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私のいけないところ






 私は私の烏をずっと手で押さえつけてないといけない。とにもかくにも嘴だ、私が恐ろしいのは。


 すく後ろの窓のほうからはクリーンな人たちの活動する音が聞こえてくるだけだ。

 私は宿題をそっちのけにして烏を震える手で押さえ込む。こんな夕方は厭だったけど、震えるけど。





 私の烏は私の恐怖心をよく理解している、仲間を呼ぶことはしない。

 そうなったら私がどんな手段に出るのか、察しているのだ。


 ずっと前から自分はこうしていたのでは、という気がしている。初めてにしては私、うまく悲鳴を抑え込めている。


 分かってる。こんな部屋じゃ、もはや何も生まれやしないだろうということは。これが終わったら私のノートはどこにもなくなり、二度と私は何も書けやしないのだろう。


 私は何度も涙を浮かべる。

 声は我慢できてる。

 そうだ、私も烏も何もかもがもう褪せてる、と私に思わせたところで憎たらしいことに烏が卵を生む。


 それはひとりでに転がっていく。

 それは部屋のドアのほうまで行くと、平然とした態度でドアを開け、それからどこまでも転がっていく。

「どこまでも転がっていく、どこまでも転がっていく」

 すさまじい無力感と気恥ずかしさで、私はこの文を何度も声に出していう。


 これは私の烏だ。これは元々私の中にあった、これを完全に潰すことはできない、見逃すことはできない部分だ。私のいけないところは、こいつを手で押さえつけたことだった、おそらくは。手段はきっと他にも色々あっただろう。

 例えば烏が見えたらただちに飲み込んでしまう、チームに入れる、家族の手を借りる等々。たったひとつ分かるのは、翼を使うことを許してはいない自分でいること。

 せめてやれるだけのことをやったのだと、自分に示すことだけはしないといけない。


 それなのに、卵。

 卵はどこまでも転がっていく。こんなのってない。





 私の悲鳴で私の部屋は全壊する。もちろん私の烏は完全には潰せず、私じしんも潰せはしない。それは外部からの、意志の強さによって初めて取り除くことのできるたぐいのものなのだと思う。私は委ねてしまうことを覚えるべきだったのだと思う。私は今日までのどこかでそれを覚えるべきだった。

 でももう遅い。もう私の悲鳴は始まってしまったから。

 もう全部連れてくしかないのだ。せめてこういう時のために私の私だけのミキサーがあるといいのに。ミキサーが使えたら、全部は見えなくなる。私が汚い色になるとしても、我慢できる。私の烏がいなくなりさえすれば、私のいけないところが私以外の人から見えなくなりさえすれば。

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