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1,不幸な高校生

気軽に読めるライトノベルを書いてみました。

某映画に設定が似ていますが、気にせずに読んでください。

何も考えず、気楽にきらくに……。

 広い公園には誰もいない。ブランコに座っている僕は胸の中に溜まっていた、どんよりとした不満をフーッと吐き出す。

 だが、心中の霧は晴れない。公園に降り注ぐ春の日差しとはアンバランスだ。

 視線を下げて足下を見ると、職員室と書かれたスリッパで、僕は体操服の上下を着ている。外履きは隠されたか捨てられている。そして、草の上に放り投げた学生鞄には、バカと書かれたワイシャツが入っていた。

 衣替えしたばかりなのに……。マジックで落書きされているから消えないだろう。

「弱い者いじめをして何が楽しいのかな……」

 また、大きくため息をつくとブランコが少し揺れた。


 僕は学校でいじめられている。

 高校2年生になってから、急に不良達から目を付けられたのだ。

 靴を隠されたり机の中にゴミを入れられたり、校舎裏に連れ出されて腹パンされたり、こちらが弱いと思ったら何でもし放題だ。

 僕の身長は170センチだが、クラスでは低い方。ずっとインドアでゲームやアニメに明け暮れていたから体もほっそりしているので他人からは弱っちいと思われている。実際に体力はなくて体育の評価は低い。だから、不良にとっては絶好のカモなのだろう。

 先生に言っても、証拠がないからなあ、とはぐらかす。サラリーマン先生はトラブルに関わるのが嫌なのだ。その後は、不良から告げ口をしたなと怒鳴られて、さらに苛められてしまう。

 1年生の時は楽しく付き合っていたオタク仲間も離れていった。平凡な顔なので、共学だがガールフレンドもいない。これが孤独というやつか。


 僕は3度目のため息を吐いた。

「もう、死んじゃおうかな……」

 どうでも良くなってきた。


 体のだるさと重くなった心情によってブランコの鎖が切れるんじゃないかと思ったとき、公園に異変が生じた。

 向こうの砂場にボールくらいの光球が出現し、次第に大きくなる。風が渦を巻き、砂を舞い上がらせた。

 僕の髪は静電気で逆立ち、光球はパリパリという音と共に周りにスパークを走らせる。まぶしくて直視できないから右手で光を遮った。

 突然、大きな破裂音がして辺りに焦げ臭い匂いが漂う。

 ゆっくりと右手を下げると、そこには……。

 僕は口を開けたまま固まった。

 ……そこには全裸の女性が片膝をつき、両手を地面に落とすポーズで静止している。短距離走でスタートをする時の姿勢だ。

 その白い体からは、ほんのりと白い煙が上がっている。

 一糸もまとっていない若い女は、緩やかに立ち上がった。そして、ゆっくりと周辺を見回し、僕を見つけるとモデルのような優雅さで歩いてきた。

 呼吸が速くなり、心臓のピストン運動が過激になる。僕の体は熱くなった。特に下半身が。

 目の前で彼女が立ち止まった。

 女性の裸を見るのは初めてのこと。背は僕よりも少し高く、肌は真っ白だった。下着で補正されていないのに胸は半円球を保っている。ウェストは細くてヒップは小さい方かな。

 ムダ毛がなく全身がツルンとしていた。長い黒髪は絹糸のように細くてなめらか。そよ風が吹くと背中で揺れている。

 表情は大人っぽい。20歳くらいだろうか、切れ長の目で唇は小さい。瞳は白ウサギのように赤かった。

 学校でも近所でも見かけることがないくらいの和風の美人。僕は一人っ子だが、こんな優美な姉さんがいたらガールフレンドがいなくても構わないだろう。


 スタイル抜群のお姉さんが口を開く。

「ここはどこですか? 今はいつですか?」

 言葉の意味を図りかねて僕の脳の海馬は入力処理異常を起こす。

「ここは何番地だったかな……。今日は6月の何日だったかな……」

 裸体のインパクトが大きくて思考が乱れてしまう。

 彼女は眉をひそめた。じれったいと感じているのか。

「ここは日本ですか」

 少し大人びた甘い声。アニメの萌え声優さんレベルだ。

「は、はい。そうです」

 そんな大きなところから聞くのか。

「東京ですか」

「は、は、はい。そうですけど」

 どう考えても、このお姉さんは普通じゃないよな。

「今は西暦2023年ですか」

「はあ、そうですけど」

「ああ、良かった……。時空転送は正常に実行されたようですね」

 深呼吸すると胸の膨らみが上下に少し揺れた。

「時空転送?」

 僕の言葉は無視して、彼女は少し腰を曲げ、顔を近づける。目の前にバストのアップが……。

「サトウという人を知りませんか」

 人を探しているのか。僕も佐藤だけど、こっちとは関係ないよな。

「下の名前は何というんですか」

 彼女は体を伸ばして胸の下で腕を組む。

「転送の時にデータが破壊されてターゲットの情報が不明確になってしまいました。三次元パリティ回路によって徐々に修復されているんですけど、データの復元には時間がかかるのです」

「はあ、そうですか……」

 言っている意味が良く分からない。

 お姉さんは腰に手を当て無言で遠くを見ていた。

 ずっと確かめたいことがあるのだが、聞いても良いものだろうか。でも、分からずにいると心の中にずっと、わだかまりとして残るような気がする。

「あのう……。お姉さんはどうして裸なんでしょう?」

 うら若い乙女が恥ずかしいと思わないのだろうか。

 彼女がこちらを向く。

「生き物のような生体でないと時空転送できないのです。金属類や衣服などは転送の時に消滅してしまうのですよ」

「はあ、それは大変ですね……」

「ハンドレールガンなどを持って来ることができたら任務も容易になったでしょうが……」

「はあ、それは残念ですね……」

 彼女は少し顔をしかめて悔しそう。その表情も童貞ボーイにとってはキュンとくるんだよな。

「でも、女性タイプの私が裸体のまま行動するのは支障が出ますね」

 そう言って彼女は、近くに放り出していた僕の鞄を探って一冊の本を取り出した。

「あっ、それは……」

 それは最近買ったライトノベルで『幼なじみの近所のお姉さんと同級生の女の子が僕を取りあっているんだけど、どうしたらいいんだろう。お姉さんはミニスカメイド服、同級生は旧スクール水着で僕に迫ってくるよー』という、他人に見られると恥ずかしい題名。クラスでは不良に見つかり、皆の前で吊し上げられた。

「これがこの時代の服飾ですか」

 本の表紙にはメイド服を着た美女とスクール水着の女の子が描かれている。全裸お姉さんの表情は冷静で特に感想はないようだ。

 彼女は本を鞄に放り投げ、胸の前で両手を組む。

「量子エンジン起動。二次元画像データを立体布製品に変換、生成」

 すると、彼女の体がボウッと光り出し、その光が消えるとメイド服を着たミニスカメイドさんが現れた。

 ああ、やっぱり普通ではない人なんだ。

 胸が開いている白い半袖タイプのブラウス。豊かな胸を黒いコルセットで押し上げるようにして強調している。頭にはリボン風のカチューシャ。黒いローファー靴を履き、白いハイソックスですらりとした足を隠す。スカートは短いので絶対領域の面積は広い。

「では」

 彼女はクルリと後ろを向き、歩き出す。

「あの、ちょっと。せめて名前だけでも」

 つい、聞いてしまった。

 彼女は立ち止まり、振り返って僕を見る。

「そうですね。この世界で活動するには名前があった方が良いかもしれません」

 しばらく無言で考え込む。

「ユウコにしましょう」

「ゆうこさんですか」

「はい、夕方の子供と書いて夕子、ユウコと呼んでください」

「はあ、分かりました。夕子さんですね」

 彼女はコクンと頷くと向こうに立ち去っていった。


 いったい彼女は何だったのだろう。

 僕の他に誰もいない公園。夕方になりかけている時刻。しばらく呆然としてブランコを揺らしていた。

 あられもない彼女の姿が目に焼き付いている。今夜は興奮して眠れそうにないな。

 首をぶんぶんと振って煩悩を追い出す。

「さあ、帰るか」

 僕は本を拾って鞄に入れ、公園の出口に向かった。


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