第18話 井の中の兎
俺、シュディンは走り続けていた。速さを極めるためにである。そんな俺を何故かずっと追いかけている兎のヒバリ、どうして追いかけているのかさっぱり分からんが、もう既に彼女はヘトヘトだった。
「おい、もう追いかけるのは止めろ。過剰な運動は身体に毒だ」
「そ、それを言うなら、あんた……でしょうが。亜人である私よりも、人間の、方が……弱そう、なのに、さ」
そりゃあ確かに一般的に、亜人の方が人間よりも高い身体能力である事は知っている。しかし、それはあくまでも一般論であり、俺とは関係ない。
「平均でしか見れないのか、貴様は。人間がどうの、亜人がどうのだと言った話は関係ない。俺がお前よりも速い。重要なのはそこだけだ」
「た、確かに……あんたをそんな事で見ていたのは確かよ。それはすまないわ。
……け、けど、別にあんたの走りを認めた訳じゃないんだから//////」
そう言って顔を赤らめるヒバリ。それを見て、俺は「そろそろ休憩に入るか」と言って、速度を落とした。いきなり速度を落とした俺の身体に、速度を落としていなくてぶつかるヒバリ。
「……い、いきなり速度を落とさないでよ////// 何で、いきなり速度を落とすのよ」
「休憩も大切だからだ。俺が目指すは、最速の境地。今、最速を出したとて、それで身体を壊してしまったら元の子も無い。故に適度な休憩は大切だ」
俺はそう言って腰を落とし、ヒバリは「そ、そうなの……」と言って俺の横に座った。それを俺は怪訝な眼で見つめる。
「何故、横に座る? お前は走りたかったんだろう? 俺と同じ時に休まなくて結構だ」
「……う、うるさいわよ。しかし、あんた、速いわね。仲間内でも最速の私が追いつけないってよっぽどの速さよ……」
それからの話は、基本的に彼女の自慢話だった。
彼女は兎族の中でも神兎種と言う、特に足が速い種族らしい。そして彼女は最もその才能に恵まれていたらしくて、今まで自分よりも速い奴に会った事が無かったらしいのである。
「だから、自分よりも速い俺の事を追っていたのか?」
「……そ、そうね。ちょ、ちょっと気になったのは確かよ//////」
はぁ……。何てくだらない事なんだが。聞いていて頭を抱えたくなった。俺はそんな彼女をじっと睨みつける。
「な、何よ……そんなじっと見て////// 恥ずかしいじゃない//////」
「お前は井の中の蛙だ」
「か、蛙!? わ、私は兎よ!?」
あっ、そうか。ここは地球じゃない異世界だったな。あまりにも興味がなさ過ぎて忘れてしまっていた。
「今のは、俺の言葉で考えや知識を知らない世間知らずの事を指す。お前は広い世界を知らない。仲間内で最速だとしても意味は無い。世界は広い、お前よりも速い奴は沢山居る」
「……そ、そうね。人間に負けているようじゃ、まだまだ……」
俺はそう言う彼女の顔を引っ張る。そしてそのまま顔を近付ける。
「人間じゃない、シュディン・アルザードだ」
人間に負けたなんて言われたら癪だ。ちゃんと人間の個体であると認めさせないと。それに対して彼女は「は、はい////// シュディン・アルザード様//////」とちゃんと認めていた。あまりの恥に、顔を赤くしていた。まぁ、分かりさえすれば良いのだ。分かりさえすれば。
そうして俺がようやく彼女に納得させた。その時だった。
「グアアアアアアアアアアア!」
その蔓で出来た巨大な鳥が現れたのは。




