出会い
ひらりと、雪が舞い落ちた。
静かに空を舞う雪は、地に落ちる前にふわりと姿を変えた。
まるで花が開くかのようにゆっくりと広がった雪は、次の瞬間にはまた姿を変える。
トン、っという軽い音を鳴らし、『それ』は地に降りたった。
「はじめまして」
小さな鈴を鳴らすようなその声に、驚きに見開かれていた瞳を閉じ、息を吐く。夢に違いない。雪が、まさか『人』の姿になるだなんて。
憂いさえ感じるような濡れ羽色の瞳と長い髪。ぽってりとした小さな唇。驚くほどの肌の白さに、艶やかな髪がいっそ妖艶なほどにきらめく、そんな女だった。一瞬目にしただけにも関わらず、脳裏に焼き付いて離れない。
「本日からお世話になります」
女は、絶句している朝日を気にせず、柔らかく微笑んだ。
どこか儚ささえ感じる笑みに、朝日は眉を寄せる。
「……おまえはなんだ?」
人ではない。夢を見ているのか、それとも、狐の類に騙されているのだろうか。完璧な美貌すら、この世に有らざるもののようで怪しさに拍車をかける。
「雪を司る神です。以後お見知り置きを」
神。そんなものが存在するのか。だが、雪から生まれたことも、人間離れした美貌についても神であるなら納得ができる。
だが、私は神ですと言われてすぐ信じられるほど単純でもない。
「今季はここで過ごすことにしました。どうぞよろしくお願いいたします」
ぺこりと頭を下げた女に、朝日は頭を抱えた。どうしてこうも頭痛の種が転がっているんだ。
「あなたのお名前は?」
にこにこと笑みを浮かべながら女は首を傾けた。艶やかな黒髪がさらさらとこぼれ落ちていく。
──不思議な髪だ。
まるで星空を──ひどく冷えた冬にしか望めない澄み渡る満点の──そんな空を切り取ってきたような髪だった。
冬の空気に触れるたびに、雪が舞い落ちるたびにきらきらと淡い煌めきを帯びる。
「髪が気になりますか?」
「……別に」
気にならないわけがない。だが、気になっていることを悟られるのは気分が悪い。女は、そんな朝日の様子に気づいているのか意味深に深く笑った。
「気になるのなら素直に仰ればよろしいのに」
「……何か言ったか?」
「いいえ何も」
ゆるりと首を振った女は、変わらず笑みを浮かべていた。作り物めいたその表情に背筋が寒くなる。『これ』は明らかに人ではない『何か』だ。
「では、これからよろしくお願いしますね」
──これが、こいつと出会った、一週間前の出来事だ。




