第2話 貴族の三男らしいが、どうでも良い
どうにも1話だけでは反応が薄いですね。
「ほらー、起きてくださいねー♪」
ユサユサ、と誰かに揺らされる感覚。
――――――――なんだか……とっても眠い。
「あらあらー♪ 御寝坊さんな三男さんですね、ねっ、奥様♪」
またしても、ユサユサと、それでもさっきよりも少し強めに起こされる感覚。何故だかとっても眠いので眠っておきたいが……俺は目を開ける。
「ほらほら、奥様♪ 眼を開けられましたよ♪ 可愛らしいご子息様ですね?」
眼を開けて最初に飛び込んだのは、2人の大きな、巨大な女性だった。1人は先程から表情を何度も変えながらニコヤカな笑みを浮かべ続けている女性。もう1人はずっと無表情でぶっきらぼうな顔をした女性だった。
ニコヤカな笑みを浮かべている女性は白と黒の質素なエプロンドレスのような服を着ており、頭には犬を思わせるような真っ白な耳、そして同じような真っ白な尻尾。両方の手首にはフリフリのシュシュを思わせる白のレースのような物を身に着けている。そして無表情でぶっきらぼうな顔をした女性は染み一つない真っ赤なドレスを着ており、笑みを浮かべている女性よりも若干ばかり胸部が大きい気がするけれども、スピードにしか興味が無い僕にはさして関係はあるまいだろう。その女性はがっしりと僕の身体を掴んでいる。
「ほらー、奥様♪ こっちを見てますよー、奥様♪ ほらほら、名前を呼んであげてくださいよ♪ キングベル坊ちゃまや、ハーヴェスト坊ちゃまの名前を呼ぶのが1年以上かかってはいけませんじゃないですかー♪ その感じはもう卒業した方がよろしいですよー♪」
「……しゅ、シュディン」
「良く出来ましたねー♪ 奥様―♪」
「良い子、良い子♪」と、無表情そうな顔をしている女性の頭を、笑みを浮かべている女性が撫でている。そして無表情そうな顔の女性が、僕の顔を見てこう言ったのだ。
「――――――……可愛い、可愛い私の赤ちゃん」
はい? ―――――赤ちゃん?
「……あ、あぶぶ(な、なにを)?」
あれ? 上手く言葉が発せない? それに手足が短い? も、もしかして俺は……
「……あぶぶ、あぶ(赤ちゃん、に)?」
や、ヤバーい! す、スピードが! お、幼い! 全然動けな――――――い! スピードが出せない! スピードを感じたい! スピード! スピィィィィィィド!
「あらあら、元気ですねー♪ シュディン坊ちゃまは元気ですねー♪」
ニコヤカな笑みを浮かべている女性がそう言って、私を持っている無表情な顔の女性がこちらをじっと見つめていた。
☆
シュディン・アルザード。―――――――それが今の僕の名前らしい。
アルザード家は小さな田舎町、トラノロスを治めている田舎貴族であり、このケルディックで二番目に大きい家らしい。父親はここの領主のエリオット・アルザードと言う人物で、剣と政治が得意なのだとか。母親はあの無表情そうな顔をしていたミナルミ・アルザードと言う人物であって、王都の三流貴族の四女で、こちらに嫁いできた人物。魔法が得意で、少々感情表現が苦手な女性である。キングベルと言う名の長男、ハーヴェストと言う名の次男が居て、僕は三男と言う事らしい。
そしてこの世界、フーレ・ツべニアには2種類の種族がある。人間と亜人。あの時、僕をニコヤカな笑みで迎えてくれた彼女、エリザは、その亜人に分類される。
人間と亜人の区別はシンプル。
人間以外の獣の血も混ざってたら亜人、純粋な人間の血ならば人間。ただ、それだけ。いかにも異世界と言う事で、亜人は人間の奴隷などにされているらしい。とは言っても、あくまでもそれは大多数の意見。
うちの家は執事やメイドとして雇っており、意外と亜人を良く見かけるし、亜人も楽しそう。
エリザが赤ちゃんの俺に話す内容によると、この町で一番大きな家、商人様はどうも徹底した亜人嫌いが有名で、領内でもその商人様による亜人排他令(要するに、亜人差別を強いる事)が浸透している中、自分達を拾ってくれたこのアルザード家には使用人一同感謝しているのだとか。
俺としては亜人の、人間よりも高い身体能力は凄いと思うし、別に嫌ってもいない。けれども、奴隷になったら走れないから残念くらいにしか思っていない。
……と言うか、こんな話はどうでも良い。
う、動けない! 動けないのだ! 赤ちゃんだからと言って、過保護にされすぎだ! 全ての行動を誰かに運んでもらって、誰が嬉しいか! もっと速く! もっと動きたい!
スピード! スピードを、俺にくれぇぇぇぇぇ!
とまぁ、そんな事しか俺の頭にはなく、結局話を聞いて情報を得つつ、スキル(「ステータス!」とか言ったら、普通にステータス画面のような物が出て、確認した。いかにも異世界らしいが……)を確認する事しか出来なかった。
そして、俺がシュディン・アルザードとして生を受けてから、1年の歳月が過ぎた。