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僕が引き出しを開けるたび彼女が世界爆弾を投げつけられる、二年と少し






 彼女はある日から僕の引き出しの中に入ってしまい、そこから抜け出せなくなる。

 分からないことだらけだったけど、その点についてはしっかりと分かっているのだと彼女はいう。


 しっかりとそこに収まったまま、ずっとそのまま抜け出せない、ということは。

「たまたま入っちゃったんだと思う」

 どうやったら出ていくことができるのか分からないと彼女はいう。


 そしてもちろん何がきっかけで入ってしまったのかも分からないし、どうして自分なのか、そこがどうして僕の引き出しなのかも分からないと彼女はいう。





「高校を卒業したら。相手の顔を忘れれば。住んでいる土地が違ったら」

 僕がそういうことをいうと彼女は途端にいい返してこなくなり、何か考えているふうになる。





 あたり前だけれど、彼女のほうから僕に声をかけてきたのだった。

 僕をみつけるのに苦労した、と彼女は何度もいう。


 けれども、どうして、その、自分がはまり込んでいるという、彼女が主張しているそのバショとやらが、僕のヒキダシだと彼女には分かるのか、確かな証拠を彼女じしん見つけていない。


「説明は確かにできない」

 でも僕が引き出しを開けるたび彼女は、世界爆弾を投げつけられるのだという。





 世界爆弾というのが何なのか、これは彼女はいくらでも列挙することができる。


「眼鏡を五か月連続で買わなければならないようなこと。道路工事をしている道で気ちがいの警備員から呪いの言葉を吐かれたり。不動の一位はとりうんち、それに悪意ある風、ラッキースケベという名の負債を背負うこと。道を走る車は晴れた日でも水をはね上げてくるし、私の世界からオレンジジュースは失踪した」





 僕が記憶を手繰り寄せようとするたび、正直な言葉を選んで口に出すたび、映画監督の名を検索するたび、彼女の小さな傘は汚れ破れ飛び舞い突き刺さり嘲笑し嘲笑され泡になって彼女は僕はのろわれた人間たちは大学選びに同年代のなかでも特に慎重にならざるを得なくなる。

 個人的な問題もこれで解決する、と信じて。



「でももしそうならなかったら困るから、私たちは、もう付き合わなきゃ駄目なんじゃないの?」

 はなればなれにならないで、きちんといろんな距離をいろんなふうに決めたら。

「いや駄目じゃないと思う」

 しかし大学生の彼女も僕が引き出しを開けるたび世界爆弾を投げつけられる、一年と少し。

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