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澄み渡った青空
病院までの道のり、いつもと同じはずなのに
その日の朝はいつもと違って見える
祐樹からプロポーズされた
本当に、本当に嬉しかった
そんな浮き足だっていた私は、病院に着くと正気に戻された
朝礼に佐々木課長の姿がない
「さっき、見ちゃったの、佐々木課長が事務長に呼び出されているところ。たぶん、あの話じゃない」
小声で話す美香子の声が聞こえる
人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ
小夜子のほうを見た
佐々木課長の代わりに前に立つ唐木主任の話しを、真っ直ぐ前を向き聞いている
「では、今日も1日よろしくお願いします」
それぞれが業務に取り掛かる
「西脇小夜子さん、ちょっといいですか?」
総務の人間が小夜子を呼びに来た
小夜子は総合受付を離れ、奥の事務室のほうへ歩いていく
「次は小夜子ちゃんの事情聴取だね」
隣に座る美香子が私に言ってくる
「‥‥」
「うちも一応、総合病院だからね院内で不倫とか、体裁があるわよ」
「体裁ですか‥‥」
″小夜子の気持ち″
不倫は理解できない
でも、誰かを愛する気持ちはわかる
しばらくすると、小夜子が総合受付に戻ってきた
顔色一つ変えず業務に取り掛かる
午前の診療が終わり昼食の時間になった
午前の診療の受付は12時半まで
私たちは13時過ぎから休憩に入る
私は院内の食堂ではなく、外で食事しようと小夜子を誘った
病院の向かいにある、昔ながら洋食レストラン
ランチのピーク時間は過ぎ店内は空いている
「小夜子さん、大丈夫?」
「何が?」
小夜子は相変わらずあっさりと受け返す
「その、佐々木課長との‥‥」
「さっき、事務部長に呼ばれ言ったら事務長も同席していて、噂になっている不倫の話しを根掘り葉掘り聞かれたわよ」
「小夜子さん、どうしたいの?私、全くわからないよ、今の小夜子さんの気持ち。自分から噂広めるようなことして、病院だって黙ってないよ」
「確かにそうかもしれないね」
「こんな噂が広まったんじゃ、佐々木課長だって今のままじゃいれないかもしれない」
「いいの、彼が左遷になろうがクビになろうが」
「どういうこと?」
「私だけのものにしたいから」
小夜子の冷徹な言い方に、少し背筋が凍り付いた