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キャストオフ・アクセル  作者: アッキ@瓶の蓋。


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第19話 最速のための説教

 その鳥は、まるで一個の芸術品のような、それでいて奇怪な物体であるかのような、そんな印象を受ける、怪鳥だった。まぁ、芸術に興味のない俺には、ただの意味が分からない巨大な化け物にしか見えないのだが。

 その怪鳥は大きくて太い蔓で出来た、頑丈そうな脚でしっかりと立ちながら、毒々しい色の華の瞳でじっと俺達を見つめていた。


「……俺達を食べようとしているのか?」


(植物の癖に俺のこれからの走りまくりの日を台無しにしようとしているのか?)


 俺はそんな態度の怪鳥に怒りを覚えていた。冗談じゃない。俺が今日走れているのは滅多にない事であり、走りを邪魔されるのは俺にとって最大級の侮辱にして屈辱である。


「こうなったら、実力行使をするしかないな」


 誰であろうとも、俺の走りを邪魔するのは許せない。故にこの怪鳥は今のうちに倒しておくべきだと俺は判断した。走りの障害となる物は対処出来ると時に対処して置いた方が良いに決まっている。まぁ、そこの(ヒバリ)にも手伝わせよう。


「おい、兎」


 と、俺は声をかける。しかし、反応がなかった。どう言う事なのかと思っていると、ヒバリは肩を抱えて震えていた。俺はそんな彼女に再び声をかける。


「おい、兎。大丈夫か?」


「……だ、誰が兎よ! 私にはヒバリと言う名前が……」


「どうでも良い。問題は戦えるかどうかだ?」


 その言葉にヒバリは何も言い返しはしなかった。


「もしかして怖いとかじゃないだろうな?」


「……戦闘は未経験よ。だって、あんな化け物と対峙して勝てるだなんて思えないもの」


 修行として戦った事はあるけれども、実践経験はないと言う事だろうか? それで戦うのが怖いとでも言いたいのだろうか?

 その時、俺の脳裏にピンと閃いた。


(こいつにこの怪鳥と戦わせれば良い)


 勝てるかどうかは問題ない。俺の走りの邪魔となるこの怪鳥を、叩きのめして貰えればそれで良い。俺はこいつに戦わせるように意識を誘導すれば良いのだ。


「ぜいたくすぎる悩みとしか言いようが無いな」


「な、何を――――――!」


 だからこそ、敢えて俺は彼女を挑発する言葉を言う。彼女の反応を得るために。思った通り、俺の言葉に反応する彼女に、俺はそう言った。


「戦った事は無いのはあんたも同じでしょ!? だいたい年齢的にもそう離れてなさそうだし……」


「まぁ、お前の年齢は知らんが、俺は12歳だ。これまで戦闘経験は無かった。だから、お前の言う事はほとんど正しいな」


 「12歳……だったら歳も近いし、結婚にも何の問題も無い……」と言う彼女の言葉は無視して、話を進める。今、欲しいのはあの怪鳥と戦ってくれるための兵隊だ。


「だが、戦った事が無いと言うのは嘘だ。俺はきちんと戦いの訓練を受けている。そしてその戦いの経験をしっかりと心と身体に刻んでいる。そしてそう言った事は全部、受け継がれている」


 そう、鍛えれば鍛えるほど、足は速くなる。それは俺に確かな実感を与えてくれた。戦闘も似たような物だ……と思う。まぁ、事実なんてどうでも良い。大切なのは、戦いたいと思わせるかどうかなのだから。


「お前は確かな戦闘経験を積んだはずだ。恐れる事は無い。前進せよ!」


 そう、前進すれば何とかなる。走りから学べる事は正しいのだ。


「前進……」


「走り出すんだ、前へ!」


 その言葉を聞いた彼女は、決心したようにこちらを見ていた。


「走り出す……」


「あの怪鳥をぶちのめす速さ。それが今、必要となって来る物だ。お前のモテる全てを持って、あいつを倒せ。お前は優秀なんだろう?」


 「そうね……。私は優秀……私は優秀……」と言い出す彼女を見て、もう少しだと俺は思った。そのために最後のダメ押しを行った。


「あいつを倒したら、お前を凄いと認めてやる」


 あいつは俺と張り合うためにここまで追って来た。ならば、負けを認めれば良い。あいつが戦うのならばいくらだろうと言ってやる。俺は戦闘狂じゃないのだ。必要ならば、勝負に負けたとでも言ってやる。俺の求めるのは、己の速さ。

 それを邪魔する障害が排除出来るのならば、どうだって良い。


「ほ、褒めてくれるの? あぁ、俺は嘘を吐かない。あいつを倒せたならば、言ってやろう」


 こんな負けず嫌いにはこれで十分だ。思った通り、彼女はもう既に戦う準備を始めていた。


「神兎族のヒバリ様を舐めるんじゃないわよ! こんな兎、すぐに倒すわ!」


 それは嬉しい言葉だ。俺はそれを聞いて、そのまま走り出した。出来る事ならば、2人とも俺の速さを邪魔しないようにと願いながら。

 主人公は決して悪人と言う事ではありません。ただ単に、速さ以外に興味がないだけです。

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