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春が訪れたというのに、4月を過ぎてもなお、未練がましく雪が降ることがある
日曜の夜から気温は下がり、月曜の朝には雪が舞い地面には薄ら積もる
普段は自転車で病院へ通うが雪が降ると歩いて通勤する
病院の前には救急車が数台、赤色灯を照らし停まっている
「この雪で、8号で玉突き事故だって」
開院前、総合受付に入るとそんな声が聞こえてきた
「千佳、おはよう」
私の肩を叩いてきたのは小夜子だった
「おはよう」
小夜子はいつもと変わらない様子で席につく
女性ばかりの総合受付にスーツを着た男性が入ってくる
医事課の佐々木課長だ
小夜子の結婚相手‥‥
「おはようございます。朝礼を始めます」
佐々木課長は30代後半にしては若く見える
細身のスーツを着こなし、黒縁眼鏡の知的な印象
院内ではファンも多い
黒髪のストレートロングで、スタイルもよく美人の小夜子とはお似合いにも見える
「今日は朝から雪が降って各地で事故が多発してます。救急センターは大忙しだ。我々も週明けで何かとバタバタするとは思うがよろしく頼みます」
午前8時
あっという間に総合受付前の椅子は患者で埋めつくされた
大半はお年寄り
高齢化社会の波をひしひしと感じる
私は会計業務をこなしていく
カルテを見てコンピューターに点数を入力する
打ち出された医療費を患者に支払ってもらう
「また読めない‥‥」
カルテに書いてある文字が汚くて読めない時が、この頃よるある
「主任、すみません、またなんですけど‥‥」
医事課の唐木主任
私達、総合受付の中で一番のベテラン
「どれ、この流れからいって薬剤名ね‥‥モルヒネだね」
「あっ、モルヒネか‥‥‥ありがとうございます」
「4月から救急センターに新しい先生きたでしょ、その先生よ」
「タカ‥‥ミヤ‥‥?」
名前も文字が汚く、よく読めない
「そう、高宮先生、見たら笑うわよ」
そう言うと、唐木主任はたくさんのカルテを手に足早に去っていった