第17話 遺憾の博士と走り屋たち
どの世界にも狂った思考の研究者が居るように、この世界、フーレ・ツべニアにもそう言った研究者が居る。シュディンとヒバリが走っているトラノロス村の近くにもマッドドクターが居た。
「さて、始めましょう。この風景が無くなってしまうのは残念ですけれども、名残惜しいけれども……」
そう言いつつ、眼鏡をかけた研究者は種を地面に植えた。赤い髪をポニーテール状にしていて、髪先が3つに分けている。黒い長袖とそれに羽織るようにして血塗れの白衣を羽織った、無機質な白い瞳をしている男性は、種を地面に植えて水をかけていた。
「さぁ、出番ですよ。とは言っても、動かすのは名残惜しいけれども……」
そして男性が水をかけると、そこから薄気味悪い紫色の蔓が生えてきた。そしてそれは巨大な鳥となって地面から現れていた。大きな翼を持ち、足もしっかりと作られている。そして気持ち悪い蔓で出来た鳥の顔で、しっかりと目視していた。
「―――――――さぁ、才能溢れる若者を殺すのは名残惜しいけれども、始めてくれたまえ」
「グアアアアアアアアアアア!」
巨大な鳥は男性の言葉を受けて、雄たけびをあげると共に宙を飛んだ。
「あぁ、本当に名残惜しい……けれどもこれも大望のためだしね」
☆
その頃、走りにしか興味がないシュディン。そして俺を追いかけるヒバリの追いかけっこは未だに休憩すらなく、続けられていた。
「『気』だけでなく、魔力も使っておくか」
シュディンは身体に『気』をなじませながら、その身体にさらに身体強化の魔力を流し込んでさらに速度を上げる。それに対して、ヒバリは焦りつつも、自分の身体の事を理解していた。
「私がこんな所で負けてたまる物ですか!」
もう既に彼女には、最初に彼と会った時のような甘い考えで走ってはおらず、ただ純粋に相手に走りを認めさせるために走っていた。そしてそんな彼女に甘さは消えていて、身体の使い方を理解していた。
(これが空気中を漂う魔力! そしてそれを足に回転して螺旋を描くようにすれば、私にとって最も効率の良い魔力循環になる!)
魔力は誰にとっても同じであるが、個人個人で最も良い使い方と言うのがある。そしてその形をこの速さ勝負の中でヒバリは理解していた。
(神兎族の私をここまでコケにしておいて、名前を知らないままなんて許さないわよ!)
そう言いつつ、ヒバリは身体の足部に魔力を蓄えて、そしてその状態で地面を大きく蹴ってシュディンを追っていた。ヒバリは確かにこの戦いで今まで慢心していたせいで行われなかった、確かな成長を迎えていた。
「――――――まだ微妙と言う所かな?」
「な、何が微妙なのよ、この速度人間! あんたの速さ、異常よ! このヒバリ様が手間取るだなんてよっぽどの事よ! あんた、もうそろそろ休みなさいよ!」
「誰が貴様なんかの言葉で止まったりするか。俺は走りたいから走るだけだ。お前には関係ない。走るのに疲れたなら休め、兎」
「う、うるさいわね! 私は兎じゃなくてヒバリよ! ちゃんと名前で呼びなさい!」
「あぁ、そうか。悪かったよ、ヒバリ」
いちいちさん付けやらちゃん付けとか言った 面倒な関係の探り合いはシュディンは好きじゃなかった。だからこその呼び捨てだった。他の人だったらいきなり呼び捨てで呼ばれるのは戸惑うかもしれないが、
「わ、分かれば良いのよ////// 何よ。いきなり呼び捨てだなんて//////」
単純思考のチョロインである所の彼女には関係無かった。
主人公は走りにしか興味がないこの作品ですが、決して悪役が居ない作品ではありません。と言うか、悪役が居ない作品はつまんないですからね。自分的に。