころ金属が点在しているのがわかる。それはまるで回路基板のように複雑な配列で魔術知識皆無の俺でも、それが高度な技術で構成されているであろうことが理解できた。

 どうやらポンコツは俺の方だったらしい……。


 



―――





 授業が終わり帰ってきたロワとカルムが、絶句したまま何もついていない俺の腕と脚を見比べている。汗はかかないが内心滝のように汗を流しつつ、精一杯の謝罪の意味をこめたジャパニーズドゲザを披露した。

 この国では土下座は殺される覚悟を示すものとのことで、慌てた二人になんとか許してもらえたが手足の修理には時間がかかると言われてしまった。


 昇級試験まであと6日間。

 俺達の戦いが始まる。 

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