第4話 スピード狂、外に出る
我が家の長男、キングベルと次男、ハーヴェストの2人は、ちょっと変わった、少し可笑しな子供だったらしい。キングベルは暇な一日を剣を振って過ごす剣術バカ、ハーヴェストは時間があれば魔術に精を出す魔術バカだった。生まれた時からキングベルは木刀を振り回して魔物退治のために外へ行き、ハーヴェストは魔法の練習のために魔物を退治するために外に向かって行った。
つまりは長男は剣術バカ、次男は魔術バカ、そして三男の俺はスピード狂……いや、スピードバカと言う事であり、俺もそんなバカの一種なのであるけれども、俺は庭や家でただ子供のように、無邪気に走り回っているだけにしか思われないから彼らに比べたらまともに思われていたのだろう。少なくとも10年前くらいの、木刀を持ってうろちょろする赤ん坊や魔法を放ちながら駆け回る赤ん坊よりかは”まとも”に見えるだろうし。だからこそ、俺は父親と母親から愛情を過度に受けて、なおかつ長男と次男のように外に出さないようにされていた……と言う事らしい。
まぁ、剣術も魔術も、父と母の教育を必要以上に興味を持たなかった事も理由の1つに思える。
一度、彼らと顔合わせのような物をした事があったが、”あれ”は病気だ。いくらなんでも常時、木刀を持ち歩いて狂ったような笑みを浮かべている16歳くらいの長男と、杖を持ちつつ時折微笑みだす14歳くらいの次男に比べたら、俺と言うのはどれだけまともに思われているのだろうか? まぁ、実態は先の2人と同じようにバカなんだけれども。
そう言う訳で、過保護に、もっと言えば彼らのようにならないように育て上げられた俺だが、そんな俺にもようやく外に出る事を許された。
約束された事は2つだけ。
1つは必ずその日の日が沈むまでに家に帰って来ること。そしてもう1つは、必ず自衛用の武器を持って行く事。その2つを確実に守って欲しいと言う事だった。どうやら先の2人はそれを守れなかったから、俺に対しては守って欲しいと言う事なのだそうだ。俺は一応、自衛用の武器として短刀を持って行く事にした。選んだ理由としては、単純に軽いからである。走るのに重い武器なんて物は必要ないからである。
俺は戦いに外に行くのではない。走るために外に行くのだから。故に重い武器なんて必要ないのである。ただ外で走るためなんだから。
外に出た俺は、その外の広大さと言う物に対して驚きを隠せないでいた。日本や海外の風景と言う物は少なからず汚染されて、汚濁されて、汚れていた。けれども、今、目の前に広がっている風景は――――――――何一つ汚れが無いそんな綺麗な風景だった。
汚れ一つなく、どこまでも広がる青空。うっそうと生い茂る緑豊かな森。家から少し離れた、活気のある街並み。
そして走りがいのありそうな、どこまでも続いて行きそうな道。
「うしっ! 良い走りが出来そうだぜ!」
俺は【一方通行の砂時計】をセットして、そしてクラウチングスタートのポーズを付けて、
「……位置について、よーい!」
ドン!
と言う掛け声と共に、俺は【一方通行の砂時計】を使い、この大地を強く踏みしめつつ、新たな世界の風を感じて走り出した。