第16話 走る俺と追う彼女
俺、シュディン・アルザードは身体に魔力を循環させながら、走り出していた。普通に走っているだけよりかは、魔力を身体に循環させて走っている方が身体と魔力のどちらも鍛えられるのである。ただ走っているよりかは、よっぽど鍛えられるから俺はそうやって走っているのである。
「走るって素晴らしいなぁ……」
俺はそう思いつつ、道を走り出す。猛スピードで走る事によって、俺は風を感じつつ清々しい気分になった。
「……ん?」
そんな事を思っていると、俺の目の前に1人の少女が立っていた。いや、ただ立っているのではなくてあれは待っていると言えるだろう。何故か分からないが、目を閉じて俺が来るのを待っている。
金色の和服を少しはだけるようにして着ており、腰まで伸びるポニーテールにしていて、兎種に特有の白兎のように長い耳を持つ少女。恐らくは兎族の亜人……だろうな。なんで待っているのかは分からんが、そんな事はどうだって良い。
「―――――――――まぁ、俺はどうでも良いけどさ」
俺は兎族の亜人の事なんてどうでも良いと思って、そんなのに気を取られていた自分を恥じて、さらに魔力を循環させる。循環した魔力が体内を駆け巡り、足の筋肉を動かす。そしてそのまま彼女の横を走り抜けていた。すると、目を閉じてタイミングを計っていた彼女の足が動き出す。
(なんだ、その程度か)
と、俺は思った。
彼女の足は確かに速い。速いが、別にどうと言う事も無いただの速さだ。足の速さの才能としては多分だがあちらさんの方が上だ。しかし、ただ上に居るだけで彼女には努力の跡が見えない。
(そんな速さに、この俺が負けるはずが無い)
俺はそう思いながら、その兎族の少女の事は忘れて、さらにスピードを上げる。元々、俺は最速を目指しているのであり、この少女とスピード勝負をしたい訳ではない。だからこそ、俺はスピードを上げる。
―――――――速く。風よりも、音よりも、光よりも速く。
俺は足を速める。走って、走って、俺は風が抵抗になって来ても、走る。
「はぁ、はぁ……」
と、俺が走っているすぐ後ろを走ってる者の声が聞こえる。俺はかなりスピードを上げているのに、追いつくとは大した奴である。
「まぁ、これ以上は速くならんだろうが、な!」
俺はそう言って、身体に魔力とは違う、別の力を入れる。これは"気"と呼ばれる力で、剣術をしている時に偶然掴んだ力である。父は「この歳でその力を手に入れるとは! 流石、我が息子!」と喜んでいたが、俺としてはどうでも良い力だ。ただ、基礎体力と基礎能力を向上するこの『気』と呼ばれる力は使える力であるから、使っているのである。
「な、何!? その力!?」
後ろで追いつこうとしている奴の焦った声が聞こえるが、どうだって良い。俺は走りたいのだ。それを邪魔するな。
「こ、ここまでの奴だなんて……。む、胸がキュンキュンしちゃう」
うるさい。少し黙って欲しい物である。
俺はそう思いつつ、彼女を後ろに走らせたまま、思う存分走るのであった。
△用語△
魔力……魔法を使う力。体内と空気中にあり、人によって使える大きさの限界が違う。
気……体術を極めた者が使える力。身体の奥から湧き上がり、極めるほど使える力が大きくなる。