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「あ、あの子また絵描いてる。」
新学年。最高学年になった、私たち港本中3年生。
なんだか今年受験だなんて、実感わかないけれど、一週間が経つ。
私も三年二組でなんとか新しい友達の柚夏と知美と過ごしてる。
二組には、横浜から転校生が入ってきた。
村瀬すみれ。
肩までのまっすぐな黒い髪に、くりっとした大きな目。整った顔だちは、私もほれぼれするほどだ。
だから、ただでさえ転校生で注目されるのに、かわいいんだから、最初はみんなこぞって彼女に話しかけてたっけ…。
私たちは遠巻きに見てただけなんだけど、本当に男女問わず追っ掛けられてて、休み時間なんてないくらいだった。
でも彼女、大人しすぎた。
だんだんみんな、あんまり寄ってこなくなった。
彼女もそれを望んでたのか否か、とくにかたまりつつあったグループの輪に入りこまなかったもんだから、グループ形成期に、はみ出てしまったのだ。
彼女はたいてい、俯きがちに笑い、でっかいスケッチブック抱えて、校舎の至るところにいる。
熱心に絵を描いてる。
持つ物は時に鉛筆から筆に、描く物も校舎から音楽室にと変わっても、彼女はいつでも絵を描いてる。