第15話 この世で最も○○な種
この世で最も足が速い種は何かと言う質問があるとするならばその答えは亜人の一種、兎種の神兎種である。彼らの祖先は元々どの亜人の種よりも遅い鈍重な種ではあったが、彼らの祖先は全ての種の中でも薬に関する知識は一番高かった。その薬学の知識で彼らは足に薬にて遺伝子を変異させた。それによって彼らの足は、他の兎種よりも多くの空気を保存出来るようになり、さらにその空気をどの種よりも効率良く循環出来るようになった。
筋肉が悲鳴をあげて動かなくなる要因として、最も重要なのは空気だ。筋肉に空気が行き渡らなくなる事によって、筋肉を動かせなくなる。筋肉に多くの空気を行き渡る事が出来れば、筋肉を他よりも多く動かせる事が出来るのである。
その意味で言えば、足に多くの空気を行き渡らせる事が出来る神兎種は、他の者よりも足が速いのである。
そんな神兎種の1人、ヒバリは神兎種の中でも最も足が速い。
「フフフ……。私は最速♪ 私の足には誰も追いつけないわ♪」
腰まで伸びるポニーテールにしていて、兎種に特有の白兎のように長い耳を持つ少女、ヒバリ。金色の和服を少しはだけるようにして着ており、体格こそ小柄ながら意思の強そうな赤い瞳をしていた。
彼女にとって、全ての種は自信よりも劣る下等生物としか見ていなかった。なにせ、速いと言われている兎族の中でも、特に最速の神兎種の最速である彼女の足に追いつける者は居ないのだから。
「んっ……?」
そう思いながらヒバリが歩いていると、後ろからどたどたと大きな音が聞こえる。
(足音……?)
兎族は足だけでなく、耳も他に比べて高いのだが、神兎種は耳も兎族よりも高く、他の神兎種よりも耳も良い彼女にとってそれが足音、しかも誰かが走っている足音である事を判別するのは簡単だった。
「丁度良いや。暇だったんだよね」
そう言いながら、ヒバリはゆっくりと伸びをする。そして目を閉じて、その走る足音を待っていた。
これはヒバリの悪い癖、ヒバリレースと呼ばれる事前準備である。ヒバリレースとは、走っている者に追走して、疲れ切った所で速度をあげて走っている者の心を折る、足が速い彼女の遊びだった。
「まぁ、今回の人は楽しませてくれるかな?」
ヒバリはそう言いつつ、獲物が来るのを待っていた。そして――――――
「―――――来た!」
ヒバリのすぐ横を足音が通過する。それが合図だった。ヒバリは空気を身体に循環させ、それを足に集約し、そのまま走り出す。
(あれ? ちょっと入れすぎちゃったかな?)
と、ヒバリは足の筋肉を使い過ぎて速くなりすぎたと思ってしまった。本当であればヒバリは横に並んでその後追い抜くつもりであったが、いきなり追い越してしまった事にヒバリは悪いなと思った。
「まぁ、それも私が速すぎるのが悪いんだけれども」
そう思って目を開けて、何もない青空を見ようとして驚いていた。
――――――そこにはとっくの昔に抜いたと思っていたはずの、抜こうと思っていた少年の姿があったからだ。
「―――――――――や、やるじゃない//////」
……余談だがこの世で最も性に対して緩い価値観を持っている亜人こそ兎族、そして神兎種は最も性に対して緩い、チョロインばかりが居る種族である。
最速だと思っている。
↓
抜かれている。
↓
「や、やだ。カッコいい……//////」
これが今の彼女の心境です。