#9 正義とはなんなのか
優雅な放課後ティーパーティに参加しているのるんは、何とも言えない表情で相槌を打っている。
肝心な話は特に無く、転校する前の話や、凪織、ヤタノとの雑談がメインになっていたからだ。
恙無くティーパーティは進んでいき、既に三杯目のアールグレイを口にしている最中、唐突に鈴がこちらを見る。
「結代さんは、今日のお茶会で、聴きたいことがあるんじゃないですか?折角の金曜日ですから、何でも聞いて下さい」
「え、でも……」
凪織とヤタノの居る前で、昨日の出来事を話してしまっても良いのだろうか。
一年生で生徒会をしていることも不思議ではあるのだが、恐らく「ヘルヘイム」の事も、「エゴ」の事も知らない可能性が高い。
で、あればまたの機会にしたほうが良いのかと、のるんは敢えて、その話題には触れていなかった。
「昨日の話、お二人にもお話してしまっても良いんですか?」
鈴は、コクリと首を縦に振る。
「昨日のあの場所、アレは一体何なんですか?」
「あの場所……?って、何のことデス?ボク、もしかして、またしても何も知らナイ……」
凪織がなぁんなぁん、と鳴き声を上げている中、ヤタノはこちらの会話に興味津々で耳を傾ける。
「「ヘルヘイム」、私がこの高校に入学した時点では既にあった場所です。時折、人が迷い込み……救い出すことが出来なければ、そこに巣食う化け物──「エゴ」が殺してしまう。つい最近も、手が足りず……、一人犠牲者がでてしまいました」
「へぇ〜。じゃ。あの、来栖零士の件は、カイチョーとぉ〜副カイチョーの落ち度って訳?」
来栖零士──、のるんが此処に来る少し前に、無惨に殺されていた参拾〜四拾代の男性の事だ。
ヤタノは、ニマニマとしながら、鈴の表情をじぃっと見ている。
「そうですね、責任がないとは言い切れません。手が足りず、気づいた頃には既に殺されてしまっていましたから……」
「ひ、ひえっ……、フィクションのお話、ですヨネ?み、みんな。ボクを怖がらせるために、お話を盛ってるんですよね?……わふぅ」
鈴は、深刻そうな表情で首を横に振る。
凪織とヤタノの顔から、明るさが消え、重苦しい空気が周囲を支配する。
「残念ながら、「ヘルヘイム」と我々が呼称している異空間は実在します。そして、先日、結代さんもそこに迷い込んでいました。お話を聞いても、どうやって入ったかすら、分かっていなかったようですが……」
気づけばそこに居た。それ以上の答えは自分には出せなかった。
意識がなかったわけではない。教室を飛び出したら、知らない間に迷い込んでいたのだ。
「へ〜、それで、カイチョーがのるちゃを助けたってわけ?」
「いえ。助けたのは私ではなく、姫宮さんでした」
なしろも何故か、あの場所に出入りすることが出来る人間だった。
出口も知っていることから、それなりに場数を踏んでいるのだろう。
「姫宮……っていうと、二年の、あの……?」
「そうです。オカルト研究部に所属しており、要注意人物に指定されている彼女です」
凪織の反応からして、彼女も生徒会と何らかの関係があったことが分かる。
入学して数日で、彼女のことを把握しているということの意味。それも恐らく組織ぐるみで。
(一体、何があったんだろう……)
今は聞ける雰囲気じゃない。鈴や他の面々との関係値が築けた時に改めて聞こう。
「ふぅん……?それで?ぼくも行ったことない場所だけど、そこでのるちゃは何してたの?」
「迷ってた、としか言いようがないかな。見たことのない化け物が……うようよ居て、上手いこと隠れながら、玄関から出ようとしたけど、出れなくて……。もう終わりだ、って時に姫宮さんに助けられた。って感じ」
凪織は、あわわ、と情けない声を出しながら、プルプルと震えている。
なんでこいつは生徒会に所属しているんだ、とのるんは呆れながら話を続ける。
「その後に鈴さんと椛野さんも同じ場所に来て、その日は解散したって感じかな」
「なぁるほどねぇ?それで、カイチョーにも話を聞きに来たってワケね。案外、打算的だね」
話していて思うが、ヤタノは随分と頭が切れるらしい。
見ても居ない事象も、ある程度は想像力と理解力で補っている。
「エゴ」や「ヘルヘイム」についても、二人の話を聞いただけでどういう場所かまで理解している。
(関わる時は気をつけなきゃいけないかも。対称的に那雲さんは……)
まぁ、放っておいても良いだろう。見た目も中身もアホの子丸出しだ。
かく言う自分も、「ヘルヘイム」についても、「エゴ」についても良く分かっていない。
分かることは、命を脅かす場所であること、命を奪う者であること。それだけだ。
「ついでに言っておくと、我々も「エゴ」に関してはそこまで理解していません。「戯装」と呼ばれる武器でしか倒すことの出来ない異形……という部分までしか把握できていませんから」
「「戯装」、というのは三人が持っていたあの……?」
各々が持っていた異質で美しい剣。そのどれもが見たことのない物だった。
なしろは黒く歪ながらも、美しい大剣。リアは細く、紫色で細身の刀身を持っていたレイピア。
鈴は灰色の機械のような、硝子のような儚さを携えた片手剣のようなものを持っていた。
「そうです、あれでなければ、「エゴ」を斬ることは出来ません。銃や他の武器も試しましたが、傷一つ付けることすら叶いませんでした」
「じゅ、銃刀法違反だぁ……、ボクらの会長が……なぁんなぁん」
(「戯装」ね……、アレがないと、「ヘルヘイム」では活動できないって訳だ)
恐らく、彼女達の事だ。「戯装」の出し方も分からないのだろう。
自分も命の危険性がある以上、出せるのであれば出してみたいが、難しいだろう。
(生徒会か、姫宮さんのどちらかが居ないと帰ってこれない可能性が高い)
そう遠くない内に、「ヘルヘイム」に入る際には、どちらかの助力が必要になりそうだ。
きっと、両方と共に行動するのは厳しいだろう。なしろもリアも双方を嫌っている。
のるん本人は、双方と仲良くしたいが、出来ないのであれば仕方ない。
(一番は入らなくて済むことだが、なんとなく、そういう訳にも行かなくなりそう)
なしろは分からないが、生徒会は間違いなく戦力や、仲間を求めている。
それに、自分も意図しなかったとは言え、足を踏み入れてしまった。
「近い内に、那雲さんと漆原さんには、一緒に「ヘルヘイム」に来て貰おうと思っていますが、結代さんも如何ですか?」
「え、ボクも、ですか。部外者まで同行させても良いのですか?」
意外な提案を受けたのるんは、目を丸くさせる。
というか、凪織とヤタノも一緒に行く予定だったのか、とそちらの方向でも驚く。
「えぇ、その際は、生徒会の庶務として参画して貰うことになりますが……、正式加入までは求めません。臨時で戦力が必要になった際に、お力を貸して頂くだけでも結構です。戦力になれば、の話ですが」
「うん、少し考えておくね。知ってしまったからには、何もしないでおくってのは嫌だから」
この気持ちは正義感じゃない。目を逸らし、逃げ続けることが嫌なだけ。
夢の中の彼女もそうだった。逃げれたにも関わらず、現実から逃げずに、やることを成した。
チラリと、凪織、ヤタノを見ると、各々が複雑そうな感情を顔に浮かべている。
覚悟を決めたような表情、何かを探るような表情、そのどれもが間違いなんかじゃない。
(自分も、進むべき路を、考えなきゃいけないかも知れない)
直ぐに決断できるものでもない。けれど、生徒会が、なしろが何をしようとしているのか。
「「戯装」を出す為に、「ヘルヘイム」を知る為に、来週月曜日、一緒に同行して貰えますか?」
「ボクは構いません。「戯装」を出せるかどうかも分かりませんが……」
のるんの言葉に、凪織もヤタノも同意し、それからは雑談を少ししてから、のるんは帰宅する。
その間に、ヤタノ、凪織、鈴との連絡先も交換していた。連絡することもあるからと。
RAINの友達の数が増えて、ニッコニコになっていたのるんであった。
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そんなにお腹が空いていなかったのるんは、帰り道で買ったコロッケを食べ、ソファに転がる。
スマホを覗いてみると、今日もそこそこの通知が来ていた。
もう少し、スマホを見るクセを付けていたほうが良いのかも知れない。
(皆が付けてる、通知って奴。ボクも付けといた方が良いかも知れない)
RAINを開くと、九通来ていた。
なしろから三通、さなから二通、凪織から三通、ヤタノから一通だ。
「結構来てるなぁ、嬉しい反面、返事するのに時間かかりそ……」
ヤタノからはスタンプが飛んできていただけなので、スタンプで返事しながら、他のを開く。
───姫宮なしろとのトークルーム───
なしろ:こんばんは。姫宮なしろだけれど。(22:21)
なしろ:今、結代さんは何をしているかしら(22:22)
なしろ:わたしは、空を眺めているわ(22:23)
のるん:空?綺麗だもんね、此処で見る空(22:45)(既読)
のるんの送った文章に対して、やはり、随分と既読が早い。
空を眺めているなんて、ロマンチックだなぁと思いながら、スマホをフリック操作をする。
なしろ:えぇ、特別綺麗な場所があるの。今度案内するわね(22:46)
のるん:そんな場所あるんだ!楽しみにしてるね!(22:49)(既読)
なしろ:期待してて頂戴。きっと期待は裏切らないわ(22:50)
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なしろから夜空を見に行こうと、誘われた。
近い内に、夜に時間があれば、なしろを誘ってみようか。
眠い目を擦りながら、なしろとはちょこちょこ会話をしながら、次はさなのトークを開く。
───黒崎さなとのトークルーム────
さな:おーい、のるんちゃん〜。(19:35)
さな:明日、都合どうかな?フルール、案内しようかなって思うんだけど!(19:38)
のるん:フルールって、今日行ってたショッピングモール?(22:47)(既読)
さな:そそ!昼からなら空いてるから、考えといて!(22:50)
さな:四獣天くんは忙しいらしいから、二人っきりだけど……(22:51)
さな:ダメ、かな?(22:52)
さな:スタンプを送信しました(22:52)
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マシンガントークだけして、最後にはスタンプで締めている。
明日の昼からは、さなとのお出かけに使おうか……。特に予定はない。
そう言えば、凪織からもRAINが来ている。そっちも開いておこう。
───那雲凪織とのトークルーム────
ナギ:拝啓、結代のるん様(19:35)
ナギ:今日は一緒にお茶会に参加出来、楽しい時間を共にすることが出来ました。(19:38)
ナギ:今度、お時間ある時に何処かへ行きませんか(19:50)
のるん:こちらこそ、ありがとう!何処かって……、何処?(22:50)(既読)
ナギ:ぇ、あ、いや……その、何でも無いです!!(22:51)
のるん:なんじゃそりゃ笑 いい場所あったら、紹介してよ(22:52)(既読)
ナギ:スタンプを送信しました(22:52)
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凪織からも誘いを受けてしまった。
何処か気になる場所ができたら、凪織に案内して貰おうか……。
ヤタノ、凪織、鈴と「友達」になった。
時間がある時に、何処かへ誘ってみようか……。




