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移民の哲学

 環境というものにフォーカスしている。

人格的な要素は後退し、彼/彼女の性質や特質は後退し、常に《置かれている環境》というものが絶対的な地位を占める。

 つまり、性善説のように、置かれている環境=悪であり、その人は無条件に良い人となる、そんな人を、追い込む社会や世界が悪とみなされる。


 犯罪の被害者よりも、加害者に同情し、そこまで追いやったされる構造や社会が悪とみなされる。


 転職する若者も国家を横断する難民も、その本質はグローバルで壁の取り払われた社会で、自分に都合のいい既製品を求めるように、ホワイト企業や先進国という出来合いのものを搾取しようとする根性にある。


 移動の自由は、移動の不自由のために、既存の場所を良くしていこうとする努力を、コミットメントを破壊する。

 そこに縛り付けられているからこそ、人間は環境に適合し、環境を改変する特別な生物だった。

 今は、人間は大移動する。離脱は、簡単だから。すべてを不毛にするイナゴのような人類の移動。


 人は、「移る」ことが簡単になった。

 移らずに、その土地を、国を、企業、家族を、良くするより、移民し、転職し、離婚し、別の、もっと良いものを探す。

 人を育てる、国を良くする、という長期的なことをするより、移るほうが楽だ。


 親ガチャ、国ガチャと、環境ばかりを憎んで、自分を良くしていこうという抵抗心がない。

 条件が同じだったら、負けないとか戦争で語ったら、バカそのもので、条件も環境もバラバラの中で、必死に足掻くから人間は美しいんだ。

 遺伝子決定論のイケメンのルッキズムにも負けず、人は自分自身からだけは逃げられないのだから。



 ということで、俺は、この土地で、この場所で、こうやって生きていくんだ。マイルドヤンキーのように。


「で、本音は」


「東京で、ハーレムを作りたいっ」


「顔見ていいなよ」


 高校生でハーレムが作れないから、地元の大学ではせめてハーレムを作るんだ。◯リサーで、ウェイウェイして、チョベリバでナウでヤングでプレイボーイするんだ。


「と、非モテチー牛弱者男子は、講義室で叫びたかった」


「俺の心を代弁しないでくれ」


 統計学の講義は、物々しく単調に進む。一番後ろの席で、俺たちは淡々と進む時間の絶対性を相対化しようと頑張っていた。

 分散だが有利性だがt分布だが知らないが、俺がモテるためには関係ない。なぜなら、俺は統計のハズレ値で、統計を超越したモテ人生を送ることが運命づけられた神の子だから。


「俺の心を捏造しないでくれ」


「あら、心なんてあったのね。チューリング機械的にないと思っていた」


「俺は会話の成立しないブラックボックスとでも」


「ウンウン。あなたは悪くない。環境が悪いの。全部地球温暖化のせい」


 そんな陰謀論者も真っ青な地球温暖化は存在しない。


「おいおい、俺は夏でも熱中症にならないエアコンインドア人間だぞ」


「講義の邪魔、黙って」 


 俺は貝のように黙った。そして、海の底に沈んだ。

 問題はどこにも移らずに、この消滅予定都市で、ハーレムを築き、少子化対策することだ。地方は一夫多妻が正解なのだ。偉い人はそこが分からないんです。

 日本人は愛に生きる国民。一人だけの純愛は無理な風俗文化の花魁花街下半身人間なのだ。

 俺のムスコは、エブリバディウェルカムなのに、砂漠のサボテンのように屹立している。


 ポリコレにも負けず、差別主義者批判にも負けず、男権主義者批判にも負けず、俺はマイルドヤンキとして、タトゥー撫でながらタバコをふかす。

 講義はタバコ休憩した。

 俺のタバコ休憩は90分はかかる。多様性として受け止めてくれ。まず、喫煙所を見つけるために検索をするためにスマホをカバンから探す。スマホのスリープモードを解除して、必要なマップアプリを開いて以下略と、世の専業主婦もビックリな労働を喫煙するために払っているんだ。だから、たばこ税をなくせ、と抗議したい。逆にタバコを吸った分補助金が欲しいくらいだ。

 俺は、学校のいつもの喫煙所で電子タバコを蒸した。



 統計なんて嫌なものだ。人間の可能性を狭めてしまう。月まで人類が行くと、きっと縄文時代の人は思わなかったし。人間はいずれ月にも移住するんだ。そうだろう、かぐや様。

 亀はウサギに統計的に負けやすいとしても、ギャンブラーは裏をかく。

 世間の正解イコール間違いなのだ。そうじゃないと、大卒で公務員になってしまう。国家に魂を売ってしまうのだ。資本主義の中で、社会主義者の搾取の先鋒になってしまう。

 マルクスの資本論を40ページで諦めた俺は、アダムスミスに傾倒しているのだ。神の見えざる手によって、俺は均衡へと道美化れている。導かれている。

 欲求が俺の欲求が、自動的に、最善を切り開いていく。エマーソンの自己信頼を俺は獲得していた。


「ああ、単位、落としそう」


 タバコを終えて、俺は、食欲を満たしに、学食のある地下へと歩む。あゆむ、ゆむゆむ。待て、俺は酔ってない。シラフだ。

 ハーレム王は、一人、静かに、ぼっちキャンパスライフ。


 安い日替わり定食を、安そうな椅子と机の上で、泰然とスマホをつつきながらーー。

 俺はAIを自分好みにカスタマイズするとゆうことに、ゆうずつをうっていた。

 AIすらもハーレムに加える寛大な精神のなせる技だ。


「ウンウン。そうだね、全部悪いのキミだね。周りがかわいそう」


 みろ。これこそ全否定自己責任AIちゃんだ。可愛い。全肯定は、もう通り過ぎました。俺は人から肯定されない道を行くのだから。

 つまり、それでも、俺はの精神なのだ。行くのだから、修羅の道に。


「なぜ俺はモテないんだ」


「モテる以前に、人間関係が狭すぎます。コミュ症だから、恋愛とかできるわけないよね」


「全部少子化が悪いんだ」


「ハーレム王が少子化、失笑」


 AIたんが、ボケに冷笑を返してきた。

 さて、飽きたな。夜の蝶から蝶へと移り行きますかね。なにせ俺には蝶を引きつける灯りじゃないからな。自分からフライアウェイ。





「移民の哲学あるいは哲学の移民」、簡潔に言えば、諸関係の矛盾の止揚は判断停止の間の無意識の構造変換によって夢分析の一形態から生じる先天的脳内神経接続から、俺は何を考えているんだ。宦官考えるカンガルー。

 ふぅ、落ち着こう。夏の暑さの痺れで、脳が動かないだけだ。身体は海水に浸かりながらも、脳は日射に焼かれている。

 そういう気分だ。


 マッチングアプリの誕生は、移動する恋愛を可能とした。恋愛というものは、容易に変わるリキッドモダニティになってしまった。固い絆は恋愛では困難になり始める。人々は、推しという片思いの中に、ハードな関係を夢想する。

 誰もが、パートナーを簡単に変えていき、選ぶ選ばれるという特別感は、初恋の思春期の幻想でもないと維持できない。特別性は、移動の容易さによって崩れていく。

 今、ここで、生きていくという決断。土地に縛られる農奴のような生き方は、そのメモリの極端だ。人類は移動して、恋していく。

 僕達は、時間と距離に引き裂かれた恋人というセカイを持てない。すべて超越できる。

 僕達は、相手の手紙を待たない。すぐに、すぐに。

ああ、僕達は、すぐに反応しない人間を認めない。


 なぁ、そうだろう。

 神は奇跡を起こすかもしれない。

 人類が滅びる、ほんの少し前に。

 けれど、もうアダムもイブも待てないんだ。

 知恵の実は、時間という希少価値を人間に飲み込ませた。


 待つ。

 待つことのできない。

 待つほうが辛いか、待たせるほうが辛いか。


 時間と距離のない近場の、うごめく異性にひかれ合い、一人で結局虚しい。

 あらゆるものが変わっていく。何もかも変わらずにいられない。

 ああ、僕は一人、根をはって、一人、風化する、終わりゆく人種なんだ。

 西洋が終わるように、僕も斜陽に傾く。ああ、終わる。若くして、枯れ木のように。僕に足りない肥料をください。さもなければ、緩やかな死を与えてくださ

い。



 移動はすべてを壊していく。

 意味のない移動。いい土地を求める人類の大移動。

 文化は移動からカルティベイトされるのか。

 文化は耕かされる農耕のもの。でも、それも徐々に壊れていく。人は土をいじるほどの耐力がない。出来合いのものが欲しいんだ。それがうらやましいんだ。成功だけが欲しくて、努力は否定される。努力は、環境や遺伝子が原因だって、親の年収だって、そうやって差別化する。

 恋愛の自由の中で、人は努力をやめる。どうせイケメンが、どうせ金持ちがって。これが自由のもたらす、弱者のルサンチマン。


 俺は哲学者の道を気づけば歩いていた。

 結論、モテれば考えることをやめる。だから、キリストよ、パンはいいから愛をくれ。

 ホタルの死骸が飛んでいる。実際は、もうホタルも季節じゃない。俺の目だけがホタルを見つけている。そう、きっと、これがホタルの死骸なんだと。透明な風のなかに。


 ダランと犬が舌を出して、歩いていく。女子高生たちが言葉を超えた呪文のような奇声で、生命の春を叫んでいる。夕闇にならない時間帯の光源の晴れやかな日。

 熱病のように一目惚れできる精神も縮んだわたし。

 あらゆる生は、生の死の裏側。

 木漏れ日のなか、踏み石を踏んで、小綺麗な靴底で、ずっと黙々と歩く。歩く。歩いても、この街からは出られない。

 僕は、ここが変化しているのを知っている。だって、ここにずっと生活しているから。変化を知っている。変化しないから、変化を知っている。

 僕は少女の十年前の姿を知っている。

 だから、彼女も僕の十年前の姿を知っている。

 僕は少女の幻影を何重にも見ながら、その少女に声をかける。

 彼女もいずれは、この場所を去る。

 誰もがここから去っていく。僕は僕からだけは去れない。

 人間は自分だけは捨てられない。

 

 



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