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噛み砕く派






 中学の最終学年、十月の教室。

「似合ってないよ、ほんとに」

 その、たったのひとことが、誰に向かって放たれたものなのか、分からなかったことが、君との最初だったっけ。



 あの時、みずちんの机に集まって話をしていた子たちの顔を、私は眺め回した。

「?」

「?」

「?」

 おもしろいくらいに誰の顔にも同じことが書いてあった。


 そりゃ、私だってまだ「?」を体の前に抱えていたわけだけど、それでも、あんまりみんなの停止してるさまが可笑しくて。


 私が笑い出し、そしてその時の私たちの様子を、すでに通り過ぎていっていた黒学ランの君は振り返り見つめていたと、後になって、ブレザー姿の君が私にそう打ち明けた。


 私が笑い出すと途端に、まるで伝染ったみたいに、固まっていた三人も、表情がほどけた。何あいつ何今の何あれ意味分かんねー。

 休み時間とはいっても中三の十月なわけで、近所の男子グループの人から、みずちんは注意を受けていた。







「転がしてて」

 相変わらず君は言葉が足りない男子のままだ。


 でも、これはいわゆる彼氏からのお願いというやつだ。そう気づいてしまうと、私が聞かないわけにはいかない。

 君は私が噛み砕く派であることに否定的な彼氏だ。


 中学時代、私がケヘっという音の咳をする時は、細かく砕かれた飴を飲んだせいであることに気づいた君は、もんもんとしてた。

 私の姿を見るたびに「?」が胸に一杯になって。

 でも中学では結局あまり私たちは喋らなかったから、その話を聞くとこっちが微妙に苦しくなる。


 今、君のその、軽く上げた左手を口の近くにやって、ふっと笑う癖のことに最近気づいた私がそれをどう思っているのか、君は知らない。


「なんで上見て難しそうにアメ舐めるの」

「ん? 噛んじゃいけないって、味わって、ゆっくり舐めよってなると、なんか」

 私たちはここから別々の電車に乗って帰る。

「そんな苦行みたいなレベル? そこまで辛そうにしなくても」

「んむ? 可哀想になりましたか? もう砕いちゃってい?」

「ううん全く可哀想に思わない」


 駅のホームで、私たちは基本的に言葉少なにベンチにかけているだけだった。まるで、誰か電車でやってくる知り合いと合流するために二人で座っているだけの二人みたいに。


 周りがいうように、君は不思議な男の子だと思うことが未だに私にもあるけど、ゆっくりと、こうやって、一緒に、私は同じ場所に座っていたい。

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