幼馴染談議~2月・節分について~
これは作者の主観が入っています。多少事実と異なるかもしれません。予めご了承くださいませ。
私には幼馴染がいる。
家が隣で、幼稚園からずっと一緒の幼馴染。
眉目秀麗、成績優秀、文武両道。お金持ちで、人望も厚い。
出来過ぎなくらい、完璧な幼馴染。
その幼馴染の名は、春宮桃李。
私は現在、彼の家の彼の部屋にいた。
前以て言っておこう。
私たちは男女の関係ではない。よって親愛や友愛はあっても恋愛はない。恋人ではなく幼馴染。
そんな彼の家に何故いるのかと言われたら、答えは簡単だ。
「――で、どんな理由なんだよ」
「え、ここは待ってくれるところじゃないの?」
「さっさと話せ」
「分かったよ、仕方ないなぁ」
柳のように美しい眉を顰めて、美声を放つ彼。
私は溜め息をついてから、幼馴染の要望に応えた。
「――今日は2月3日、節分の日。つまり豆を撒いて、恵方巻を食べる日だよ!!」
至って真面目に答えたというのに、桃李は可哀想なものを見るような目を向けた。超人なくせに失礼な幼馴染である。
「くだらないと思わないか?」
「馬鹿じゃないの? そう思う方がくだらないよ」
私は胸を張って、自信に溢れながら言葉を紡ぐ。
「天才と名高い桃李君に教えてあげよう。今日という日がどんな日かを」
このときの気持ちは、実に晴れやかである。
――節分。
それは食べるだけの行事ではない。
節分は雑節の1つで、立春の前日を指す。
え、雑節の説明? うん、いいよ。
雑節は二十四節気と五節句の暦日の他に、季節の移り変わりをより正確に掴むために設けられた、特別な暦日。
二十四節気は大雑把に言えば、1年を春夏秋冬の4つに分けて、更に6つに分けた24の期間を表すんだよ。メジャーなところだと、残暑とか冬至とかね。
五節句は中国の陰陽五行説に由来して定着した、日本の伝統的な年中行事を行う日のこと。例えば、雛祭りとか七夕だね。
……この話はおいておこうか。
えっと節分の日は江戸時代以降に、立春の前日を指すようになったの。
大寒の最後の日だから1番寒い日なんだよね。
一般的には『福は内ー、鬼は外ー』って言いながら、豆――福豆って言うんだけど――を撒く。撒いた豆は年齢の数、又は1つ多く食べて厄除けをするの。他にも邪気除けの柊鰯なんていうものを飾る。
でも地方や神社によって異なってくるらしいよ。当然と言えば、当然だけど。
そもそもが、季節の変わり目には邪気――昔は鬼と考えられたみたい――が生じると考えられていたらしいの。それを追い払う悪霊払い行事が執り行われる。宮中行事にも組み込まれていたらしいし、平安時代頃から伝わっている追儺――鬼払いの儀式が始まりとされる。
豆撒きもその一環だ。邪気を追い払うためにするものなんだって。なんでも故事伝説や信仰、語呂合わせによるものとか。豆撒きに含まれる意味は、“鬼に豆をぶつけることにより、邪気を追い払い、1年の無病息災を願う”こと。
撒いた豆を自分の年齢の数だけ食べる。後は、1つ多く食べると体が丈夫になって風邪をひかないという習わしがあるところもあるみたい。
使う豆は、お祓いを行った炒った大豆――炒り豆だね――だ。炒り豆を使うのは、節分は旧年の厄災を負って払い捨てられるものでなければならない。つまり撒いた豆から芽が出ちゃうと不都合な訳だ。
地域によっては落花生や餅、お菓子に蜜柑なんて物もあるらしいよ。落花生変わった理由は“大豆より拾い易くて、地面に落ちても実が汚れないから”なんて合理性から独自のものになったらしいけど。
言い忘れていたよ。
地方や神社によって違うって話をしたよね。
アレは掛け声のこと。
鬼を邪気とするところもあれば、鬼を祭神や神の使いとしている神社もある。後者では『鬼は外』じゃなくて『鬼も内』にしているらしいよ。ある神社ではある故事から『福は内、鬼も内』って言っているね。
他にも家庭内の豆撒きも“鬼”の付く性――少ないけどいない訳じゃないから――の家庭、地域も『鬼は内』にしているみたいだね。
う~ん、恵方巻についてはそんなに語りたくないんだよね。語ることがないというか……。
いや、食べるのは好きだよ? でも豆撒きと違って歴史がないからなぁ。
まぁこういう機会でもなければ語らせてもらえないから、喋るけど。
恵方巻は、節分の日に食べると縁起が良いとされている物。太巻き――巻き寿司――は、大阪を中心として行われている習慣のこと、らしい。
恵方巻の名称は1998年――平成10年にセブン-イレブンが全国発売にあたり、“丸かぶり寿司恵方巻”と採用されたことにより広まったらしい。“丸かぶり寿司”や“節分の巻きずし”、“幸運巻寿司”って呼ばれていたみたいだけど、“恵方巻”はなかったみたいなの。
食べ方は、恵方に向かって無言で、願い事を思い浮かべながら丸かじりするのが習わし。恵方は、歳徳神の在する方位のこと。歳徳神というのは、陰陽道でその年の福徳を司る神様。
詳しく説明すると、古事記の方へ行くからこの辺りでお終い。
ふーと息を吐く。
「……お疲れ」
「有難う」
にっこり笑って返す。
綺麗な幼馴染は呆れているみたいだ。
「お前、こんな知識より覚えることがあるだろうが」
憎々しげに――いや、残念そうに言われる。
ちょっと傷付くよ。
「桃李、私はお前じゃないんだけど。ここまで解説してあげた私に対する敬意は?」
勝手に語っただけだけど。
「悪かったですね、秋塔菊理様」
「よろしい」
エヘンと威張ってみる。
幼馴染は完璧だからこそ、ノリもいい。そんなところが春宮桃李の人気を上げて行くんだろう。
「で、菊理は何がしたいの?」
「うん? 食べたいよ、豆も恵方巻も」
最初からそれが目的で来たんだから。
自分で思う最高の笑みを浮かべる。
「――結局食うことだけかよ!!」
いきなり怒り出した神童と謳われた幼馴染に対して、私は――。
「当たり前でしょ」
悪戯っぽく笑った。