表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/38

幕間三 リーティア

 

 ルーが、泣いた。



「…ね、ルー。なんにも見えないよぉ。」

「リー、私はここにいるから。」

 大丈夫。優しいルーの声。私の、大切な姉さん。その手を取って、小さな私は泣きじゃくるしかなかった。暗闇は、心を抉るようだった。


 父の顔も、母の顔も知らない。知る必要もない。今、私の両親はオルソン夫妻。それが全てで、それ以外は知らない。

 捨て子。それは嘘。私は、ルーに連れられ逃げた。ルーさえいればよかったの。目が見えなくなって、暗闇が世界を支配しても、ルーの手のぬくもりだけで生きていられた。だから、私一人が養子に入ることも、ルーが執事として女であることを隠して生きることもかまわなかった。それが、ルーとずっと一緒にいられる条件なら喜んで応じた。

 だから、ルーの心なんて知ろうともしなかった。私は、今でも小さなリー。ちっぽけな、リーティア…。


「ルーテシア。今すぐオルソン卿の養子に入れ。」

 男は言った。ルーを、手に入れるために。

 ユリアス・クライア。この国の第二王子。この男が、ルーを欲している。渡したくない。だって、ルーがいなくなるなんて考えたくもなかった。

 けれど、それは間違いなのだと私は痛感することになる。



「…リーは、僕が守らなきゃいけないんだ。」

 その言葉から始まった、ルーの記憶。それは、私の浅はかさを知らしめた。父も、母も、憎かった。実の両親なのに、憎かった。そして、自分自身も。ルー、ごめん。私、こんなにちっぽけでごめん…。

 私は、隠れていた場所から動くことが出来なかった。立ち去ることも出来なかった。ユリアスとルーの話に、私はただ嗚咽を我慢してしゃがみ込むしかなかった。私では、貴女に寄り添えない。だってそうでしょう?貴女がこんなに耐えてきたのは、私の為なんだもの。

「もう、いいんだ。大丈夫なんだ、ルーテシア。大丈夫だから…。」

 彼は、耐えるなと、泣けと言っているようだった。私も、祈るしかなかった。大切な姉さんが、その奥にしまってしまった本音を吐き出してしまうことを。

 私は見た。静かにルーが、泣くのを。愛していると囁く男の腕の中で、綺麗に泣いていた。

 私は、ルーに自由になってほしい。そう、心から願っていた。



 舞踏会への参加を決めたのも、全てはルーを自由にするため。私を守りたい気持ちを上回る気持ちを手に入れてもらうため。

「ニナ。私、ルーを自由にしてあげたいの。」

 親友のニナにそう相談すると、二つ返事で協力すると言われた。そして二人で考えたのが、今回の舞踏会へルーを参加させること。もちろん、執事なんかじゃなく素敵な女の子して。

 ルーに秘密なんて、そうそうなかったから何だか楽しくなっていた。ルーにどんなドレスを着せよう。きっと嫌な顔をするんだろうな。想像するだけで笑っちゃう。そして同時に、ルーに一目惚れしたであろう王子の顔も。彼はどんな反応をするだろうか。驚く?怒る?照れる?…全部か。そう想像するのは簡単だった。



 案の定、なんて言葉がぴったりの顔をして、ユリアスが睨んでいる。その視線の先は、間違いなくルーテシア。その瞳は微かに独占欲の光を秘めている。

 確かに、私やニナが想像していたよりも、ずっとルーは綺麗になった。紫のドレスは似合うどころか、ルーの為に作られたと言われたっておかしくなかった。

 少し、失敗したかしら…。ものすごく綺麗になったルーを見ながら、ルーをルーとも気がつかない愚かな男共に相槌を打つ。紹介してくれだの、お二人ともお美しいだの、聞き飽きてしまったわ。

 そんな時、後ろからかなりの威圧感を感じた。私は、ほっと胸を撫で下ろした。向かってきたのは、ルーにかなり惚れこんでるユリアスだったから。癪だけど、これをどうにか出来るのは彼だけだもの。

 ユリアスは短い言葉と目線だけで全てを終わらせた。ま、少しは役に立つじゃない。ユリアスを見ると、何故か軽口を叩きたくなるのはなんでかしら。


「…来い。」

「へ!?うわっ!いたたた!ちょ、ちょっと!」

「うるさい。」

 不機嫌な様子で、ユリアスは強引にルーを連れ去ってしまった。せっかちな。

 でも困ったわ…。一人になってしまった。これでは誰に声をかけられても断れない…。ついて行ってしまおうかしら。でも、それは野暮よね。

 ルーを自由にする。そう決めたものの、結局ルーがいなければ私は駄目なのか。はぁ…。とため息をつけば、先ほどの男共がまたこちらにやって来ようとするではないか。ユリアスの目的はルーなのだし、私がどうなろうと関係は確かにない。

「…どうしよう。」

「大丈夫ですか、お嬢さん。」

 頭上から声がした。その方向へ顔を向けると、そこにはユリアスと同じ銀の髪が揺れていた。



 …ねぇ、ルー。私も、自由になっていい?



 フラグを立ててみる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ