今後の事
あの後、吐瀉物まみれになった体を洗浄とかいう魔法で洗い流して貰った俺は、疲れて寝てしまった二人から離れて眠ることにしたのだが……。
まったく眠れる気がしない。
そもそも睡眠が必要なのかすら分からない。
そのうち眠くなったりするんだろうか……。
それに、俺が気絶してからどれ位時間が経ったかわからないが、最後が昼前だったことも考えると全く腹が減っていないのは、やはりこんな体だからなんだろうか。
しっかし何度見ても酷いなこのボディ。
ロワはこの体を最高にカッコイイと思って作ったようだが……。
この体が俺で、ここは異世界か……。
認めるしかないんだろうなぁ。
まぁあの3人のおかげで今すぐ身の振り方を考える必要はなさそうだ。
それに、食事の必要も無いなら邪魔になることもないだろうと信じたい。
と考えていたところ、さっきから俺をきらきらした目で見ていた妖精っぽい少年のテールが俺に声をかけてきた。
「ねぇねぇ、さっき言ってたシガラキオンって何なの?」
そんな話したっけ。
あぁ、最初パニクってた時ロワに比較対象として聞かせたような気がするな。
あれのどこが琴線に触れたのかはわからないが、シガラキオン好きとしては聞かれたら答えねばなるまい。
「なんだ少年。シガラキオンに興味あるのかね? 言っておくがシガラキオンは涙無しには語れないぞ?」
シガラキオンは俺がまだ学生だった頃に大流行したロボットアニメだ。
種類豊富な機体と、熱い人間ドラマをベースに主人公達が悪の地球外生命体と戦うシンプルな内容だったのだが、異常なまでに拘った機体設定と敵味方入り乱れた熱い展開で全102話、劇場版が7本も作られるという人気ぶりだった。
ちなみにシガラキオンは最終話に出てくる主人公の愛機と、死んでいった仲間達の機体が合体した最終形態で、それ以前の話にはシガラキオンのシの字も出てこない。
「え! ホントに? 聞きたい!」
ちょうど暇をもてあまし気味だった俺は、この妖精の少年に布教活動という名の洗脳を行うことにした。
――
「そこでぇ! 艦長は全員を船から下ろし「みすみす若いもんをやらせはせんよ……」と言うと、敵艦隊500隻に単艦で最後の勝負に挑んでいったんだ!」
俺は右手を艦長の乗る戦艦ダイカンチョー、左手を敵の艦隊群に変形させ、ダイカンチョーを勢いよく敵艦隊に突っ込ませた。
「だめだよ艦長! それはリザドルン将軍の罠なんだ! 死んじゃやだああ!」
時刻は分からないが、空がもう明るくなってきている。
テールのリアクションが面白すぎてついつい朝まで語り明かしてしまった。
ちなみに、今は23話で艦長が単艦で敵艦隊の6割を道連れに倒すシーンだ。
まぁ艦長は36話でサイボーグ艦長となり、敵側の幹部として再登場するんだが……。
これは、テールにうまく伝えようと四苦八苦していたら、両手が変形したのだ。
びっくりしてダメ元でテールに聞いてみたところ。魔物や一部の魔族なんかが持つ固有能力とかいうやつらしい。
ゴーレムの場合は体だと認識した部位や鉱石などを魔力を消費しながら操ったりできる能力とのことで、これを利用してゴーレムは動いているんだよ! と、思ったより詳しい話が聞けて驚いた。
おかげでこの関節の謎も解けた。
「それで、艦長はどうなったの!?」
「今日はもう朝だからおしまいな。また今度暇なときに続きを話してあげよう」
テールが不満そうに続きを催促してくるが、こっちもそろそろ俺の現状の続きを知りたい。
なかなか起き出さない二人をそろそろ起こしてみようかとテールに体の一部で作ったダイカンチョーを渡し、けしかけてみる。
大喜びでテールはダイカンチョーの上に乗ると、ダイカンチョーを浮かして主砲で攻撃しだした。
「っ! 痛い痛い! テール! やめなさ……。こら!」
主砲を発射できるように作ってなかったんだが……。
今まで話してた内容の思い込みで動いているのか、ペシペシと攻撃されたロワは慌てて起きだした。だが、カルムは種族的に硬いのか、テールの攻撃を弾いている。
テールも本腰を入れてカルム要塞を墜としにかかるようだ。
「それで、ロワ。いくつか聞きたいことがあるんだけど、教えてもらってもいい?」
「ぁ……。ごめんなさい。私寝ちゃってたみたいで。私の分かる範囲でよければ全部話すね」
「助かるよ。とりあえず一番知りたいのは、俺の今後のことなんだけど」
そう、まずはここを確認しておきたい。
もう用済みだから、さっさと出てってね。なんて言われたらもうどうしていいか分からなくなってしまう。
「ごめんね。一番最初に言わなければならなかったのに。ひとまず君にはここ、工房倉庫に住んでもらおうとおもってるんだ」
とりあえず、住居ゲットだ。やったぜ。
ぼろっちいけど。
「あと……君の名前なんだけど。「ワメイ」っていってね。シラセもタキヤも王族しか名乗っちゃだめなんだ」
なんじゃそりゃ。ワメイって、和名のことか?
「それに基本的に名前を二つ持つには貴族位が必要だから、そんな名前を持つゴーレムっていうのは……ね」
んー、つまりゴーレムが白瀬滝也なんて名乗ったら不敬罪でザックリいかれちゃうよってことか。
「ならしょうがないか。んー、ならなんて名乗るのがいいか……」
俺は体を見る。
ゴーレムっていうらしい。
あのマンガやアニメなんかにでてくるゴーレムと同じかどうかは分らないが。
ならそんな名前にちなんだ名前にし――。
「ならとっておきの名前があるよ! 私が君につけようと持ってた名前なんだけどね? ロワテールカムゴーレムなんてどうかな!」
なっがいし、語呂が悪すぎる……。
なんでこの子はこの体のデザインもそうだけどこんなのしか思いつかないんだ。
でも昨日はそれを指摘して泣かれたからな。
ここはやんわり否定しよう。
「ほ、ほらその名前もすごくいいと思うよ? でも俺の名前が完全になくなっちゃうからなー。残念ダナーかっこいい名前ナノニナー」
「え? そ、そうかな? 実はわたしもそう思ってたんだけど……。じゃぁロワテールカムゴーレムのシラタキってどうかな?」
だめかー。後ろの名前いらないんだけどなー。
てかシラタキって……。
俺の小学校時代のあだ名を蒸し返さないでくれよ。
でもこれ以上変な名前付けられても困るし、もうこれでいいや。
「ソウダネ。ソレガイイヨ。てか、しらたきもワメイとやらになるんじゃない?」
「え? そうなの? 違うと思うんだけど」
あぁ、日本人なみの感覚があるわけじゃないってことかな?
「あ、そうなんだ。なら俺は今後はシラタキってことになるのかな。まぁよろしく」
ロワは俺が納得した旨を伝えると、視線を下に落とし辛そうに訊ねてきた。
「その……昨日のことは本当にごめんなさい。カルムもすごい気に病んでるし」
「まぁ本当に気にしないでいいから。俺はこの体少しずつ気に入ってきてるからさ。そりゃに元に戻せるんならその方がいいよ? でも戻せないならしょうがないって」
戻れるなら戻りたいが、気に入りつつあるのは本当だ。
昨日一晩いじってみた感じ。
この体は面白い。
考えようによってはロボになったようなもんだ。
あこがれのロボットだ。あ、ならもっとロボットっぽい見た目にしてくれないかな
「あ、それならさ! この体もっとかっこい――」
「それは嫌」
どうも、昨日のダメ出しを気にしていらっしゃるようだ。
しかし、ワメイか、なんか日本ってワード出すの怖いんだよなぁ。
このままなんとかごまかせるようなら誤魔化しちゃおうかな。
その後、ロワに幾つか話を聞いた後、カルム要塞の攻略具合を見ていたら、寝返りをうったカルムにダイカンチョーは撃墜された。