第23話 壁の向こう側
アルザード家の図書館で見つけた禁書、『隔世の書』。それは読んだ者の才能の壁を取り払い、さらに進化すると言う書物であった。スピードの壁を超えようと考えていた俺は、その本を読み、そして気付いたら――――――――真っ白な世界で女神のような女性と出会っていた。
「初めまして、かな? 先の2人には挨拶をしておいたんだけれども、あの2人は転生者じゃないから記憶が保てないんだよね。まぁ、改めましてこんにちは。私の名前はミフユ、君の姉、ミフユ・アルザードだよ」
「ミフユ……アルザード……? そんな名前は……」
「聞き覚えがないと言う事だろうね。まぁ、当然でしょう。私は両親からも忘れ去られてしまっているし、唯一私の名前を知っているのはアルザード家の中でも君の妹である読書バカのミハルちゃんくらいだろうしね」
どう言う事だ? スピードにしか興味がない俺ですら女神のように感じるこの女性は、俺の姉? そして忘れ去られているって……どう言う意味だ?
「とりあえず、俺の前世の名前を知っているって事は……どう言う事だ? 俺を転生させた、あの神様の仲間か?」
「そうだね、仲間ではないけれども同類かな。とりあえず立ち話もなんだし、お茶でも飲みながら話そう。この世界では、スピードを出しても特に意味は無いからね」
スピードに意味が無いってどう言う事だ? それに座るも何も、そんな場所はどこにもない。そう俺は反論しようとしたが、いつの間にか俺の目の前には真っ白な世界と同じくらい真っ白な机と椅子があった。まるで最初からあったかのように。俺は怪しみつつも、座る。
「良いね。君のその反応は。喋っているのも時間の無駄だと言う事が理解出来ているようだね。そう言う姿勢は本当に良いと思うよ」
「……分かっているのならば、さっさと要件を話して貰えると助かります」
と、俺はそう言っていた。「分かったよ」と、ミフユさんは語り始めた。
「そうだね、じゃあ話しておくとしますかね。
そもそもアルザード家とは、転生者のために神様が用意した箱庭なんですよ」
「箱庭……」
「とある神様がある事を考えました。剣術を熱心に集中している人間を剣術バカ、魔術に心の底から執着している人間を魔術バカと言うように、何かに没頭する人間を『○○バカ』と言うけれども、そう言った人間は果たして有能と呼べるのかどうか?」
「はぁ……? 一体、何を言おうとしているんだ?」
話がさっぱり見えないし、話が少々遠回りになっている気がする。話が遠回りになる事は俺はあんまり好きじゃないのだ。道は遠回りになったとしても速度が出るから別に問題はないけれども、それとは別に話が遠回りになったとしても速度は速くなったりしないから、俺は遠回しな話が嫌いなのである。話は出来る限りスピーディーに行いたい物である。
「長男の剣術バカ。次男の魔術バカ。次女の読書バカ。そして君のスピードバカ。アルザード家に転生させた者達は、神様が厳選して選ばれた、それぞれが何かの熱心に考えているバカなのですよ。まぁ、私もまた歴史であれば、どんな歴史であろうともそれを見ている事を楽しむ歴史バカと言う形の人種なんだけれども。
歴史バカな私はあの世界の歴史、そして歴史に隠された真理みたいな物をうっかりと読んでしまい、神様になっちゃいました。まぁ、その分他の世界の歴史も見れるようになったから嬉しいんですけれども」
「……」
歴史が好きで、そんな世界の真理まで見つけてしまうとは……。恐るべし、歴史バカ。
「まぁ、その際にアルザード家の歴史から消えちゃいまして、その時に私の場所まで飛んで行けるように、こっそりと『隔世の書』。つまりは隔たれたこの世界へ無理矢理転移させる書物を―――――」
「ちょっと待て。それじゃあ、ここに入ったからと言って……」
強くなるかは別の話じゃないのか? そう俺が言おうとして、ミフユは俺の言葉を遮った。
「何か勘違いしているようだけれども、この世界に入り込めた時点で君は強くなっているよ」
「な、なんだと……。そんな、今俺達はお茶をしているだけで……」
「神の世界と言うのは本来、真理を見つけ出した者か、何かの究極まで至った者しか来れない世界。それ以外の方法は誰かから呼び出されて来る事しか、この神の世界に足を踏み入れられない。そして、一度神の世界に踏み入れた者は、その普通の世界と神の世界との間で大きなレベルアップを起こす。進化と言う人も居るが、ここでは覚醒と呼ぶべきでしょうか」
覚醒……?
「君達、転生者がなんで他の人間よりも強いのか? それは神の世界に来た事があるから強い。ただそれだけだよ。まぁ、君は2度目なのだけれども」
「2度目……」
そうか。転生する前と今回で2度目と言う事なのか。
「まぁ、神の世界は踏み入れば、踏み入るほど強くなれる。最も、ある程度の時期的、もしくは身体的感覚は必要でしょうが。ともあれ、あなたはこの世界に来る前のあなたよりさらに速くなっています」
「そうか。それなら、良いんだ!」
(最も、他の能力も強くなっているんですが、彼は速さしか求めていないようですし、何も言わないでおきましょう)
と、彼女、ミフユは心の中でそう思っていた。
「出来ればあの世界で悪さを企んでいる奴らを成敗して欲しいんだけれども……」
「それは関係無いな。障害物となるなら排除するが」
「そう言うと思ったよ」と小さな声でそう言うミフユ。
「私と同じように、君もまた熱中するバカだもんね。答えは分かっていた物さ。さぁ、行っておいで。君の速さのその先へ」
「あぁ……!」
俺はそう言って、その世界を抜け、現実世界に向かって走り出す。
さらなる速さを求めて!
とりあえず、ここいらで一度完結させていただきたいと思います。これ以上どうするかの内容が思いつかないので、とりあえず無期限で完結して置いて、もし続きを考えて良いなーと思ったら後から完結を解除して続きを書きたいと思っています。




