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長い冬を越え、雪国にもやっと春が訪れた
若草がそよ風に吹かれ、春の匂いを運んでくる
その日、私は仕事を終えて同僚の小夜子と飲みに行った
小夜子とは、仕事の帰りによく2人で飲みに行く
女子2人には似合わない、駅前の古めかしい焼き鳥屋
周りは酔っぱらったサラリーマンが席を埋めつくす
「今日も疲れたぁ、週末になると何処からともなく患者が集まるからね」
「週末だけじゃなく月曜日もですよね、まんべんなく来てくれればいいのに」
私と小夜子の会話は大抵、仕事の愚痴から始まる
小夜子は私より2つ先輩、歳も2つ上だ
私と小夜子が働く院内の総合受付は20人程のの事務員がいる
中でも小夜子とは妙に気が合ったのだ
「そういえば、千佳は最近どうなのよ?彼氏とはうまくやってるの?」
「まぁ、それなりに」
私は照れ笑いを浮かべた
「いいわね〜」
「小夜子さんはどうなんです?恋愛事情は?」
小夜子は意味ありげな笑みを浮かべる
「彼氏できました?」
「あんたね、私だって男の1人や2人いるわよ」
「えっ!そうだったんですか?」
私の驚いた反応に小夜子は頬を膨らませた
だが、それも直ぐに照れた笑顔に戻る
「実は、千佳に一番最初に報告しようと思って‥」
「なんですか?いきなり」
「私ね仕事辞めることになったの」
「えっ!!!急にどうして?」
私はあまりの突然の話しに驚き、大きな声を出してしまった
同時に店内も一瞬静まりかえり、私の声だけが響いた
「そんな大声出さないでよ」
小夜子はおもむろに左手の甲を私に見せた
薬指にはキラリと光るものがある
「小夜子さん、まさか‥」
「フフン、そのまさか」
「えぇ!知らなかった‥」
混乱した頭を整理させる
「小夜子さん、おめでとうございます」
心の底から出た言葉だ
「で、相手は‥‥?」
小夜子は頬を赤らめた
「佐々木課長‥‥‥」
「えぇ!!佐々木課長って‥‥‥」
私は耳を疑った