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9/12

#8 儚い命、絶えぬ後悔


 

 4/3(金)の朝七時頃。のるんは硬いソファでスマホのアラーム音で目を覚ます。

 昨日は昨日で、随分と濃い一日だった。「ヘルヘイム」に「エゴ」、生徒会にオカルト研究部。

 まだ、此処に来てから三日だと言うのに、一年分の出来事を経験した気分になっている。


 (今日も黒崎さんが迎えに来るって言ってたから、それまでに準備はしとかないと)


 重い体に鞭を打ちながら、朝食を食べ、テレビのスイッチを入れる。


 『今週の土日は、春の空気を感じることが出来るでしょう。お出かけには良いかも知れません』


 どうやら、土日両方晴れらしい。部屋に籠もって疲れを取るのもいいが、外に出るのも有りだ。

 明日は土曜日で、学校が休みなので、誰かと一緒に出掛けても良いかも知れない。

 星失で出来た友人を誘って、何処かへ行ってみようか。


 (っと、今日は生徒会室に行かないとな、流石に「ヘルヘイム」について話を聞かないと……)


 昨日はなしろを優先したせいで、まだ話が聞けていない。

 今日の放課後は、生徒会室に足を運ぼう。土日挟んでたら、気になって仕方ない。

 そうこうしている内に、さなが迎えに来て、のるんは一緒に登校する。

 春先の空気がぽかぽかとしており、天気もいいお陰で、非常に過ごしやすい朝だ。

 相変わらず短すぎるスカートをパタパタとさせながら、さなはニコニコと笑いながら、色々な話をしている。


 「あ、そうだ!もし、土曜か日曜日、暇ならフルール、行ってみない?」

 「フルール?って、近くにあるショッピングモールみたいな奴……だっけ?」


 さなは、うんうんと首を数度、縦に振る。 

 確か、フルールは、この街で唯一の総合ショッピングモールだったはず。

 人口もそう多くないため、スーパーと、フードコート、イベントエリアがあったりと、最低限は揃っているが、都会のそれと比べたらかなり物足りない。

 それでも、このまちなら十分だろう。近くにある商店街は活気が大分無くなっており、寂しいものだ。


 (それでも、色んな物が売ってるから、行ってみたい気もするけど)


 一回、帰り際に寄ってはみたが、本屋や、骨董品屋、町中華、喫茶店などがあった。

 こちらも時間がある時に、一人で行ってみたり、好きそうなものがある友人がいれば誘ってみよう。


 「気になるから、行ってみるのも有りかも」

 「んじゃ、行けるならまたRAINで連絡して〜。多分私も暇してるから!四獣天くんも誘ってね」

 

 そんな事を言っていたら、いつの間にか学校に着いていた。

 おはよ〜と適当にクラスメイトに言い、近くの席で座っていたなしろにも挨拶をする。


 「おはよう、姫宮さん」


 なんでわたしに挨拶するんだ、と湿っぽい視線を送られたが、のるんは気にせずに微笑む。

 眼鏡の奥の瞳からはそこまでの拒絶感もないので、なしろも少し悩んだ末に、小さな声を出す。


 「……おはよう」

 

 満足したのるんは、席に座ってチャイムが鳴るまでに、先んじて教科書をペラペラと捲っている。

 確か一限は歴史だった筈。担当しているのは、我らが担任、猫鮫フカだ。

 あれはあれで、教え方が非常に分かりやすい上に、面白いキャラが受けてかなり人気らしい。

 

 「ほらほら〜〜!授業の時間ですわよ〜〜えーと、今日は……?」


 フカは、チャイムが鳴るや否や、サメの尻尾をびたんびたんと叩きつけて、着席を促す。

 何やら手に持っているノートを確認した後に、黒板に今日の授業の部分をスラスラと書き流す。


 「あ〜、今日はイギリス王室の話ですわね、わたくし、あんまり興味はないですけれど、エリザベス二世は、1952年から2022年に亡くなるまでの間、実に70年も女王をしてたんですの。ぞっとしますわよね、人生全部を女王に捧げるなんて、大したものだと思いますわ。わたくしなら、酒飲んで寝る生活のほうがずっと幸せですもの」


 その言葉には概ね同意だ。女王として即位してから、活動していた期間は相当長いものだ。

 つい最近まで活動していたが、確かチャールズ3世が即位したはずだ。

 かなり高齢での即位だから、さぞ幸せだろうとか、そんな話を聞いた気がする。

 フカの話を適当に聞きながら、のるんは窓の外を眺めている。

 教室の中央だと言うのに、日差しがぽかぽかとしていて、絶好のお昼寝日和だ。


 「っと、それじゃあここでフカ先生のいきなり質問ターイム!そうですわね……、じゃあそこで晩年のエリザベス女王みたいな顔してる結代さん!」

 「は、はい!?」


 いきなり当てられたのるんは、何も分からないまま、取り敢えずその場で起立する。

 

 「最長の即位期間を誇ったのはエスワティニの国王ですけれど、最短の即位期間を誇ったのはどなかか……、結代さんは分かるかしら?」

 「さ、最短?え、えーっと……」


 そんな事、知ってる訳が無い。こちとら、今の日本の首相が何年続いているかすら怪しいのに。

 少し考えている素振りを見せていると、前の方から一枚のメモが机の上に飛んできた。

 のるんはそれを見て、自信なさげに答える。


 「えーと、ポルトガルのルイス・フィリペ王子の事でしょうか……?」


 のるんの答えに、フカは目を丸くさせ、尻尾をブンブンと振り回している。

 感情と連動して尻尾が動く方が、こちらとしては驚きを隠せないのだが、一旦置いておこう。 


 「良く知って居ましたわね。そうですわ、最短の即位期間を誇ったのはポルトガルのカルロス一世の息子であるルイス・フィリペ王子の事ですわね。カルロス一世が馬車に乗っていた際に、共和主義の過激派に殺され、即死した事件がありましたの。後に一緒に乗っていた王子が王位を継承しましたが、王子もその後にすぐ死んでしまった悲しきお話がありましたの……。王位を継いでから、その間、20分しか無かったので、本当に刹那の国王だった、という事ですの。まぁ、最近の学会では、王位を継いで無い扱いをするものも居ますけどね。全く、度し難いお話ですわ」


 どうやら、のるんの答えは正解だったようだ。


 (姫宮さんが助けてくれたのかな……。というか、良く知ってるなぁ、こんな話)


 普通に生きてて知ってる内容じゃない筈なのだが、フカもなしろも凄いなぁ、と感じた。

 必要かどうかはともかく、のるんは、少しだけ賢くなった気がする。


 __________


 授業が終わり、今日は真っ直ぐ生徒会室へと足を運ぶことにした。

 三階をキョロキョロしながら歩いていると、後ろから「結代さん?」と声を掛けられる。

 振り返ると、そこには目的の人物、玉兎鈴(たまうさぎすず)生徒会長が、立っていた。

 

 「やはり、結代さんでしたか。三階に何か御用でしたか?」

 「前の鈴さんのお誘いに乗ろうと来たんです」


 のるんの言葉に、鈴はぱぁっと表情を明るくさせる。


 「そうでしたか、丁度生徒会室へと戻るところでしたから、一緒に行きましょうか」

 「ありがとうございます、お邪魔しますね」


 鈴に連れられ、生徒会室へと入ると、そこには凪織、ヤタノ、リアも居た。

 なにやら、ヤタノとリアが喧嘩寸前と行った様子だ。向かい合って、互いを睨み合っている。

 微妙に険悪なムードが室内に漂っているのだが、何となくこの場から離れた方が良い気もする。


 「え、えーと……日を改めましょうか?」

 「いえ。大丈夫ですよ、少し待って下さいね」


 鈴は、のるんを近くのソファに座らせると、リアの耳を引っ張って奥の部屋へと連れ込んだ。

 最初の方は、リアの罵声が聞こえてきたのだが、次第に声量が弱くなり、最後の方には聞こえなくなった。

 部屋から出てくると、やつれた社会人みたいになったリアと、若干呆れた表情の鈴がでてくる。

 リアはそのまま、生徒会室からでていき、何があったんだと鈴以外の面々が鈴の方を見る。


 「まぁ、これで暫くの間は大人しくなるでしょう。話もややこしくなるので、椛野副会長には、他部活の視察をお願いしました。結代さん、おまたせしました。今準備しますから、待ってて貰えますか」

 

 鈴は慣れた手つきで、ティーポッドとティーカップ、英国式のアフタヌーンティーに使われているスリーティアーズまで容易をし始める。

 凪織も、お菓子の準備をし始め、スリーティアーズにカントリーマアムや、チョコ菓子をいくつかバランス良く置いている。

 あっという間に、それらしいお茶会の場が出来上がり、丸いテーブルに四方に椅子を置いて、各々が座る。

 のるんの正面には、ヤタノ。右隣に凪織、左隣には鈴が座っている。

 キチンと上座に座らされている辺り、きちんと歓迎されている気がしなくもない。

 香り高いアールグレイをティーカップに注がれ、鈴はふぅっと息を吐いて、こちらを見る。


 「色々なことが有りましたが、ゆっくりお話しましょうか。結代さん」


 どうしてそんな緊張させるような物言いをするんだぁ、と言いながらのるんは、紅茶に口をつけた。

 

 

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