幻魔達の華 第十章 長い一日
かなりお久しぶりです。他の事をしていて遅くなりました。
今回はかなり長い一日の話です。去年の秋に何があったか考えるといろいろありそうです。
…そして、次の日は?
今回のエンディングは一本道です。
他とは違う理由があるからです。
誤字、脱字があったらすみません。
日曜日の朝になり結花はいつも通り天渡と雷黄の腕の中で目が覚める。
「おはよう、結花」
相変わらす天渡は低くて甘い声で挨拶をしてきた。
「…おはよう。今日の天気は?」
「一日中晴れだね」
雷黄が結花に伝えた。外はほとんど雲がない。
「…この天気で、たぶんどしゃ降りの雨でしょ?病院」
「あぁ。おそらく病院の周辺だけだな」
「…日曜日。って事は、お見舞いに来る人がまあまあいるかな。…天気が悪くなるなら外には出ないと思うけど」
結花が時計を見ると7時半位だ。
「先に朝ご飯だな。俺達は結花とのキスが先だがな」
天渡がキスをした後に雷黄がキスをしてきた。
そして結花の中に入った。
(…少しの間だが、結花が朝ご飯の間も一緒にいたいからな)
(…結花、今日の火爪先生や月詠先生の菓子折り。昨日予約したからな?)
「…ありがとう。じゃあ、一緒に行こうか?」
結花が台所に行くとトウが朝ごはんに卵のサンドイッチを食べていた。
「おはよう!結花さん!…お父さんはまだ寝てます」
「おはよう。トウ。まあ、昨日は仕事あったからね?」
結花が言うと幸恵は首を横に振った。
「…お父さん、昨日トウさんの写真を遅くまで起きて編集していたみたい。まあ、9時半になったら起こすけどね?」
「もう、熱入りすぎでしょ?」
結花がサンドイッチを食べているとテレビで今日の天気が流れ出す。
「…今日は晴れだけど、天気が悪くなるの?」
「病院の周りだけ、雷雨。水は雷を防げるけど、問題は怪異かな?動きは速いか、神経錯乱や麻痺させる怪異がいるはず」
「…気をつけなさいよ?」
「…うん。ごちそうさま」
結花が食器を片付けて部屋に戻るとトウが掌から球体を出した。
「…月の魔人セイがいると未来予知の力を妨げられますが、俺も見る事が出来ます。結花さん、また人質を使われて狙われるみたいですからね」
「…そうね、気をつけろって言って大丈夫とは限らないから」
幸恵が少し苦笑いをして言った。
結花が部屋に戻ると天渡と雷王がまた現れて座ると結花は二人の間に座った。
天渡が掌から光の玉を出すと翼が皿洗いをして護と勇吹が手伝っているのが映る。
「…この感じ、護の家かな?」
「…後は貴田さんと小林さんはまだ寝ているみたいだな。松江さんは写真の編集をしていて、志波さんが今日の病院の中のマップを見ている。土居さんは洗濯物を干していて、三瀬さんは昼から病院のお見舞いに行くから準備している」
「…まあ、疲れが出るよね」
「…確か、黒澤さん達と双葉さん達は体育祭だったかな?明日祝日だったから」
「…っ!行く!」
雷黄が体育祭の話をすると結花は立ち上がると慌てて服を用意しだす。
「結花、まだ時間あるから慌てなくていいぞ。まあ、早めに終わるみたいだけどな。今は短縮してやるみたいだから」
結花は着替えると暫く考えた後にまた二人に抱きつく。
「…どうしたんだ?結花?甘える時間がなかったからか?」
「今から俺が空間移動使ったり、雷黄にどちらかもう一方の写真を撮ってもらおうかと思っているからか?」
雷黄と天渡が言う。
「…全部。…でも、着替える前にもうちょっと甘えたかった、けど、絶対ダラダラしそうだから」
結花が言うと天渡と雷黄が軽くキスをした。
「…あんまり強めにキスをしたら残るからな?」
「さて、俺達も準備するか」
結花達が玄関に向かうと結花の靴が出されていた。
「…行って来るんでしょ?黒澤さんはご両親が来ていて、双葉ちゃんは秀雄さんが双葉ちゃんの鬼達といるみたい。まあ、秀雄さんとお父さんがいたらちょっとギクシャクしそうだし、私が行ったら双葉ちゃんも良し悪しみたいだから大人しく待ってる。雷黄さん、後で写真まとめて見せてね」
「はーい。結花、黒澤さんの方は俺が行くから双葉さんの方は天渡とな?」
「オッケー!よろしく!」
結花は天渡と一緒に双葉の学校の方へ、雷黄は雫の学校の方に行った。
双葉の高校の方は人がまあまあいた。結花達はすぐに双葉の父、秀雄が光鬼輝光や闇鬼公正を連れているのを見つけた。
「…結花ちゃん。久しぶりだね」
「お久しぶりです!来ちゃいました!こちらは私の光鬼の天渡さん」
「初めまして、天渡です」
天渡が軽く会釈すると秀雄も少し戸惑いながら会釈した。
「…結花ちゃん。兄さんとかは…」
「お父さんね。昨日会社に氷の精霊が暴れて巻き込まれて、寝てると思う。本当は仲間にした氷の精霊のトウの写真を夜遅くまで撮影したみたいでね?お母さんは留守番。双葉には良し悪しだからって言ってたけど、氷の精霊のトウは月の力で未来予知出来るから行かない方が良いって思ったのかも」
結花が説明すると輝光は雷黄がいない事に気がつく。
「…もう一人の方は?」
「雷黄は瞳から写真を撮れるから黒澤さんの方をお願いしました。黒澤さんも体育祭があるみたいなので」
「同じ日にあるのか?」
「大体日曜日が休日の人が多いですからね」
輝光に結花が話ながら天渡の方を見た。
「…林田さんや月ヶ宮さんのご両親って来てるの?分かる?」
「ん?林田さんのご両親は妹の朝子さんも分かるようにここから少し離れている場所にいる。月ヶ宮さんのご両親は暫くしてから少し見に来る位だな。黒澤さんのご両親は二瀬さん達のご両親と一緒だな」
天渡が掌から球体を出して結花達に見せた。
「…双葉の前の学校の友達のご両親かな?」
「そう。まあ、私は黒澤さんのお母さんしかあってないけど。双葉の友達だったって知ったのは後だった。…今思えば双葉や黒澤さんと違ってパートナーの鬼もいないし、今みたいにあんまりいろんな術も使えなかったのに無茶苦茶だったって反省しています」
それを聞くと秀雄は天渡の顔を見た。
「…結花ちゃんは終わったのかい?」
「いえ、今日は午後から麒麟退治でおそらく明日には終わります」
その言葉に秀雄は驚く。
「…結花ちゃん!無理に来なくていいんだぞ!」
「いやぁ、双葉の最後の高校の体育祭だし、来れるならね?天渡に甘えて連れてきてもらった」
結花の行動力の高さは賢一に似たのだろうか。結花に双葉が気がつくと少し恥ずかしそうにしたが、誠義と蒼真が寄り添ってこちらを見た。
それに少し秀雄がムッとする。
「うん。良い写真が出来たけど、秀雄叔父さんも嫉妬しちゃうね?」
「…まあ、大切な一人娘だからな」
「誠義には後で双葉さんを大切にするように言っておこう」
「蒼真にもな」
結花と秀雄の会話に輝光と公正が言う。結花がある程度写真を撮ると天渡は空間を開いた。
その先では雷黄と雫の母親、光希やその父親、要や透の両親がいたが、鬼の力を知らない光希以外の五人はギョロ目になる。
「光希さん、お久しぶりです。こちら、叔父の秀雄さんです」
「初めまして。いつも双葉がお世話になっております」
「お久しぶり。中村さん。秀雄さんも初めまして。雫がお世話になっております」
秀雄は会釈しながら空間の先の以前住んでいたのどかな町を目にした。
「…ちょっと行って来ますね?」
結花は空間をくぐって雫の高校の方に行った。
「…どちらから来ました?」
雫の父親が聞いた。
「私、出身は○○で、さっきの場所は△△の高校です。従妹の双葉が体育祭がありまして、こちらにも来ました」
その言葉でさらに驚く。それが普通だろう。光希は知っているので全く驚かなかった。
「結花、黒澤さん達はあそこにいるぞ」
雷黄が言う先には雫達がいた。結花が写真を撮ると要と透が手を振る。
「…中村さん、今日はお昼から忙しいって雫から聞きましたよ。あまり無理なさらないようにね」
「あっ!はい!…写真は後でポストに入れて置きますね」
雫達のクラスメイトも結花に手を振っていた。
以前ドーナツ屋に連れて行ったからだろう。
「…うん。結構写真は撮れたかな?すみませんね?そろそろ戻ります。お昼から出掛けないといけないので…」
「…月詠先生から少しお願いされるって星谷君が言ってたの。後でちょっと、調べた方がいいかもね?」
「…わかりました」
結花は光希に挨拶をすると天渡にまた秀雄の元の空間を開いてもらい戻って行った。
「…お母さん、あの人は?」
「あの人は以前ここに旅行に来た時に雫達にいろいろしてくれた美術大学に通ってるフォトグラファーの方よ。ちょっと、いいや、かなり変わっているし…。ほら、ドーナツ。あれをくれたのがあの人よ」
雫の父に光希は言った。
「あら、お礼を言い忘れた」
「私も」
要と透の母親も言った。
「後で私が言っておきます。…さっき雫達のクラスの子が手を振っていたのはあの子達もドーナツ貰ったみたい」
「あらー!そうなのー!」
光希と要、透は結花の話で盛り上がっていた。
結花が秀雄の元に戻ると雷黄もいた。
「秀雄さん、初めまして。結花の雷鬼の雷黄です」
「あぁ、初めまして。秀雄です。…結花ちゃん、どうかした?」
雷黄と秀雄が話している間、結花は球体を出して未来を見ていた。
そこにはバタバタと苦しむ病人の相手を翼と結花と月詠夫婦でやる場面が映された。
「…これは」
「忙しくなるって黒澤さんのお母さんから言われたけど、こういう事ね?ちょっと速めに病院に行った方が良いかな?」
「…黒澤さんのお母さんも不思議な力を使えるのか?」
「…使えるけど、たぶん、星谷君が言っていたって。月の力を持つ鬼じゃないかな。未来予知が出来るから」
「…へぇ。確か月ヶ宮君が月の鬼だったな?」
結花がいくつか写真を撮るが、双葉が蒼真から何か話をされると双葉が何か合図を送る。
結花がやり返すとカメラを下ろした。
「…双葉がそろそろ行けって合図してる。叔父さん、またね?」
「あぁ、気をつけてな?」
結花が手を振ると井川さんや木元さんや其田君も手を振っていた。
「…なら、戻るか?」
「…うん」
天渡に言われて結花は自宅への空間を開いて貰った。空間の先には幸恵の姿が見えた。
「久しぶりね、秀雄さん。写真撮影頑張ってね」
「あぁ。…久しぶり、頑張るよ」
結花が戻ると幸恵は落ち着いていた。
「お帰り、結花。お昼から忙しいから早めに帰ってきたんでしょ?良い写真は撮れた?」
「うん。今からまとめる」
「…お昼はさっと食べれるようにお素麺作っておくから。…トウさんがいろいろ教えてくれるから助かってる」
幸恵に言われてトウは少し機嫌が良かった。早速未来予知が役にたっているようだ。
「ありがとう、トウ。…じゃあ、天渡、雷黄。部屋に戻ろうか?」
結花は部屋に戻るとパソコンで写真の確認をした。
その横では雷黄が側にいた。
「…結花、必要ならコンビニエンスストアで写真の印刷をしておくぞ。後、メールで写真を送ったりとか」
「いける?お願いしようかな?天渡、後で連れて行ってくれる?」
「あぁ、任せろ」
「…一応、一通り双葉のクラスの子と黒澤さんのクラスの子の写真は撮った。二人共私が来たら写真を撮るのがわかっていたみたいだからすぐに友達と集まってくれたから助かった」
結花が二つ写真をまとめたフォルダーを作る間にグループチャットにメールを打ち込もうとすると翼達の書き込みが出る。
『今日、病院で患者さんの容態が悪くなるから中村さんと早めに13時に行きます』
『ごめんね!私が行こうって思った!他の人はそのまま15時前でよろしく!』
結花はメールを打ち終わるとまたアイフォンをポケットに直した。
結花はふと雷黄から少し熱を感じた。結花が気になって雷黄を見ると目が合った。
「…ごめん、気になった?今、写真のデータをまとめて写真を送っている。黒澤さんのお母さんと双葉さんのお父さんは気がついた。…天渡、コンビニエンスストアは五十嵐さんの家のちょっと先で頼む。他はコピー機を使ってる」
「あぁ、なら行くか」
三人はまた玄関に行くと翼から早めに病院に一緒に行くとメールが来た。そこにトウがやって来た。
「…結花さん。今から行くコンビニエンスストア、後で結花さんが欲しがるお菓子があるみたいですよ?後で売り切れになって手に入らなくなるとか?」
「…あぁ、なんか限定品のグミが出ているみたいだな?」
「え!めちゃくちゃ欲しい!」
「ははっ。なら買っておかないとな?」
天渡が笑いながらコンビニエンスストアへの空間を開けた。
結花がコンビニエンスストアに行くと雰囲気に違和感を感じた。
「…天渡、異空間のコンビニエンスストア作っただろ?助かる」
「結花、そこにあるグミ、全部カゴに入れていいぞ」
「え?良いの?」
結花はそう聞きながらグミを全部入れ込んだ。
「あー。其田さん、手に入らなかったみたいだな?」
雷黄は話しながら写真を入れる封筒に名前を書いていた。
「…雷黄、字が綺麗ね?」
「いや、コピー機と一緒で文字を写し書きしてるから」
少し時間が掛かるかと思っているとトウがやってきた。
「…トウ?どうかしたの?」
「あっ、幸恵さんが暫く時間掛かるみたいだからコンビニエンスストアがどんな所か見て来るように言っていたので来ました」
トウがそう言いながらカゴを取って商品を見て回っていた。
初めは見ているだけだと思っていたが、商品を入れて行っている。
「…トウ?…お金は…ある?」
結花は恐る恐る聞いた。もしかして、天渡に買ってもらうつもり?
「ありますよ。1万円貰って越えないように使うように言われました。お財布も借りました」
トウは黒色のお財布を見せて言った。男性物だ。
「…お父さんの使ってない財布かな?」
結花はトウが何を買うか気になって見ていると早速歯ブラシを買っていた。
それとクールボディーシートやガム、後はアイスクリームとキューブの氷を買ってレジに行った。
結花は初めはアイスコーヒーを飲むかと思ったが、違った。
いくつか荷物を袋に入れ、キューブの氷は蓋を開けてそのまま食べだした。
「え!氷をそのまま食べるの!」
「はい、美味しいです。やっぱり氷は不純物が少ないと美味しいです」
トウは氷をボリボリ食べていた。まあ氷の精霊っぽいと思った。
「…さて、終わった。結花の買い物が終わったら俺と天渡で黒澤さんと双葉さんに渡して来る」
「…結花。他に欲しいものはないのか?」
「うん。大丈夫」
結花は天渡とレジに向かって買い物を終わらせた。
結花の家に戻ると雷黄は雫の学校に、天渡は双葉の学校に行った。
結花がついでに限定品のグミを天渡にいくつか渡そうとしたら鏡みたいな空間で結花の持っているグミが大量に入った袋を映したと思うと同じものを作り出して半分雷黄に渡していた。
天渡の光鬼の能力はまだ知らないものが多そうだった。
「お帰り、結花。雷黄さんと天渡さんは写真を持って行ったの?」
「うん。今からご飯食べたら早めに病院に行く」
「…トウさんから聞いたわ。病院の患者さんの容態が悪くなるから早めに出かけるって。もうお昼ご飯作っているから」
「はーい。いただきまーす」
結花とトウが昼ご飯を食べていると天渡と雷黄が病院に持って行くドーナツや和菓子を持って帰って来た。
「ただいま、結花。今日持って行く菓子折り持って帰った。幸恵さん、一組は自宅の物です」
「あら?ありがとう、天渡さん。たまには天渡さんや雷黄さんも結花と一緒にお昼ご飯、どうかしら?」
「あっ!いただきます!」
雷黄が珍しく機嫌良さそうに言った。
「…少しでも『人間らしく』ですか?」
「…まあな、我らは人ではないが…結花は大切だ人間だ。主人だが、一人の女性としてな?」
トウに天渡が言った。
「…はい。お待たせ。…私は…お父さんもだけど、天渡さんと雷黄さんなら結花を大切にしてくれるから三人の事は応援する。まあ、結花は…あんまり力入れすぎないようにね?」
「…うん」
四人で昼ご飯を食べた後は結花は出かける用意をして13時前には出かけた。
「…結花は出かけたか?」
「ええ、出かけた。病院で亡くなる方がいるから、救いに。」
「…ほぼ正義のヒロインだな?…さてと、昼ご飯食べたら早めに買い物に行くか」
賢一は台所の席について幸恵と一緒に素麺を食べていた。
結花が病院に着くと翼達も同時に現れた。
「おはよう!ごめん!早めに呼んじゃって!」
「良いよ。俺の親父と月詠先生の患者だから。結構考え込んでたな…」
結花に勇吹が言った。
「え!勇吹のお父さんの患者さんなの!」
「昨日病院に交通事故で運ばれて、結構体力落ちてるみたい。…朝から慌てて病院に行くみたいだから、護の家にいたの。…ほら、勇吹のお父さん、来た。私は負のオーラが見えるようになったけど、大分疲れている」
翼が言って目を向けると頭を押さえてフラフラになる勇吹の父親を見つけた。
「…天渡、雷黄。負のオーラ、吸い取ってあげて」
「あぁ、分かった」
結花がこそっと天渡と雷黄に言うと結花が勇吹の父親に近づいた。
「火爪先生!久しぶりです!」
結花が声を掛けるとこちらを見た。勇吹がいるのでそのまま立ち止まっていた。
「お忙しい所すみません!以前お世話になった中村です!すみませんね?お礼の菓子折り持って来たんです」
「…あー。別に…。勇吹に渡していても良かったんですが」
勇吹の父親は少し不機嫌そうに勇吹に目をやった。
「あー、はははっ。直接渡したかったので。勇吹さんを余り責めないでくださいね?」
「あっ!こちらです!結花がお世話になりました!」
雷黄が然り気無く菓子折りを渡した。勇吹の父親はふと異変を感じたが、軽く会釈するとそのまま行ってしまった。
「…ガッツリ負のオーラ、食べてたな?」
「かなり疲れが溜まっていた」
護に雷黄が言った。翼達はちょっと引いていた。余程疲れが溜まっていたのだろう。
「…さて、行こうか?」
結花達はエレベーターに向かう。昇るとナースステーションには一人しかいなかった。が、結花達を見ると立ち上がる。
「っ!左の通路の透明なカーテンの奥です!」
「あっ、どうも」
左の通路の奥に硬そうな透明な分厚いカーテンがあった。
手前で透明な手袋をして中に入ると看護師が集まっている部屋があった。
中に入ると月詠夫婦がいた。
「…久しぶり、先生」
「中村さんか。助かったよ。紫織と俺に幻魔の力を送ってくれるか?」
「はい。…皆、力を送ってあげて」
結花が幻魔の石を出して二人に力を送る。
「…あぁ、これは酷いな。結構体の臓器が傷ついている」
雷黄の瞳の色が光る。
「…セキ、聞こえるか?この人の体の水分に癒しの力を乗せてくれ。…脳も損傷してるな」
「…治せそうか?」
勇吹が雷黄に言うと天渡が前に出てきた。
「…健全な状態と入れ替えるか。他に替えた方が良い臓器はあるか?」
「肺だ。血が入り込んでる」
雷黄に言われて指差す箇所に天渡が手を向けた。
「天渡さん、この患者さんの左足の膝から下も良いかな?血管が壊死している」
「足を替えたら良いか。…色が少し変わっているな?」
達弥に言われて天渡が患者の左足も替えていった。
「後は眼球。両方だ。視力がかなり落ちてる」
「…あぁ、濁ってるみたいだな。…替えたぞ?」
雷黄に言われて天渡が目元に手を向けて眼球を交換し終わると雷黄は結花と翼に目を向ける。
「…終わった。結花も市村さんももう良いよ。…月詠先生もお疲れ様です」
「…ふうっ、助かった。俺の力だけだと無理だったからな」
達弥は結構疲れている感じがした。が、それを見ていた周りの看護師はギョロ目だった。
暫くすると患者が目を覚ました。
「…橋下さん、目が覚めましたか?ここは病院ですよ?」
紫織が言うと橋下さんがコクコクと頷いた。
「自転車を運転していて意識が無くなって橋から落ちたんですよ。後でご家族が来ますからね?」
紫織は冷静に話すが周りの看護師はやはりざわついていた。
「…うへぇ。…月詠先生、後で親父に暗示かけて誤魔化して下さいよ?」
「あぁ、大丈夫だよ。…そろそろ三瀬さんのご家族が来るから行こうか?…紫織、後はいいか?」
「ここは私がやるから皆は行って。中村さん、市村さん。ありがとう」
紫織に言われて全員部屋を離れるがハイになった看護師は早めにナースステーションに戻って行った。
「…あっ、月詠先生。以前というか、今までお世話になったのでお菓子持ってきました」
「…いくつかレトルトのカレーとか雑炊を入れているので忙しい時に食べてください」
結花が荷物を渡す際に雷黄が言った。
「あぁ…。助かるよ。紫織は人間だから食事は取って欲しいからね。後、俺の負のオーラも吸い取っているみたいで」
「…え?どっちよ?雷黄?天渡?」
結花が言うと雷黄も天渡も舌を出して笑った。
「…結花。その二人だけじゃないぞ。結花の幻魔達、皆石の中から負のオーラを集めて喰ってるぞ?」
「なんだか、かなり場が浄化されているのが分かる。三瀬さん達が来たら驚くと思う」
護と翼が話しているとエレベーターから三瀬さんが家族と降りて来て周りをキョロキョロしていた。
「こんにちは、三瀬さん」
結花が声を掛けると三瀬さんの父親と母親が軽く会釈をした。
「…こんにちは、中村さん。…と…先生?」
「あぁ、こんにちは。中村さんと市村さんとは知り合いなんだ」
三瀬さんに達弥が言った。が、三瀬さんは結花に近づいた。
「…中村さん、病院に早く行くって書き込み見たけど、何かした?」
「…あぁ、患者さんをちょっと治療しに…。雷黄と天渡が…」
「結花の幻魔が病院を浄化した」
結花は軽く言うつもりだったが、勇吹は本音を暴露した。
「…勇吹、三瀬さんの家族の前で『幻魔』って言うなよ…」
「え…。あ…」
護が呆れて言うと勇吹は少し慌てた。
「…プッ!…まあ、中村さんの『患者さんを治療に』もちょっと違和感あるけど」
三瀬さんは少し笑って言ったが家族はまだ理解していなかった。
「…さてと、中村さん達に話してなかったけど、三瀬さんの妹さんが骨折して入院していてね。両腕と両足を骨折している」
「学校の階段から落ちちゃったのよ。妹はバスケ部だから長期入院になってかなりショック受けてね。頭痛いよ」
三瀬さんはため息をついたが、母親の方は泣き出していた。
「そんなに酷い怪我なんですか?先生?」
「結構折れていたよ。痛み止めを打っているが、辛いはずだ」
結花と達弥が話している中、雷黄がエレベーターの右側の手前を見ていた。
「…ナースステーションの手前二番目の部屋かな?」
「…当たり。雷黄さん、分かるの?」
「…手首、手と肘の間2ヵ所、膝の皿に足首か。ここから分かる。障害が残るんだろ?」
雷黄が言うと三瀬さんは顔を下げて頷いた。
結花はため息を出したが天渡が結花の背中をポンと叩いた。
「…天渡、さっきのすぐ後だけど良い?」
「あぁ、構わないよ。月詠先生は?」
「適当にごまかしておく」
それを聞くと天渡と達弥が先に行った。
「…中っち、もしかして…」
「…さっき、天渡が別の患者さんの脳と肺と目と左足を健康だった時のものに交換したの。たぶん、いけると思う」
結花が言うと三瀬が泣き出した。
「あぁ。我慢してたんだよね?もう大丈夫だからさ?」
結花が三瀬さんの背中を擦りながら言った。
「…さて、行こうか?」
結花は三瀬さんの妹が入院している病室に入った。
病室には手足が包帯が巻かれた少女が目に入る。
「…先に手を天渡さんに治療をして貰っている。血液が一気に流れると負担が掛かるからね」
「…セキ。ごめん、出てきて手伝ってくれる?」
達弥の説明を結花が聞くと青龍のセキを出した。セキは出てくると掌を向けた。
「…足は左側が酷いみたいだな?」
「なら左側からだな」
雷黄に言われて左側から足を元の足に替えていった。
「…終わったな。後は立ち上がる時はゆっくりで。少しリハビリは必要だが、良いだろう。後は紫織と俺で治癒の力を与えたら早めに退院出来る」
それを聞くと三瀬さんの両親は泣いて喜んでいた。
が、勇吹は微妙な表情だ。
「…後は火爪先生に負担が掛からないようにしておくよ」
「…はぁ、現代医学が鬼の治癒力に負けるなんてな…」
達弥が勇吹の肩をポンと叩いた。父親の事を心配しているのだろう。
「ありがとうございます!娘を治して頂いて!」
「あぁ、気にしないでください。」
三瀬さんの父親が天渡にお礼を言った。
「三瀬さん、腕は動かせますか?」
「動きます。足も大丈夫みたいですが?」
「初めは少しふらつくからゆっくり立つように。後は…明日にも退院は出来るが、スポーツは学校に行く初日は控えるようにね。まあ、救急車で運ばれているから学校の先生や部活の人も心配しているからね。ただ、診断書は書くから提出するように。無理しないようにしてください」
「はーい」
三瀬さんの妹は軽い感じに返事をした。
「さて、俺は他の患者さんの様子を見てくるが…麒麟が病院を襲いに来る時は病院に結界を張っておく。中村さん達には申し訳ないが、麒麟退治を頼む」
「はい、お気をつけて」
達弥は軽く会釈をすると病室を出た。
「…さてと、後30分したら皆が下に来るかな?」
雷黄が少し目を閉じて言った。
「…三瀬さんのお父さんとお母さんは暫く病院にいても大丈夫ですか?」
「…?大丈夫ですけど?」
三瀬さんのお母さんが言った。
「…中っち。麒麟ここに来るって言ってたよね?手伝う事、ある?」
「…たぶん、天気が大雨になるはず。正面は私達が怪異を倒すから、裏側を麒麟が現れるまで皆にお願いしようと思ってる。貴田君と松江さんは麒麟の映像撮るから屋上。だから、三瀬さんには防御の結界を張って貰おうと思ってる」
三瀬さんに結花が言った。
「…お姉ちゃん、麒麟って何?」
「ほら、最近変な怪奇現象が起こってるでしょ?あれ、悪い魔女が手下使ってやってるの」
三瀬さんが妹に説明した。
「えー!見てみたい!」
「ちょっと!危ないわよ!…律子も、大丈夫なの?」
三瀬さんの妹を静止しながら母親が言うと三瀬さんは水のバリアを張って見せた。
「私、中村さん達がいる時は少し違うの。…ちょっと、病院を守ってくる。少し待ってて」
三瀬さんが言うと天渡が一階までの空間を開いた。
「人数が多いからこれで行くか?」
「あっ!良いなぁ!お父さん!私!プリン食べたい!」
「全く、甘えだして。…ご一緒して良いですか?」
「良いですよ。行きましょうか」
結花達が一階に向かうと貴田さん達や小林さん達が見えた。
「おっ!中村達!終わったか!」
「終わった、終わった。あっ、こちら、三瀬さんのお父さん、奥の病室にいるのが三瀬さんのお母さんと妹さん」
天渡の空間の先に三瀬さんの母親と妹が見えていて軽く会釈をしていた。それに合わせて貴田さん達が会釈したが、小林さん達は少し不思議がった。
「…妹さん、酷い骨折だった?よね?」
「…天渡が治した」
小林さんに勇吹が少し呆れたように言った。
「…なんか、元気ないね?火爪さん」
「俺の親父、ここの先生だから。ほら、症状の回復期間がかなり変わるからさ」
土居さんに勇吹が言った。
「ただ、負荷が掛かるから少しリハビリとかが必要になる。体を部分的に健康な状態と『交換』したからな。土居さんのお母さんのように時間をかけて治せるならそっちの方が良い」
「…相変わらず、ぶっ飛んでるな?」
天渡に松江さんが言ったが、少し面白そうにしていた。
「…今日は病院の周囲から怪異が来るの。表側は私、裏側は市村さんと小林さん達、貴田さん達と松江さんは屋上で上から来る怪異を退治して」
結花が幻魔達を出した。
「…二人増えてるね?」
「あっ、白虎のクウと光の精霊のコウ」
『初めまして』
クウとコウは結花に紹介されて三瀬さんに挨拶をした。
「…さてと、天気が悪くなるから、幻魔の皆はバリア張ってあげてね?終わったらまたここに集合で」
「良い映像!撮っておくからな!」
「じゃあ、私達は麒麟が出るまで三瀬さん達といるから」
貴田さん達はエレベーターの方へ、翼達は裏側に行った。
三瀬さんのお父さんは残ってしまうと天渡が目を合わせた。
「三瀬のお父さん、売店の店員さん、言わないとスプーン渡さないみたいですから忘れないようにしてください」
「…あっ…あぁ…」
天渡が伝えると結花達は病院の表側に向かった。
「三瀬さん。体調はいかがですか?」
紫織が三瀬さんの妹の部屋に行く。
「…痛みは全くないです」
「点滴は外れてますね。こちらは戻しておきますね?」
紫織が持って行こうとすると体を起こした。
「…月詠さん。私、ちょっと病院の中を歩きたい」
「…紗夜!まだ包帯外したばかりでしょ!」
三瀬さんの母親が言うが、紫織はスリッパをベッド前に持っていった。
「…大丈夫ですよ。骨は治ってますから。少し手を貸しますから、ゆっくり立ってくださいね?」
紫織に言われて紗夜はゆっくり立ち上がる。
片方の足を動かすと少しふらついたが、歩行は出来ていた。
「…ちょっとカクついたけど、いける」
「ふふっ、中村さんに感謝しないとね?天渡さんは中村さんが命を吹き込んだから生まれたの」
「…っ!月詠先生!知ってるの!教えて!教えて!」
紗夜ははしゃいで言った。
「紗夜、あんまり看護師さんに迷惑かけたら駄目よ。…すみませんね?」
「いえ。…普通なら信じませんよね?こんな奇跡。…でも、お母さんもお父さんも夜に辛くなって泣いていたのは知っていますからね?」
紫織が言うと三瀬さんの母親は思い出して泣き出した。
「…月詠先生、って言うか、先生と看護師さん、夫婦でしょ?それに驚いてないから凄い力持っているんじゃない?」
「私はちょっと人の治癒力を高める事が出来るのと未来予知が少し出来る位よ?先生は私より強い力があるけどね?」
「え!十分凄くない?…お母さん、ちょっと行ってくる!」
紗夜は紫織と廊下に出た。それを見た他の看護師は驚いていた。
「…三瀬さん、大丈夫?足?折れていたでしょ?」
「大丈夫!歩ける!」
紗夜は元気よく言った。
「…さっきの続きね。中村さんは最近強い怪異に名前を付けたら自分の幻魔として使役する力を手に入れたの。その中で、中村さんの内なる力が雷の鬼になったのが金髪のお兄さんの雷黄さん。中村さんは少し前に鬼の頭領から光の石を貰ったの。その石が力を蓄えたのが天渡さんよ」
「えっ!凄い!…でも、鬼って怖いんじゃないかな?」
「…さっき、青龍のセキさんも見たでしょ?以前は魔女の手下で人の命を奪おうとする悪い青龍だったの。でも、今は中村さんが名前を付けて一緒にいて悪い幻魔と戦っている。中村さんって人が困っていると助けたくなるみたいなの。だから、中村さんの幻魔は皆少し似ているかもね?」
「…うん、なんとなく、分かる」
紫織が点滴を戻しに行った後にナースステーションを通ると他の看護師は驚いていた。
「…皆、ビックリしてるよ?月詠さんも他の人と違うの、わかっちゃうよ」
「ちょっといつもごまかしすぎたかな?…天気が悪くなってきた」
紫織が言い、紗夜が空を見ると黒い雲が広がった。
丁度紗夜の父親が戻って来た。
「…紗夜、大丈夫か?」
「うん!歩ける!…あっ!あれ!中村さん!」
紗夜が外を見ると結花と天渡、雷黄が見えた。
特に天渡と雷黄は髪が銀髪と金髪なのでよく分かる。
そして、雨が降りだした。
「…結花、雨が当たらないようにバリアを張っている」
「ありがとう。一応防水の靴を履いて来たけど、他の人は大丈夫かな?」
「青龍のセキが水を弾くようにしている」
「…なら、大丈夫ね?」
結花が上空を見ていると紫色の光や青色の鳥が見えた。
「…結花、紫色の光は『紫魂』。稲妻の力を持つ悪霊の怪異だ。青色の鳥は『雨鳥』。コイツも心臓がない水で出来た精霊の怪異だ。後は霧の怪異『人霧』がいる。触れたものの生物の体内の電気を狂わせる。あまり近づくなよ。最悪体が麻痺したり命を落とすからな?」
雷黄が説明した。
「…結花、怪異の説明は市村さんと松江さんがしている」
「…厄介な怪異ばかりね?病院にお見舞いに来た人が巻き込まれる前に倒そうか?」
白虎のクウと光の精霊コウが結花の前に現れた。
屋上では貴田さんが感知力を上げて周囲の怪異を確認していた。
「『人霧』って怪異。なんか幽霊みたいに無数に感じる。まあ、闇と相性は悪いな?包んで一丁上がり!」
黒い霧を貴田さんが出すと人型のものが消えていった。
「…大分慣れてきたな?」
「まあな?三回目だからな」
コクが言うと貴田さんは紫魂や雨鳥も包んで倒していく。
松江さんも負けないように光の波動を怪異に放っていた。
「…松江さんは写真はまだ良いのか?」
「もう少し怪異の数を減らしたいね?その他が集中して写せるから」
松江さんが横に並んだセイに言った。
(…フッ。少しは大人になったか?)
セイは少し笑みを浮かべていた。
その頃、セキがバリアを張りながら小林さん達が怪異に術を放って倒していた。
勇吹や護も術を使いながら怪異を倒していた。
「…結構、多いな?」
「遠くから結構低く飛んで来ているみたい」
護に翼が言った。暫くすると結花の方に強い気配を感じた。
「…麒麟が来たみたい」
「…後は私達で守るから行って!」
翼に三瀬さん達が言った。勇吹は少し心配したが、小林さん達の精霊や聖獣が幻魔になると驚いた。
「…ここは任せてくれ」
「…おっ、おうっ」
セイが勇吹に言うと四人は怪異に強い術を使い出した。
「…温存していたのかよ。って言うか、結花がいないのに幻魔になれるのか」
「まあ、小林さん達と数回戦って来ているからかもね」
翼が勇吹に言うと護と三人で結花達の方に行った。
麒麟は稲妻を纏いながら立っていた。
「…我が主に仇なす腑抜け共が。命を与えて貰った恩を忘れたか!」
クウとコウはその言葉に少し怯んだ。
「…ククッ!何を言っている?お前達はこの国の精霊や聖獣や魔人だった。それを使い魔にされたのがお前達だ」
天渡の言葉に結花が驚いた。
「俺達の使命は人間達の命を主人に捧げる事だ!その為に生まれた!命を狩るものだ!」
「違うな。それはお前の主人の魔女の意思だ。お前達の本当の意思ではない。…そして、結花の幻魔も他の幻魔とは違う」
麒麟と雷黄の会話は小林さん達にも聞こえた。
「…中村さんの幻魔は、自分の意思を持っている?」
志波さんが言うと幻魔達は四人の顔を見た。
「…あぁ、麒麟のやつ、恥ずかしい事を結花さんに聞きやがって」
コクは頭を掻きながら言った。
「…?何の話だよ?」
貴田さんが言うとセイが代わりに言った。
「…我らは自然界なら自然の意思、主人を持てば主人に従うものだ。だが、我らは…違う。我らは感情を持っている。自らの感情だ」
「…はぁ?…コクは確かにツンな所があるよな?」
「…フンッ!…松江。隆成には余計な事は言うなよ?」
コクが松江さんに釘を刺す。貴田さんはコクがツンデレな事をまだわかっていないらしい。
松江さんは苦笑いをしていた。
「…命って、簡単に誰かが奪って良いものじゃない。それは人でも幻魔でもね。だから、麒麟、あなたを止める」
「面白い!やれるものならやってみろ!」
結花が言うと麒麟はニヤリと笑って霧を出した。
「近づいたら人霧で痺れさせるってね。皆、幻魔化」
結花が言うと天渡、雷黄、クウ、コウが幻魔化した。
クウが風を起こして霧を吹き飛ばすが、天渡とコウは別の場所を攻撃した。
「…流石に霧で幻影を出していると分かったか?」
周りでは勇吹と護が紫魂と雨鳥を倒すがそれも幻影で居場所がバラバラだった。
「…流石に翼が位置を伝えてくれるけど、きついな」
護は土の妖術を高めて放っていた。
麒麟は雷雲を広めて空から落としたが、それを雷黄は受け止めた。
「ハハハッ!耐えれるか!鬼!」
麒麟が自慢気に言う中、天渡が掌に目玉を二つ出すと雷黄に軽くぶつけた。
「…っ!あぁあっ!貴様っ!俺の目をっ!」
「あぁ、見えなくなっただろ?」
天渡の目の呪いで麒麟の目が潰れた。だが、麒麟は霧を身に纏わせた。
「…クククッ!だが、これで周辺の気配が分かる!問題…な…」
麒麟は体に異変を感じた。護は周りが寒くなるのを感じた。
「…勇吹、護。善鬼化。結花の幻魔と一緒に麒麟を倒して」
『…おぉおおっ!』
勇吹と護が善鬼化して麒麟を攻撃した。麒麟は攻撃されると体を塵に変えた。
「麒麟のリュカ!幻魔の石になりなさい!」
結花が言うと黄色の石が掌に集まった。
空の雷雲が薄れていくと道路の上の空に浮く人影と結花の見覚えのある車にあった。
人影は結花に手を振ると降りて車の中に入り、車がクラクションを鳴らすと離れて行った。
「…結花。あれって氷の精霊か?」
「うん。トウだね。お昼にコンビニで氷買って食べてたかな。力をつけて助けに来るつもりだったんだ…」
護に結花が言った。
「…終わった?」
土居さん達が翼の作った空間移動の穴を歩いて病院の表側に来た。
「終わったよ!麒麟のリュカ!龍の鱗の鹿っぽかったから!」
「へえ…。…あっ、貴田さんと松江さん。コクさんとセイさんと一緒に屋上から空中浮遊して降りて来たかも?」
三瀬さんに言われて見上げるとコクとセイが貴田さんと松江さんを抱き上げて飛んで降りてきた。
「いやぁ!スリルあるけどゆっくり降りてこれて快適!快適!」
「当然だろ。下降の調整が出来るからな」
ご機嫌な貴田さんにコクが言った。
「エレベーターは使わなかったんですか?」
「あぁ、三瀬さんのご両親が降りてくるから。狭くなるからやめた」
志波さんにセイが言った。
「さっき紗夜ちゃんと紫織さんも入るように写真撮ったから。三瀬さんと中村さん、後でメールで写真送ってあげて」
「え?妹の名前、分かるの?」
「月の力かな?…後で送っとく」
松江さんはちゃっかり写真を取ったらしい。
遠くを見ると三瀬さんの両親が見えた為、三瀬さんが一言言って別れようとすると貴田さんが手を上げる。
「今日は何を食べるんだ!」
「…おいおい、また夕飯食べて帰るのかよ?」
勇吹が呆れるが、雷黄が口を開く。
「今日は中華のブュッフェだ」
「…日曜日だから、混んでるんじゃないか?」
「あぁ、空間分離するから俺達しかいないぞ」
護が聞くと天渡がすぐに言った。
「…ちょっと待ってて。私も行く」
三瀬さんは両親の元に行って話をすると戻って来た。
丁度結花のアイフォンにもメールが来た。紗夜も来たいと紫織に言ったらしい。
「…天渡。紗夜ちゃんも連れて行って良い?」
「構わないぞ?他に病院の看護師も何人かこっそり来るらしい」
「…もうやりたい放題だな」
勇吹はまた呆れていた。
天渡が空間を開いて中華ブュッフェの店を出すとやはり店員以外は誰もいなかった。
「…これは。病院の看護師さんが来た方が良いな。ちょっと怖いな」
「…あぁ、ちょっと、いや、かなり違和感があるな」
貴田さんと勇吹が困惑する中、広い席を取った。
天渡がまた空間の穴を作ると紗夜と病院の看護師がかなりいた。
「…へぇー。ってお客さん、いないね?」
「現実に似た別の世界だからな。ただ、食べ物は本物だ。好きに食べてくれ。皿は病院に持って行って良いが食べ終わったらこっちに持ってきた方が良い。残るからな。席は好きな所を使ってくれ」
天渡に言われて皆食べ物を取っていった。
「…あっ、結花。幸恵さんはトウが伝えているから夕飯の分も食べて良いぞ」
「そう?じゃあ、いろいろ食べようかな?」
結花もいろいろ食べ物を取って食べた。
「あー、良かった。暫く病院のご飯だったから。…私のお姉ちゃんっていつも美味しい物、食べてるの?」
「いつもじゃないよ。ちょっと前から時々?」
紗夜と律子が話し合っていた。
「あぁ!美味い!フカヒレ餃子をかなり作って持ってくる!」
「本来はほとんど出さないらしいからな。大量に用意させた」
貴田さんがバクバク餃子を食べていた。
「…明日は、黒幕の魔女との対決ですか?どこに出るんでしょうか?」
志波さんに言われて翼と月の魔人セイや松江さんが球体を出して未来を映そうとするが、黒い空間しか映らなかった。
結花が球体を出すと微かに映った。
「…これ、お姉ちゃん達の美術大学じゃない?」
「…大学か。たぶん15時か?明日は月曜日だけど祝日だからあんまり学生は来ないと思うが。用心しないとな」
紗夜と松江さんが球体を見ながら言った。
「見て見て!ワッフルとクレープ作っちゃった!」
小林さんと喜田さんがデザートを持って来て言った。
土居さんはタッパーにいろいろ入れて持ってきた。
「お持ち帰り出来たから。お母さんの分、持ってきた。天渡さん、看護師さんは何人か使い捨ての容器に入れて持って帰っているからある程度したら終わると思います」
「…まあ、家の子供に持って帰る人もいるみたいだからな。休日に働いているんだ。それ位褒美があって良いだろう」
結花のアイフォンにもメールがある。両親からフカヒレ餃子をお土産によろしく、だそうだ。
「…私も、持って帰ろうかな?勇吹や護は?」
「…行って来たら?」
翼が二人に後押しした。
「…あぁ、行ってくる」
護と勇吹も結花と一緒に行った。
「…あの二人は…、中村さんの…」
「…友達以上、恋人は私。だから、複雑なんだと思う。結花の恋人は天渡さんと雷黄さん」
紗夜に翼が言った。
「複雑だな、市村」
「うん。でも、私にも友達以上だから」
翼が球体を出すと塵になる翼の前で泣く結花が映る。
「…これ…市村さん!?」
「…そう。前に黒澤さんが、結花が助けた子がもし結花がいなかったら、死んでいたと言ったけど、初めは私が死んでいたみたい。私がいなくなって、結花はショックだったみたい。私は…結花のお陰で生きている…」
小林さん達は結花達を見た。
「…明日でやっと、終わりかな。護、勇吹にはいっぱい手伝って貰ったね?ありがとう」
「…何だよ?いきなり?」
「…いやあ…、いろいろ拗ねたり迷惑かけたなって思って…」
結花が照れながら言った。
「…俺も拗ねたから、いろいろごめん」
「…うん。最近さ?昔の事を、…って一ヶ月ちょっとだけどさ?二人が私の事で悩んでいたの、見ちゃった。でも、黒澤さんや双葉の事で助けてくれて、今も私の事を助けてくれてるからさ。お礼、言いたかった」
「…うん。これからも皆と一緒だよ」
結花達が戻ろうとすると看護師さんが天渡と話していた。
「天渡さん!ご馳走様!私!もう少し頑張る!」
「一応、明日には退院出来るらしいな?気をつけてな」
「はーい!」
紗夜は天渡に言うと病室に戻った。
天渡は小林さん達の家までの空間を開いた。
「天渡さん!ご馳走様!明日も頑張りますから!またお願いします!」
「またじゃなくて明日もだろ?また明日な」
だんだんブュッフェ会場は静かになった。
「…結花、明日、だね。…私は、死んだ未来もあったみたい。…結花は…死なないでね?」
「…うん。大丈夫!無理しないから!…また明日も、お願い」
「…うん。まかせて。また明日ね」
翼達はバラバラに帰った。夜は勇吹の家に集まるらしい。
結花も自宅に戻った。
「…ただいま」
「お帰りなさい。お風呂、沸いているから。お風呂から上がったら、…リュカさんだったかな?ご飯、持って帰ったでしょ?中華スープは用意するから」
「ありがとう。じゃあ、お風呂入ってくる」
結花は軽くお風呂に入って、着替えると台所に行った。
結花が麒麟のリュカを出すと金髪の男性が現れた。
「…結花さん、今日は暴言を吐いてすみませんでした」
リュカは丁寧に謝った。
「うん。いいよ。病院の人も亡くなってないから」
結花が言うが幸恵は不思議がった。
「…珍しいわね?『結花さん』って言った」
「はい。幻魔達が皆『結花さん』だったので、それが良いかと思いました。夕食、ありがとうございます。いただきます」
リュカは両手を合わせて言うと食事を食べ始めた。
『賢い!』
結花と幸恵が言うとトウが少し拗ねていた気がした。
「俺も賢いです!」
「あっ!ごめんね!今日はありがとう。…お母さんも聞いていた?」
「そうよ?結花を助けに行きたいって?」
話していると奥から賢一がぎこちなくやって来た。
「…あのぉ、リュカ君?今度、時間があれば写真を撮りたいんだが…」
「良いですよ?」
リュカが言ったが、結花は不思議に思った。
「…結花。明日は双葉ちゃんや黒澤さん、市村さんを巻き込んだ魔女と戦うんでしょ?今日はリュカさんと一緒にいてゆっくり休ませてあげなさい」
「…そうよね?後で一緒に行こうか?トウもね?」
『はい!』
リュカが夕食を食べ終えると二人を幻魔の石に戻した。
「天渡さん。餃子、いただきます」
「はい。明日は結花をしっかり護りますから。任せて下さい」
天渡と雷黄は幸恵に会釈をすると三人で部屋に戻った。
部屋に戻ると明日は雫や双葉も来るらしい。雫はまた一時的に辰夜を連れて来るらしい。月詠先生からは天津の闇鬼と昔の氷鬼が手助けに来るとメールが送られてきた。
「…結花!明日は頑張ろうな!」
「うん!…」
「…眠くなっちゃったか?そろそろ寝ようか?」
「…うん」
結花は雷黄に言うと天渡と三人で布団に入った。
…その夜、夢を見た。
周囲を見回すと善鬼達が苦しんでいた。
見た事がない鬼が二人いた。恐らく、彼らが闇鬼と氷鬼だろう。ただ、他の鬼とは姿が違った。
(…この二人の鬼は…善鬼じゃない。幻魔に近いかも…)
「…ホホホホッ!やはり、お前達は力が足りないな?私に逆らうなら消えるが良い!」
魔女が黒い力を放った。
「…結花!」
天渡が結花を謎の空間に入れた。そこは日本のどこか遠くの県だろう。
だが、黒いドーム型の衝撃が見えると結花を飲み込んだ。
(…あぁ、負けたわ。…違う。お父さんもお母さんも、翼達も黒澤さん達も双葉も、皆、殺されちゃった…)
結花がぼんやりしていると何かが巻き戻された。
そこには双葉が映る。だが、何かが違う。
(…黒澤さんが…いない?)
結花が気が付くと火鬼の朱馬に切り殺される双葉が映った。
それが更に巻き戻されると今度は雷鬼の重蔵に切り殺される雫が映った。
また時が巻き戻されると翼が闇の九尾の狐に倒されて塵になるのが見えた。
「…物語は、一つじゃない。いくつにも分かれているかもしれない」
後ろから結花の声が聞こえた。振り返るとローブ姿の結花がいた。
「…私が…もう一人?」
結花は不思議そうに見ていた。
「…あなたは…このままでは全てを失う。自分も、知っている人も全部」
「…なら、どうしたら良いの?」
「…あなたは私と同じ力を持たないといけない。今までは不安定だったけど、確実な力を」
「…今まで、皆、何か力を持っていた。翼は九尾の狐、黒澤さんは水の巫女、双葉は命の巫女。…私は?」
「…プロフェート…預言の力…」
今回は結花の内なる力が分かりました。
垣間見えるバッドエンドは日本の終焉で、誰もいなくなる未来でしょうね。
実は地味に番外編がYou tubeで先の未来の様々なサブキャラクターの曲があったりします。
この投稿が四月、雫や双葉のクラスメイトは卒業してバラバラに。
きっと切なくなったりしますね。
そんな曲です。
次回は結花の戦いの最後、そして、進む未来の先は?
次回に続け。