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目の前には生ビール
ジョッキで3杯目
それも半分減っている
小夜子も同じぐらいは飲んでいるだろうか
私は、酒は強いほうだ
だが、今日は何だかおかしい
酔いが回ったのか‥‥
否、違う
確かに小夜子は、結婚相手は佐々木課長だと口にした
「佐々木課長って、結婚してるますよね?」
「‥‥先月、離婚した」
小夜子は視線を落とし、薄らと笑顔で言った
その表情は小悪魔だ
「どういうことですか?」
「離婚してもらったの」
「えっ」私は言葉を失った
「好きになっちゃったから」
「小夜子さん、でもそれって―」
「わかってるよ、私、最低だって。でもね、愛しちゃったの」
小夜子は堂々と言い放つ
私は幼い頃から女友達が少なかった
女の友情が苦手だった
上っ面だけで、影にまわれば悪口を言う
小夜子は竹を割ったような性格で、誰にでも平等に接する
曲がったことを嫌い、正義感が強い
初めて、本気で気が合う女友達だった
小夜子に不倫の果ての略奪婚なんて似合わない
素直に喜べなかった
小夜子の話しと小悪魔的な笑顔、それを思い出しながら家路に着いた
春とはいえ、夜風はまだ冷たい
誰もいない真っ暗なドアを開け、部屋に入る
ひんやりとした空気が私を包み込んだ
携帯が鳴った
静まりかえった部屋で少しドキッとする
「もしもし、祐樹」
時計を見ると午後11時
彼氏の祐樹とは午後11時に電話で話すのが日課だった
「お疲れ、今日の夜は冷えるな。風邪引くなよ」
たわいもない話
お互い仕事のある平日は、用がなくても必ず電話で話す
今日の祐樹の声も優しかった
祐樹と付き合って7年
マンネリを感じた時期もある
でも祐樹といるときが一番落ち着いた
祐樹は私に安心感を与えてくれる
私にとって大切な人だ