王子の傍ら
王子、起きてください王子。
隠れ家まで来るようにいったのは貴方でしょう、走ってきたんだ。腐ったベッドのふりしたそいつが、いつか貴方を喰らってしまうのじゃないかって、ボクらは不安だった。
いい加減、四番めの隠れ家と六番めのここを間違える癖も直してほしい。貴方の森には自惚れた黒い翼がうじゃうじゃ。貴方の歌声があって初めて森は朝の光を受け容れる。
また徹夜したんですね王子? 髪も貴方は洗っていない。
起きてください王子、ボクらが貴方を好きなのは、他のきょうだいの身仕度にかける時間と較べると、貴方のそれはほとんどないのも同然だから。
森の中を歩けば木の実がある、貴方の所有するたった一つの鏡であるあの泉もある。幼い時分、王子とボクらはそこで永遠の友情を誓い合った。
王子は男の子だから、目を開きさえすればいい。今日の空はとて綺麗な青だ、貴方の目のようです。
貴方が自分の前で躓くための細工をしてたあの娘の気持、絵筆を取るでもなく取り除くでもなく黙って見てたボクらの気持。
貴方の願いがいつも同じ岩どもに犯されていて、それでもボクらは薄暗い廊下にいることしかできなかった。結局ボクらは、貴方に憧れている大勢の少女と同じく、貴方については、どうしようもなく願うようになってた。いつの間にか。
目をあけて王子、おうじ。
今も昔もそう、貴方は耳飾りや錠前や楽器といった物を度々壊した、そしてボクらは自由時間を削りそれらを元通りにするということをずっと繰返してきた、だけど、これはもう、むり。




