2.勘違い
「あの!まお・・・コータ様!?お引き受けして頂いたのは嬉しいのですが何故町に!?」
ガヤガヤと賑わった通りを町人のちょっと裕福そうな服というなんとも絶妙なコーデで歩く二人。
「そりゃ、僕は頭脳労働派じゃないからね。それにレーナ。市場視察も十分魔王の仕事だと思うんだけど」
「さっきから食べてばっかりじゃないですか!」
コータはぎこちなく笑った。別に胃袋を満たしに来たわけではない。あくまでも市場調査だ。ほんとだよ?べ、別にバレた、と思ってギクリとしたわけじゃない、はずだ・・・しちゃったのかしら?
最初はストーキングしてくるレーナをどうしようかと思った。本人は隠れているつもりでも丸わかりだし、それにさっきからレーナへ向く男共の目が飢えている。声をかけるか悩んでいるうちにレーナがナンパされ、それを助け今の状態にある。
「えっと、その。嫌でしたらすぐに辞めて後ろに控えますよ?」
ぎこちなく笑ったコータを心配そうに上目使いで見つめてくるレーナ。どうやらレーナと一緒に歩くのが嫌になったと勘違いをしたみたいだった。自分から誘っておいて嫌になるとかどんだけだよ。ただ、別嬪さんと歩いてたらそりゃあ緊張でぎこちなくなることぐらいあるさ。
「い、いや。嫌いじゃないし。むしろ好きだし、腕を組んでてくれっ」
かなり誤解もできそうなセリフを言ったが、ちゃんと思った通りに意味が伝わってくれ、花が咲いたような笑顔でハイっと返事をしてくれる。こういった仕草に正直計算かと思う時もあるのだが本人に自覚が無い所謂天然なので、はぁとため息をつくしかない。本人に気が無いのにこの笑顔。勘違いとわかってても男としては泣けてくるものがある。醤油が焦げるような香ばしい匂いがあたりに立ち込めていた。町の大通りには食べ物の屋台が並び、ずいぶんと盛況な様子だ。気分を換えるためにも今目に留まった串焼きを買おうか。
「おっちゃん、それ1本!」
見事に光り輝く禿頭の親父に串焼きを1本注文する。注文は元気に、ハキハキと笑顔で。これが中々重要だったりする。明るい奴はおまけしてくれたりしちゃったりするかもだしね。あと1本と注文したのは別にレーナの分を買わなかったのは理由がある。彼女はメイド。僕に流されやすいが一応メイドなのだ。そして僕は魔王。当然毒見はされるだろう。そして、これは串焼きってことも重要である。見たところ串焼きを置くようなトレーは屋台には置かれていない。よって串焼きをばらして一つ食べる。なんてことは出来ないだからくしに刺さったやつを食べる他無い。つまり、レーナと間接キスが出来るのだ。そんな目論見もあって1本である。
聞いた禿頭の親父があいよっと返事をし串焼きを焼き始める。串焼きは1本で銅貨2枚。貨幣価値を円で表すと以下の通りだ。
貝貨 =1円
白貝貨=10円
銅貨 =100円
銀貨 =1,000円
金貨 =10,000円
黄金貨=1,000,000円
白金貨=10,000,000円
といった具合だ。それにさらに記念貨幣、旧貨幣などもある。有名なところは記念貨幣の虹貝貨であろう。元々銀貨と同じ価値だったのだが。元となる貨幣の激減によるレプリカの販売中止、光の当て具合で色がレインボーホログラムのように変わるといった綺麗さ、割れるなど貨幣の希少化などにより今では黄金貨よりも高い値段で取引される貨幣である。ちなみに魔王城には100を超える数の虹貝貨が保管されていたりする。
この世界の復習をしていたら。おっちゃんから串焼きを2本受け取る。
「美人な彼女さん拝ませてくれたってことでオマケな。ちなみに心の中ではリア充は爆ぜるべきだと思ってる」
と、ニィと笑い2本差しだしてくる禿頭のおっちゃん。間接キスの目論見は完全にシャットアウトされてしまった。くそう。
串焼きを渡されたその場でレーナと食べる。なかなか美味しいじゃないか。これは町に来た時は通ってやろうか、そう考えながら串を捨て、屋台を離れた。その後は適当にレーナとブラブラ町を歩き回った。あれは何?これは何?と散々聞いて回ったので日が暮れる頃には少々レーナが疲れ気味であった。かく言う僕も知らない町を歩いたせいか、かなり疲れている。宿でもないものか、と暫く歩いていると弱い魔力の波動を感じる。
「なぁ、今何か感じなk―」
「嫌ぁ!離して!」
レーナに確認しようと話しかけようとしたとき悲鳴が聞こえる。咄嗟に悲鳴が聞こえた方向へ動いていた。お待ちください!とレーナが叫んでいる気がするが無視して足を走らす。
案の定と言うべきか如何にもな男2人組がか弱そうな女の子を取り囲んでいた。裏路地、悲鳴、女の子。こいつの答えは1つだろう。悪漢撃退イベントだ。しかし相手は大柄な男2人。日本人の15歳少年、どう考えても返り討ちは目に見えていた。しかしこの世界には魔法なるものがある。コータはまだ覚えてはいないがレーナなら。この現状を見れば彼女は力を貸してくれるだろう。彼女はメイドではあるが近衛兵でもあるため、こんな悪漢など撃退するのは朝飯前なはずだ。冷静になれば、後先考えずに突っ込まなかった僕を褒めたたえたが、逆になぜレーナを置いてきてしまったのか悔やまれる。それに自分一人で女の子を助けられないことにも苛立ちを感じていた。
「嫌ぁ!離してください!」
「そんなに怯えなくてもいいんだぜぇ?それによぅ。そんな大声出したところで気断ちの結界張ってるから誰も来やしねぇよ。」
ギャハハと下品に笑う下種男は少女の腕を握りしめ、舐めまわすかの如く少女を見ていた。
「そんなに嫌がらなくてもよ。俺たちと楽しんじゃえばいいんだぜ?」
もう一人の下種男があろうことか少女の胸へと手を伸ばす。少女の胸は発育途上てあり、まだまだ小さいもののしっかりと手に収まるサイズで、やわらかそうd・・・って、ちがーう。
少女は体を捩りそれを回避するが、そのまま伸ばされた下種の手は少女のわき腹に触れる。それでも体を触られたことに差異は無い。
「ぃゃぁ」
小さな声で拒絶を表しながらだが、徐々に瞳に諦めの色が宿る。ぎゅっと瞑った目からポロリと一滴落ちた。それは地面に跳ね消えていく。それを見て僕の理性の全てが吹っ飛んだ。
「おい」
全身が熱く感じる。気が立っているのだろう。それに妙に体が軽く感じる。これが火事場の馬鹿力ってやつなのかもしれない。
「ああん?」
下種共は少女を襲うのに待ったをかけられたのが許せないのか、かなり苛立っていた。それも見るからに弱そうな餓鬼に止められたのがその苛立ちを助長させているのだろう。
「おい、小僧痛い目に遭いたくなきゃ見たもん忘れて、ここに金置いてどっか失せろ」
「そうだ、小僧。見てわからねぇか?俺たちは今お楽しみ中なんだよ」
そう言って。少女の襟を乱暴に掴み力の限り引っ張る。ビリバリと破けた音がする。一瞬遅れで少女が悲鳴を上げた。それを見てウッヒャッヒャッヒャと気持ち悪く下種共は笑う。
「キモい声で囀ってるんじゃねぇよ、この下種が」
「なぁ!?」
そう言ってコータは男たちへ一歩踏み出した。怒りのパロメーターがあるとするならば今の行為で振り切っていた。そしてもう怒りで何故怒っているのかすら分からなかった。とりあえず目の前のゴミを始末する。それだけしか考えていなかった。
下種共がなぜ怯えているのかは分からない。分かる必要も無い。下種との距離僅か2メートル。十分に拳が届く範囲だ。コータは怒りで震えながら拳を力の限り握った。
「ふざけんなアンポンタンこのくそ野郎三下がぁ!」
言っている意味はコータにも分からない。力の限り拳を振るう。少女の服を破った下種が鼻に拳が直撃し路地の向こう側へと吹っ飛んで行く。
その様子を見たもう一人が「ああぁぁぁぁあああ!」と叫びションベンを撒き散らしながら逃げて行った。その時思いっきり吹っ飛ばされた下種が意識をしぶとく保っていたらしく逃げていく下種の足を引っ張り転ばせる。下種が糞尿垂らしながら必死に我先にと逃げていく様に見ていて怒りが失せて行った。
そして、少女を見る。「ひっ」っと短く悲鳴を上げその場に座り込む。慌てて少女の腰に手をまわして少女を支えた。
「大丈夫かい!?」
「あぁぁぁ」と声を絞り出したかと思うと立っていた場所に水溜りが出来始めたのだった。コータはオタオタとする他なかった。そこへ
「コータ様!?凄い魔力を感じましたがこれは一体!!??」
仕事熱心娘到着の模様だった。焦燥した目がどんどん冷めた、絶対零度の目へと移り変わっていた。
「コータ様?何をなさっていらっしゃるのでしょうか?」
「えーっと、人助け?」
それしか答えようがないだろう。そうしか見えないのではないか、何を言っているのだろうか。とコータは自分を見つめた。破けた服から小ぶりな乳を露出させ、足場に水溜りを作り放心した少女。そしてそれを抱え、その少女を見つめたコータ。どう見ても今はコータが少女を襲っている。否、襲った風にしか見えない。
「なにしとるんじゃぁ!!このエロ餓鬼がぁ!」
右アッパーが繰り出されコータの顎にクリーンヒットする。あ、猫が剥げた。宙、舞い遠ざかる意識の中で僕は思った。
◇
「「たいっっへん、申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」」
コータが意識を取り戻すなりレーナは平身低頭で、床が抜けるかという勢いで額を擦りつけている。そしてその隣には助けた少女も。レーナは切腹じゃぁとか、死んでお詫び申し上げるしか、とか言ってしまっている。イリーナもイリーナで顔をすこーし上げてコータの顔をみるやリンゴのように赤くなり床に額を擦りつけることを繰り返している。
「えーっと。僕が気絶している間に何があった。というかここはどこ?」
そういうとレーナは懇切丁寧に説明してくれた。どうやらあの後、どうしようものかと思っていると、少女、(名をイリーナという)が意識を取り戻す。このお方が女の敵だったとは、を口火に不穏なことをブツブツと呟いているレーナを見て、勘違いを正す。イリーナは貴族が止まるような大きな旅館の娘であった。空き部屋は沢山あるからというっことで気絶しているコータをこの部屋に運んできた。ということだった。
「えっと、助けていただいたのに、私があのぉ・・・そのぉ・・・粗相をしてしまったせいで何とお詫びしてよいのやら、何か私に出来ることはありませんか?」
「えっと、イリーナはここの旅館の娘さんなんだっけ?」
「えっと、はい。」
「よっし、じゃぁここに泊まらせてもらってもいいかな?」
「城に帰らないんですか!?」
即座に突っ込まれる。散々町を歩き、さらには悪漢撃退でかなり疲れ気味ではあるが突っ込むだけの元気はあるみたいか。
「あそこだと僕落ち着けないし。例えばレーナ以外のメイドさんとか、執事さんも控えちゃうだろ?そういった硬っ苦しいのにまだ慣れてないんだ。それにこの国のこと、この世界のこと。まだまだ聞かなきゃいけないことが沢山だしね。」
そういうと一応は納得してくれたように首を縦に振ってくれたレーナだった。だがミスも犯している。ここに居るのはコータとレーナだけでは無い。
「えっと。城?そういえば最近魔王さまが召喚の儀によっておいでくださった、聞いたのですが。ま、まさか?」
もはや苦笑いするしかなかった。
「えーっと。そのまさか、かな?」
「ふぁぁぁああ!!??これまでの数々の不敬なにとぞこの命でお許しください!!!」
イリーナは再び平身低頭で床に額を擦りつけた。
―1時間後―
「ぅぁー、疲れたー」
イリーナの説得、イリーナの親への挨拶。別に嫁にもらうとかそういう話ではない。そして、城への連絡と、渋るレーナへの説得。とにかく大変だった。その疲れが顕著に現れた結果なのかは知らないが欲望に任せてベッドに倒れこむ。城のベッドとは比べ物にならないくらいの物だが、逆にこの安っぽさがコータの家のベッドを思い出させ、なんとなく安心感を感じられた。すぅっと疲労が溶け込み身を軽くしてくれるような気分。今僕は最高の至福の時を過ごしている。
そして、その間も立ちっぱなしでいるレーナとイリーナを椅子へと促す。でも、と拒む彼女達を強引に座らせた。従者といえど、旅館の娘つまり圧倒的な身分違いでも、やはり人を、しかも女の子となればなおさら立たせっぱなしというのは元庶民には辛いのですよ。
「で、城で聞かされたこと。もう一度整理したいんだが。まずは、なんで僕がここにいるかなんだけど。」
「はい。それを説明するには少し歴史を遡ります。」
そう言ってレーナは語りだしたのであった。
①えー、怒った魔王様はやはりお強いですね。
今のとことコータくんは魔法は使えません。
チート魔力があるため、怒ると膨大な魔力がだだ漏れになるんで威圧とか凄そうです。
②イリーナの勘違いについて
・気絶から回復→平民姉弟
・レーナの対応→貴族様と従者
・コータの復活→もしかして大貴族様?
・レーナの誤爆→魔王様ぁぁぁ
さてさて、行き当たりバッタリなこの小説でなんとヒロイン候補2人目のイリーナが出て来てしまいました。本当にどこに向かっているのでしょうか・・・怖いです・・・