少女人形
繰り返し生まれ捨てられ拾われ捨てられる。
悪循環にはまった私の運命、それはやがて感情というカタチのないカタチを創造してゆく。
心と呼ばれた捻りきった私の脳内にあるモヤモヤは、まだ完全には完成していない。
それが救いでもある。
これ以上、作られてしまったら全てが狂ってしまう。
動くことのなき心臓は訴えていた。
少女人形
風に揺らされた人工の私の髪が何かを予知していた。
空はとうに太陽の反対側となり、都会ならではの殺風景が広がる。星一つすら見つからない。
私は、人形と呼ばれる。球体関節人形だ。
人形の運命というのは人の見物となり、そして玩具となり、要らなければ捨てられ、時に恐れられる。
人間と違い、動くことも何もかも出来ない。けれどもそれが、時に私の喜びでもある。
人形は人間ではないから。
――私は人間が嫌いだ。
「お母さん、人形さんの腕が取れちゃったー」
「あらまあ、折角綺麗なお人形さんだったのに…」
いつか何処かの記憶。人通りの悪い裏路地に破棄された今もなお、右腕の包帯とボンドの跡はその記憶を無意識に操作する原因と化す。
「お前の名前はメアリーだ。可愛いなぁ」
時に汚れたオッサンの餌食になり、
「貴方はルビーよ!!やっと手に入れたわぁ!さあ、貴方は今日からうちの子供ね」
時に見知らぬ狂った人間の娘となり、
「もうお人形さんボロボロになっちゃったから、新しいのを買いましょう?」
「やったー!」
のちに、必要とされなくなるオチが決まりきった運命。
繰り返し繰り返し、それがやがて私の心を産み出した。
人間から生まれた人形の情は決して綺麗なモノ何かでは想定ありえない。
少なくとも、私は。
果たしてここで幾つの時が経ったのであろう。
私は、破棄されたまま。このまま、どうなるのだろうか。
また、人間に拾われて捨てられるのだろうか。
あるいは、もうその運命は幕を閉じると言うのか。
刹那、心の内にあるナニカが騒ぎだした。
同時に身体の全てが軽くなる。
ーーーー
不意に、足が動いた。紛れもない、感覚を伴う自分の足が。
いつかへし折られた右腕がキリキリと音を鳴らし、痛覚と呼ばれる痛みというものが後から私にやってくる。
これは、動けるということなのだろうか。
これは、人間になったということなのだろうか。
いや、人ではない。
けれど、人間とは動く物体。
私からしてみれば、どちらも一緒である。
人間になってしまった。
……人間になってしまった。
―――人間になってしまった!!!
ああ、あれほど憎んでいた人間に。
私が頭の中でひたすら産み出し続けていた憎しみという感情が。
今、私の何かが砕けて消えた。
口が勝手に開く。
「許さない、私を捨てた、人間達め、必ず………」
人形の第一声。
呪いにも似たその産声は、
「必ず復讐してやる!!!!」
決して純粋なものではなかった。
モノは時に呪われ産まれていく。