第6話 勘違いとバカヤマダ
そろそろ続きを書かせていただきます。よろしくお願いします。
人1人分の体重と言う物はなかなかに重い。いや、重さ自体はそこまでの重さでは無い。ただ生きている人間と言う物は自分で体重を支えているから、重さはそこまででない。けれども気絶している人間と言う物は自身で体重を支える事が出来ないから、意識が無い方が重い……はずなのだ。
(けど、そこまで重くは無い、か)
人間にしては重くは無い。亜人と人間に体力的な差はあるとの話はあったけれども、恐らくは彼女があまり食べ物を食べていないから、体重が軽くなっているのだろう。
「もう少し、重くても良いがな」
そうじゃないと、筋トレにならないからな。筋力が無いと走りが速くならない。あんまり身体を鍛えて強くなりたいそれでもと言う気持ちは無いんだけれども、けれども速く走るためには身体を鍛えない事にはどうしようもないのだから。
「おいおい、何だよ。お前はあの獣好きでバカだらけのアルザード家の三男じゃないか。ハハッ! 流石、獣好きの一家だな! 亜人如き獣を連れてやがるぜ!」
村に帰って来ると、そんな口調で目の前の少年が話しかけてくる。金髪を無駄にかき上げたような髪型、無駄にきらびやかな服を着た少年は、ハハッと笑いつつ俺の持つ亜人を見ていた。
(確かこいつはヒルセン家のお坊ちゃまだったか)
ヒルセン家。ヒルセン家はこの村で一番の貴族の家柄である。ヒルセン家はあこぎな商売でトラノロスの領主よりも大きく成長してしまった家である。その両親は金遣いが少し荒いが良い人なので、割と気に入っているがその子供達がいけない。
わがままし放題、権力を笠に色々とし放題、そしてとどめに大の獣人嫌い。わがままし放題の甘やかされてしまった悪い子供達の出来上がりだった。
(確か両親達に無理矢理連れて行かれたパーティーとかであった覚えがあるな、こいつ……。確か、や、や……ヤマダだっけ? うん、ヤマダ・ヒルセン。良い名前だな)
まぁ、あいつらは両親と喋っている商人達の考えをそのまま受け継いだだけだけなのだ。亜人が嫌いだと言うのは亜人排他的主義の貴族様の考えを、権力を笠にと言うのは黒い商人の考えを分かっていないが、とりあえず吸収してこんな嫌味な奴らが出来てしまったのだ。しかも両親は子供達のやる事に関しては基本的に否定しないからわがままし放題。それで、こんな歪んだ奴らが出来上がってしまったのだ。
こいつも、なんで亜人が汚いだなんて考えてないのだろう。亜人は汚い、ただそれだけしか、表面的な事しか思ってないのだ。大人の考えをただ受け継いでいるだけの、ただのバカ。それがこのヤマダなのだろうな。
「そいつ、バッチーイ。お前の家に沢山居る奴らと共に、一度消毒して殺菌しないといけないんじゃね? まぁ、死ぬしかないけどな。ガハハハハ!」
と、ヤマダが笑い立てる。それを聞いたのか、俺の腕の中に居るチビ亜人がぶるぶると震えてる。おいおい、こいつ、いつから起きてたんだよ。と言うか、あんまり震えるな。シェイクアップ運動は鍛えるのには効率が悪いんだ。エネルギーを無駄に消費するだけで、身体を鍛えるのには向いてないんだよな。だから、あんまり激しく揺れるなよな。
まぁ、このヤマダの言葉も流石にうざくなって来た。大人からの意見をただただ聞いているだけのバカに用はない。やっぱり自分で考えないと意味はないのだ。
そう、俺のように速度を出すために身体を鍛えるのに、精を出す。自分で何かをしないと意味が無いのだ。まぁ、ヤマダも俺のように速さを求めるために身体を鍛え始めたら、良い奴になると思うが。それ以外だとこいつはゴミだ。
そう、俺の世界は速さが中心なのだ。速さこそ、全て。速さこそ、世界の中心なのだ。だからこそ、俺はこいつを拾って来たのだ。
「うるさい、こいつは(筋トレ用に拾って来た)大事な奴だ」
「なっ……!」
「……!」
おい、このチビ亜人。何、人様の身体にすりすりしやがる。振るえているのも面倒だが、すりすりするのもバランスが取りづらい。そしてヤマダ、何だ、その顔は。
「お、お前……。その亜人を大切だなんて言いきるなんて、頭、どうかしてるぞ……。亜人なんて人の姿に似せた獣風情にしか―――――――」
「そんなの、関係無いさ」
そう、亜人かどうかなんて関係ない。関係あるとすれば、
「――――――役立つかどうか。俺にとって、人間か亜人かなんて、些細な問題に過ぎないさ」
そう言って、俺は呆然とするヤマダを後にして帰って行った。「亜人が大切……? あんなのが俺と同年代だと……くそっ! これだから田舎は……」とヤマダが背後で何か言っている気がするが、気にしないでおこう。
と言うか、この障害物。さっきから引っ付きすぎだろうが。
その後、無事に家に帰った俺は、気付かれない内にこの障害物を倉庫かどこかに入れようとしたが、その前にエリザが僕を見つけて、僕の手荷物障害物を見て、
「こ、これは……猫系の亜人ですね。しかも、かなり力的には上ですし。
……汚れてますね。シュディン坊ちゃま、エリザはシュディン坊ちゃまの考えが分かりました。早速、この亜人を洗い、この家のメイドとして育て上げましょう。キングベル坊ちゃまはドラゴンの首、ハーヴェスト坊ちゃまは封印された魔法の杖を持ち帰り、メイド一同騒然としていましたが、シュディン坊ちゃまは流石です♪ 亜人擁護のこの家に、傷ついた亜人を持ち帰るのなんて、なんて素晴らしい精神です! エリザ、感激です!」
そう言いつつ、エリザは俺の持っていた障害物……もとい、亜人を持って出て行った。俺はそんな事なんて一切、思ってなかったんだが。