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噂というものはすぐに広まる
ましてや、不倫の果ての略奪愛となれば一瞬だ
勤務時間が終わる頃には、院内の人間全員が知っているのではないと思うほど、あちらこちらでヒソヒソと声が聞こえた
「小夜子さん、なんであんなこと言っちゃったの?みんな面白がるの当然じゃない」
小夜子は笑った
「確かにそうね」
「それに佐々木課長だって立場あるし」
小夜子から笑顔が消えた
「いずれはわかることだもん」
病院を出ると、西日がまぶしい
茜色に長岡の街並みを照らす
「小夜子さん」
私は先に歩く小夜子を追い掛ける
「たぶん、千香にはわかんないよ、私の気持ち」
小夜子は後ろを振り返らなかった
背中がむなしく見えた
″私にはわからない、小夜子の気持ち‥‥″
確かに今の小夜子は何を考えいるのかわからい
寂しさを覚えた
立ちすくむ私の肩に何かが触れる
職員の自転車小屋の前
「ちょっと退いてもらってもいいです」
ぶっきらぼうな言い方
「えっ?」
「あなたがここで立っていると、僕の自転車が出せないんです」
髪はボサボサ、ストライプのシャツを綿パンの中に入れるというダサいファッションの男が不機嫌そうにしている
この病院であまり見ない顔だ
「すみません‥‥」
男は自転車を出すと無言で去って行った
「感じ悪っ」
1人でつぶやいた
私も自分の自転車を出す
去年の誕生日に祐樹からもらった、お気に入りの赤い自転車で西日を背に家路についた